黒斑山に登り、小諸の中棚荘でりんご風呂に浸かる温泉登山

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ひとり気ままに山と温泉を楽しむ温泉登山。登山前後に泊まりたい至福の温泉宿を紹介します。第1回は、黒斑山スノーシューハイキング後に向かった、長野県小諸市の中棚荘です。

写真・文=月山もも

浅間山の外輪山である黒斑山は季節を問わず登山者に人気の高い山ですが、私は冬に登るのが特に好きです。

冬になると登山口行きのバスは運休してしまうことが多く、公共交通機関を利用して登山をすることは難しくなります。ですが黒斑山の登山口の「高峰高原」までは、佐久平駅・小諸駅から1年中バスが運行しているため、首都圏から当日の早朝に出発して日帰り登山が可能なのです。

 

黒斑山山頂から見る浅間山

 

高峰高原から黒斑山に登る道は冬でも歩きやすく、積雪の多い時期ならスノーシューハイクも楽しめます。黒斑山の山頂から眺められる、雪のついた浅間山が青空に浮かび上がる姿は何度見ても惚れ惚れしてしまいますね。

高峰高原に下山した後はバスで小諸に向かいます。小諸にはいわゆる「温泉街」はありませんが、市内にはいくつかの温泉宿が点在しています。今日はそのうちの一軒に宿泊する予定なのです。

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小諸駅でバスを降り、駅から15分ほど歩いて「中棚温泉中棚荘」にチェックイン。宿のホームページには「駅から徒歩20分少々」とありますが、山歩きに慣れた人ならそんなにかかりませんので、散歩がてら歩くのがおすすめです。

中棚荘は令和2年に創業122周年を迎える老舗の温泉旅館で、宿泊したのはその名も「大正館」という、大正時代に建てられた歴史ある建物。隅々までピカピカに磨きあげられており、お部屋にはこたつもあって暖かく、とても快適です。
 

 

そしてなんと、水道の蛇口からは飲用水として温泉水が出るのです。口に含むとほんのりと温泉のいい香りがする水を湯沸かしポットに入れて湯を沸かし、お茶を淹れてまずはこたつで一休み。
ホッとしたところで、いざ、お風呂へ!

中棚荘は「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき」で始まる「初恋」で有名な島崎藤村ゆかりの宿でもあり、そのことにちなんで10月から5月の間、内湯の湯舟にりんごを浮かべる「初恋りんご風呂」が楽しめます。
 

 

ほのかにりんごの甘酸っぱい香りを感じながら温泉に浸かると、山歩きで疲れた体が徐々にほぐれていきますね。

内湯であたたまった後は露天風呂へ!

頬に冷たい冬の空気を感じ、遠くの山並みを眺めながら、心ゆくまですばらしいお湯を楽しみました。

 

 

お風呂あがりはやはりビールが飲みたくなり、喫茶コーナーでビールを注文しました。小諸のお隣にある東御市で醸造されているオラホビールのゴールデンエールです。
 

 

山を歩いてきた後だからでしょうか、風呂上がりのビールがいつも以上に染みますね。館内がとても暖かいので、冬だというのにビールがおいしくいただけるのがうれしい……。

そして、ビールの後は部屋のこたつでだらだらと、夕食までの時間を過ごします。この時間が既に至福のときです。

そうして待ちに待った夕食では、さっきビールは飲んだので……ということで1杯目から日本酒を注文してしまいます。

中棚荘では、小諸市内の酒造が作る「浅間嶽」や、島崎藤村にちなんだ「夜明け前」など、信州の地酒を利き酒セットで気軽に楽しむことができます。一人で泊まるときは、いろいろな種類のお酒を楽しむことが難しいのが悩みどころなので、利き酒セットがあるのはとてもうれしいポイント。

今回私は、期間限定で提供されていた「本菊泉 華酒 しぼりたて生」と「槽取壱番(ふなどりいちばん)純米吟醸」の利き酒セットを注文しました。どちらも冬の新酒で、フレッシュな味わい。スイスイ飲めてしまいます。
  

 

信州サーモンのお造りや「大王岩魚」なる大きな岩魚の朴葉焼き、その場で焼き上げる信州牛の陶板焼きなど、信州産食材をたっぷりと使ったおいしい料理をいただきつつ、信州の地酒を楽しみます。そして最後は、食事が始まると同時に火を入れて、その場で炊き上げた舞茸の炊き込みご飯で〆!

炊き込みご飯の具材は、秋は栗、夏はとうもろこしと季節によって変わると聞き「次は別の季節にも泊まろう……」と、デザートの林檎のコンポートをいただきつつ、心に誓うのでした。

翌朝は、朝風呂に入ってすっきりと目が覚めたところで、朝食をいただきます。

「切り干し大根」「パプリカの煮びたし」「りんごのぬか漬け」など野菜たっぷりの色とりどりのおかずや、焼き魚のかれい、温泉卵など品数も豊富で食欲がわいてきました。
  

 

ご飯はもち麦を混ぜて炊かれており、とろろをかけて麦とろご飯にしていただきます。思わずお替わりしたくなるおいしさですが、たくさん食べても体に良さそうなメニューなのがうれしいですね。

部屋に戻り、もう一度お風呂に入ってぎりぎりまで宿での時間を満喫しました。中棚荘のチェックアウト時刻は11時なので、朝食後もゆっくりお風呂に入れるのです。

チェックアウト後は小諸駅へ。駅からは浅間山の美しい姿が今日も見えています。いつも冬にばかり登っている黒斑山だけど、中棚荘に別の季節にも泊まってみたいから、今度は夏に登ってみようかな?と、次のひとり温泉登山の計画に思いをめぐらせるのでした。

(取材日=2019年12月下旬)

*掲載情報は、取材時の内容です。

中棚荘

明治31年創業で、文豪・島崎藤村にゆかりがある老舗旅館。温泉はアルカリ性単純温泉。日帰り入浴もあり。

料金:1泊2食付き1名/1万5400円~ *記事中の紹介プランは信州牛の陶板焼付1万7380円~
住所:長野県小諸市古城中棚
電話:0267-22-1511
HP:https://nakadanasou.com

 

プロフィール

月山もも

山と温泉を愛する女一人旅ブロガー。山麓の温泉宿を一人で巡るうちに「歩いてしか行けない温泉宿」に憧れを抱き、2011年から登山を始める。ゆるハイクから雪山登山まで、テントも一人で担ぐ単独登山女子。 ブログ「山と温泉のきろく」https://www.yamaonsen.com/に、温泉と登山のすばらしさについて綴っている。山と温泉に魅せられる人を増やすことが、人生のよろこび。著書に『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA)。

ひとり温泉登山

山と温泉を愛する月山ももさんによる月1連載。登山前後に入りたい極上の温泉宿をご紹介します。

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