春を告げるフクジュソウの大群落。熊本・仰烏帽子山

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フクジュソウ(福寿草)の大群生地で知られる熊本・仰烏帽子山(のけえぼしやま)。日差しが温かくなったら、山へ春を探しに行ってみましょう。

 
山には雪が残るものの、少しだけ日差しの温かさを感じ、梅の便りも届き始めると熊本南部球磨郡五木村の仰烏帽子山の情報が気になってきます。

市房山、白髪岳とともに球磨三山の一つで、「のけえぼし」という変わった山名は、見る方向により兜が後に傾いたような山容が由来だという説があり、地元では「のけぼしやま」と親しみをこめて呼ばれています。

平家の落人伝説が残る五家荘・五木村など以前は秘境と言われた山深い場所にあります。山麓一帯は植林が進んでいるものの、稜線や谷筋には自然林が残り新緑や紅葉も美しい山域です。中でも、春を告げるフクジュソウの大群生地で知られ、早春の山歩きには欠かせない山の一つです。

花の時期はたくさんの登山者が訪れます(写真=池田浩伸)
 

モデルコース:第2登山口~仰烏帽子山~兎群石山(往復)

行程:
【日帰り】第2登山口(40分)三差路(15分)仏石分岐(40分)仰烏帽子山(10分)兎群石山(50分)仏石分岐(10分)仏石(35分)三差路(40分)第2登山口(計約4時間)

熊本・仰烏帽子山(1302m)に咲くフクジュソウ

八代方面から五木村の中心部へ向かう県道25号線沿いの元井谷橋から車で南へ数km、曲がりくねった林道相良五木線を登った場所に第2登山口があります。途中に第1登山口がありますが、こちらの登山道は豪雨によって被害を受けたあと、次第に歩く人が減り経験者向きのコースとなっています。フクジュソウの鑑賞目的であれば、緩やかな道が群生地まで続く第2登山口からのコースがおすすめです。

緩やかな登山道が群生地へ続く第2登山口(写真=池田浩伸)

 
25台ほどの駐車場が整備されていますが、シーズン中はすぐにいっぱいになります。標高1100mの登山口からは、雲海に浮かぶ山並みが印象的です。

「ようこそ仰烏帽子山へ」の看板から登山開始です。登り始めてしばらくした植林の中で、シモバシラにできる“氷の花”を見つけたことがあります。地中の水分が柱状に凍結した“霜柱”ではなく、シモバシラという植物の枯れた茎から水分が染み出し、茎の周りに柔らかくカールした“氷の花”ができるもので、雪が降らずに気温が氷点下まで下がった日などにできる珍しい現象です。

運良く、氷の芸術・霜柱の花にも出会えた(写真=池田浩伸)

 

道が植林から冬枯れの自然林へと変わると、フクジュソウ群生地がある仏石と山頂への三差路になります。フクジュソウはキンポウゲ科の植物で、花弁に陽の光を集めその熱で虫たちを集めるので、日光が当たらないと開いてくれません。満開のフクジュソウを見るのは午後からにして、まずは山頂を目指します。

仏石分岐では、右から第1登山口からの道が合流します。苔むした大きな倒木がある広場で、谷筋から鞍部に出て視界がひらけるので、私はここを休憩ポイントにしています。ここから稜線までは概ね平坦な道を登っていきます。途中には、石灰岩に根を張った2本のブナの木があり幹の太さに驚きます。

稜線に出る前にある岩を抱いたマザーツリー(写真=池田浩伸)

 

風穴を過ぎ稜線に出て最後の短い急斜面を登りきれば360度の展望の仰烏帽子山頂です。市房山や白髪岳、空気が澄んでいれば桜島も見えます。見える山がたくさんありすぎて山座同定に時間を使ってしまいます。山頂展望もさることながら、もう1ヶ所おすすめの場所へ行ってみましょう。

市房山方面。標高1300m級でこの展望は素晴らしい(写真=池田浩伸)


来た道を少し戻ると南に伸びた尾根上にはっきりとした踏み跡があり、数分で兎群石(とむれいし)山と名付けられた開けた場所にでます。たくさんの露出した石灰岩が、ウサギが群れているように見えるからだそうです。風が強い日や山頂が混雑していたらここがおすすめです。

山頂から数分の場所にある兎群石山。露出した石灰岩が兎が群れ遊んでいるように見えるからだそう(写真=池田浩伸)

 

仏石分岐まで戻り、斜面を横切ってクサリ伝いに下ると仏石のフクジュソウ群生地です。残雪があっても春の日差しを浴びて輝いている姿に感動します。登りに通過した三差路まで春の妖精たちの群生は続きます。一帯はグリーン・ロープが張られた保護区域になります。ロープ内に立ち入ることなく健気に咲くフクジュソウを楽しんでください。

仏石の群生地付近では蕾もたくさん見かけました(写真=池田浩伸)

 

帰りは、五木道の駅近くに温泉もあります。標高が高く路面凍結の恐れもあります。五木村のホームページ(https://www.vill.itsuki.lg.jp/)で道路情報・開花情報を確認できます。

 

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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