アイゼン・ピッケルを付けた登山では保険の対象外!? 損保特約型の補償範囲について

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登山者が知っておくべき保険の知識を、余すことなく解説する「知らないと損する山岳保険の知識」。遭難時の捜索や救助費用がカバーされる保険=山岳保険には、どんなタイプがあるのでしょうか? 保険の雑学を交えながら、保険の実際を「やまきふ共済会」の井関純二氏が徹底指南します。

 

前回の記事では、山岳保険とは「遭難時の捜索や救助費用がカバーされる保険である」と述べましたが、具体的にそうした保険には、どういうものがあるのでしょうか。

★「山岳保険」という保険商品は存在しない!? 知らないと損する山岳保険の選び方

1つは損害保険会社が扱っている傷害保険の特約でカバーするタイプ(以後「損保特約型」)があります。短期間のものでは国内旅行保険の特約にも、このタイプの保険があります。

余談になりますが、「〇〇の山岳保険」や「△△の登山保険」という形で販売している保険商品は、〇〇や△△という会社が損保会社の代理店などになっているだけであって、実際の中身はそれぞれの引受損保会社の保険商品になっています。

このため、これらの保険は正確には「Aという損保の傷害保険に、〇〇や△△を通じて契約した」ということになります。〇〇も△△も、引受の損害保険会社が同じであれば、設定しているプランなどが違うだけで実は同じ商品なのです。

ここは、勘違いしている人が多いようですので、パンフレットなどをよく確認してみてください。

 

保険によって、必要としている遭難時の補償に大きな影響を与える!?

それでは、損保特約型について説明していきます。この保険の主契約は、ケガによる死亡や入院などを定額で補償することです。例えば「傷害死亡500万、入院日額3000円」などという内容で、病気は対象外となります。

また病気だけではなく、登山者にとってはケガについても対象は限定的となります。

山岳保険について多少知識がある人であれば「アイゼン・ピッケルを付けていると保険金が出ない――」という話を聞いたことがあるかもしれません。

傷害保険は一般的な日常生活や仕事をしている人を対象にしている商品です。登山が一般的であるか・ないかの議論はさておき、危険な活動をしている最中のケガを対象外としているのです。

具体的に、損保会社が危険な活動のとして挙げているものの1つに「山岳登攀」があります。損保会社の多くは、「ピッケル、アイゼン、ザイル、ハンマーなどの登山用具を使用する岩登り、沢登り、積雪期登山等の特殊な技術と経験を必要とする登山やロッククライミングをいいます」と規定しています。

つまり通常の傷害保険では、アイゼンやピッケルを使用中(山岳登攀中)にケガをして入院などをしても保険金は支払われないのです。

アイゼン・ピッケルを使用するなど、「山岳登攀」に含まれる登山は傷害保険の場合は対象外となる


ただし、保険の対象を山岳登攀中のケガも含めることも可能です。それが「運動危険等補償割増」で、「割増を払ってくれれば山岳登攀中のケガも払ってあげるよ」という仕組みがあるのです。

登山者全体の割合を考えると、登攀を行っている人は非常に少ないので「私は無雪期の一般登山道を歩くだけだし関係ないわ~」と考える人がほとんどでしょう。ケガの補償については確かにその通りで、割増を付ける必要は全くないでしょう。

しかし、本来必要としている遭難時の補償には大きな影響を与えることになっているのです。

この影響については、次号でさらに解説したいと思います。

 

プロフィール

井関 純二

千葉県出身。大学卒業後に保険会社勤務等を経て2014年にやまきふ共済会を設立。趣味は登山のトレーニングのために始めたランニングでサブ3ランナー。
やまきふ共済会の他に、山岳ガイドや登山者向けの各種保険を扱う(株)インスクエアコンサルティング代表取締役で社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。
⇒やまきふ共済会

知らないと損する山岳保険の知識

自立した登山者なら必ず加入しておきたい「山岳保険」ですが、その内容や詳細について、どれだけの人が知っているでしょうか? 「やまきふ共済会」の井関純二氏が、山岳保険の実際を徹底指南。

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