希少な動植物との出会いを求めて 北海道知床連山縦走 羅臼岳~硫黄山

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世界遺産・知床半島で羅臼岳から硫黄山を縦走する1泊2日の山旅。希少な動植物が生息する自然豊かなエリアです。

シレトコスミレと硫黄山

世界遺産でもある知床半島を知らない人はいないでしょう。そして日本百名山の羅臼岳や斜里岳に一度は登ってみたい人も多いはずです。また、山のみならず、クジラやシャチ、イルカなどを見るクルーズ船観光は、海岸を歩くヒグマにも出会えるかも知れないと、大変人気です。海産物の種類も豊富で美味しいため、日本有数の観光地にもなっています。

さて、「知床」とはアイヌ語の「シリ・エトク」と呼ばれ、「地山の突き出たところ」の意味を持つ長さ約70km、基部の幅約25kmの半島です。標高1660mの羅臼岳をはじめ、硫黄山、遠音別岳、海別岳などが連なり、山麓の針広混交林帯からダケカンバ帯を経て高山のハイマツ帯まで連続した原生林が残されています。

地質学的にはプレート運動や火山活動、海食などで造成されたため、海岸線は海崖で稜線から海岸までは殆ど平地が見られません。そのような人を寄せ付けない地形と自然環境であるにも関わらず先史時代の遺跡も多く残っています。近代に入って温泉発見、硫黄採掘、漁場等の開発と共に農業開拓が進み私有地が増えましたが、環境の厳しさに定住には至らず放棄される土地も多かったそうです。その頃から自然保護の運動が高まり、日本初の民間運動による土地買収運動を経て、今日の世界遺産として登録されるまでの自然豊かな知床が守られているのです。

動植物もその希少さに目を見張るものがあります。言わずと知れたヒグマの生息密集率は世界一です。オオワシ、シマフクロウなどの絶滅危惧種や貴重な海鳥の営巣地があり、シレトコスミレやチシマコハマギクなどの固有種は知床の魅力を倍増していることでしょう。

しかし、それらは普通の観光では滅多に出会うことは出来ません。

今回は、知床の固有種であるシレトコスミレに会うために、岩尾別温泉から羅臼岳を登って、南岳、硫黄山を経て、カムイワッカの滝まで縦走するコースを選択しました。それは、羅臼岳には植生しておらず、硫黄山にも数株しか植生していないため、南岳~硫黄山間の大植生地を巡るには、このコースの縦走がベストだと判断したからです。シレトコスミレが咲く7月上旬は公共交通機関がないため、登り口と降り口の約17.6kmは自転車で走行することにしました。

 

モデルコース:岩尾別温泉~羅臼岳~二ツ池野営地~硫黄山~カムイワッカの滝

コースタイム:

【1日目】岩尾別温泉・・・羅臼平・・・羅臼岳・・・二ツ池野営地(約8時間)
【2日目】二ツ池野営地・・・南岳・・・硫黄山・・・カムイワッカの滝(約7時間)

 

1日目 岩尾別温泉~羅臼岳~二ツ池野営地

カムイワッカの滝に自転車をデポし、岩尾別温泉登山口を出発しました。霧雨の降る中、樹林帯を登ります。途中、弥三吉水の冷たい水で喉を潤しました。

弥三吉水は冷たくて美味しい

大沢には残雪があり、その脇には咲き始めのエゾコザクラやチングルマ、キバナシャクナゲが強風に絶えています。

羅臼平に登り詰めると、横殴りの風と雨で羅臼岳も見えません。本日は昼頃から晴れる予報だったので、木下弥三吉の記念碑の影でビバークします。7月とはいえ寒くてたまりません。雨具の下に軽ダウンとアウターを着込んで使い捨てカイロを忍び込ませます。1時間30分後、ようやく羅臼岳の山頂が見えてきたので、ザックをデポし、いざ頂上へ。

ビバークした記念碑と羅臼岳

岩清水ではイワウメが岩に張り付いて綺麗に咲いていました。先ほどまで冷えていた身体は日の光でポカポカに汗ばむほどになっていました。
山頂では、これから進む縦走コースは見えましたが、その他の周りは雲海で何も見えません。風も10m以上あり止む気配もなかったので、5分程で下山を開始しました。

羅臼岳山頂より見た縦走ルートの峰々

さて、羅臼平での休憩もそこそこに、次のピークの三ツ峰、サシルイ岳へと足を進めます。サシルイの雪渓で今晩と明日の水の補給をし、一気にザックが重くなりました。

三ツ峰のコルからみた羅臼岳

サシルイ岳周辺の登山道脇にはチングルマが咲き乱れていました

オッカバケ岳は、本日最後のピーク。あとは二ツ池野営地を目指して下るだけです。野営地ではテント場から離れたところにヒグマ対策のフードロッカーが設置され、食べ物は全てそこに保管します。食事もテントから離れた場所でとり、テントに匂いを残さないように心がけて、就寝しました。本日の住人はテント4張り8人でした。

二ツ池野営地

2日目 二ツ池野営地~硫黄山~カムイワッカの滝

2日目、本日も快晴。青空が実に綺麗です。二ツ池は残雪が融けたばかりの溜り池だったため、いつも悩まされる蚊の対策がいりませんでした。

5:30に出発し、南岳までハイマツを掻き分けて登ります。ここから、知床の固有種、シレトコスミレの株がお目見えです。今まで出会えなかったシレトコスミレの群生に大感動です。撮影時間だけでも1時間を要してしまいました。

シレトコスミレ

知円別岳から硫黄山までの素晴らしい稜線が近づいて来るにしたがって、ワクワク感いっぱいです。今日は天気も良く道迷いの心配もないようです。

知円別岳の砂礫帯

知円別岳はトラバースをして、細い稜線や切り立った岩群の間を縫うように渡っていきます。そして硫黄山の前衛峰の急勾配を登り降りし、硫黄山の取付きに到着しました。この分岐でザックをデポし、三点支持で岩場を登ります。鎖もロープもないので、非常に危険な場所です。最後の山頂なのでゆっくり時間を過ごします。

硫黄山山頂と羅臼岳

硫黄川の沢にはたっぷりの残雪でをグリセードを楽しみながら下っていきます。尾根の取り付きで樹林帯を登り、ハイマツ帯、噴火口のある砂礫帯、広葉樹帯を2時間で下り登山口に到着。
ここからカムイワッカの滝までの600mの林道は、事前に通行許可書を提出しなければ通れないところなので気を付けましょう。
下山届け終了後、デポしておいた自転車で岩尾別温泉登山口にもどり、シレトコスミレとの出会いに大満足して山行を終えました。

 

▼今回の山行動画

 

 

プロフィール

谷水 亨

北海道富良野市生まれの富良野育ち。サラリーマン生活の傍ら、登山ガイド・海外添乗員・列車運転士等の資格を持つ異色の登山家。

子育てが終わった頃から休暇の大半を利用して春夏秋冬を問わず北海道の山々を年間50座ほど登って楽しんでいる。

最近は、近場の日高山脈を楽しむ他、大雪山国立公園パークボランティアに所属し公園内の自然保護活動にも活動の範囲を広げている。

Youtubeでも北海道の山々の魅力を動画で配信中。Youtubeチャンネル

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