これからの登山情報収集術 第3回 ガイド著者・星野秀樹さんに聞く、頼れるガイド本作りの背景

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

初心者にとって頼りになるグレードという情報

ライター吉澤:著者として考えられるガイド本を読むメリットは他にもありますか?

星野さん:一般的なガイド本には各コースにグレードが記されています。これは本ならではの情報といえるでしょう。『剱・立山連峰』だと、初級、中級、上級、上級+の4つがそれにあたります。グレードは特に初心者に役立つ情報で、例えばクライミングにしても課題にグレードが付いているから誰でも楽しみながら経験を積める。それがなかったらどこから登ればいいか分からないですよね。

ライター吉澤:経験を積めば地図からでもコースのレベルをイメージできるようになりますが、初心者はそれができない。最初の足がかりとしてグレードは欠かせない情報なのですね。

星野さん:各グレードの基準は主に出版社が決めますが、どのコースにどのグレードを付けるかは、ある程度著者に任されています。そのため、ガイド本を見れば全てのコースを歩いた著者が判断した相対的なグレードを知ることができる点がポイントですね。

ライター吉澤:ネットにもグレードを記載した情報がありますが、誰が何を根拠に決めているのか分からないものも多いですね。その点、ガイド本だとグレードを決めているのは著者だと明確に分かるので、情報の質は高いといえそうです。また『剱・立山連峰』の説明を読むと、初級だと「標高2000m前後の登山コースおよび宿泊の伴う登山の経験がある人に向くコースです」と書かれているので、これを参考にすれば各コースのレベルがイメージできるわけですね。

星野さん:とはいえ、少し話が逸れますが、グレードを付けるときはコースのレベルを体力と技術だけで判断するのは難しいと感じています。例えば別山尾根みたいに岩場があって技術的に難しいコースでも、よく整備された登山道で登山者の数も多いと、事故があれば助けを求めやすいし、ある意味では危険じゃなかったりする。それよりも、岩場はないけど人気が無くて道に迷う箇所が多いコースの方が危険だし、難しいと思うこともある。登山の難易度は体力や技術だけでは計れないものがあるので、それも盛り込んだ体系的なグレードがうまく作れないか、いつも考えてしまいますね。

『ヤマケイ アルペンガイド 剱・立山連峰』より

 

登山計画の中心にある資料として使ってほしい

ライター吉澤:最後に、本離れが進む世の中ですが、これからはガイド本をどのように活用してもらいたいですか?

星野さん:安全な登山計画を立てるとき核になる資料として使ってもらいたいです。必要な情報はちゃんと書いてあるので、ガイド本を中心に据えて、じゃあ最近の状況はどうなっているのか調べるためにインターネットに派生するとか。初心者の方にこそ読んでもらいたいですね。

それとは別に、パラパラとも眺める使い方もありです。行きたいコースだけを調べるのもいいですが、エリア別にまとめられたガイド本なら山域の概念を把握できるし、これが安全登山に役立ちます。さらに、目的のコース以外にも「こんな写真があるけどこれはどこだろう?」という発見もあると思う。インターネットでも新しい気づきはありますが、本の方が瞬間的に出会うことができるはずです。

ライター吉澤:ガイド本が山に興味を持つ入口になるといいですね。

星野さん:そういう意味では読み物として山に行きたくなるような本があってもいい。時に情報は山の楽しさを奪ってしまいますから。余韻が残って、山に行きたくなったらいよいよ情報を集めはじめる、山に誘うようなものこそ本当のガイド本なのかなとも思います。

 

まとめ

・ガイド本は時間や危険箇所などの情報を過不足なく取得できる
・最新情報は得られないが、季節を限定せずにコース概況を把握可能
・初心者にとってグレードは貴重な情報
ガイド本について改めて考えてみると、登山をはじめたとき何度もグレードに頼ったことを思い出しました。初級コースを調べて、中級・上級コースに憧れて、そうやって目標を作りながら山に登ったものです。ガイド本はコースの概況が分かる資料ですが、着実に経験を積んでステップアップする道筋を標してくれる存在でもあるのではないでしょうか。

聞き手:吉澤英晃

大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

1 2

プロフィール

星野秀樹

1968年生まれ。同志社山岳同好会OB。ヒマラヤなどで高所登山の経験もあり。1999年からフリーランスとして独立し山岳雑誌などでカメラマンとして活動するほか、著書に剱・立山をテーマに取材を重ねた『剱人 剱に魅せられた男たち』(山と溪谷社)など。

安全登山について考える。これからの登山情報収集術

登山を安全に楽しむためには情報収集が欠かせません。今や情報はインターネットから入手するのが当たり前の時代。書籍や雑誌という紙媒体も存在しますが、本を読まない、インターネットだけで充分、という方もいるでしょう。しかし、インターネットの情報だけを鵜呑みにするな、という意見もよく耳にします。なぜインターネットの情報を信じてはダメなのか? 書籍や雑誌はもう役に立たない? 全4回に渡るこの連載では、ITジャーナリスト、山岳ガイド、書籍の著者の方々に話を聞きながら、安全に山を登るための情報収集の方法について、改めて考えていきたいと思います。

編集部おすすめ記事