ギザギザから学ぶ 富士山の自然科学 『富士山境目図鑑 境目だから面白い、五合目の地質と動植物』

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評者=池田菜津美(編集、ライター)

富士山境目図鑑 境目だから面白い、五合目の地質と動植物

著:山梨県富士山科学研究所
発行:丸善出版
価格:2200円+税

富士山といえば、台形に白い雪をのせた姿を思い描くだろう。ところでその山腹はどうなっているだろうか。白い雪の縁は「ギザギザ」模様になってませんか? どうしてこんな模様になっているのかと問われ「実際もこんな感じだから」とか「富士山だから仕方ない」とか答えた人は「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られるかも。

この「ギザギザ」を詳細に解説したのが本書。「ギザギザ」の種明かしをすると、そこは森林と裸地のせめぎ合いの場。波打つ模様は、雪崩や強風の影響を受けながら徐々に森林を形成するようすだという。環境の厳しさが「ギザギザ」に現われているのだ。

本書には「ギザギザ」を観察するためのルートガイドまで掲載されている。そこまでしなくても……と思ったのは私だけ? でも真面目に読んでみると、このルートガイドがおもしろい。

カモシカの角のとぎ跡からノウサギのうんちまで、登山道でよく見るフィールドサインの写真が満載。強風にさらされたカラマツの旗型樹形や、土石流やスラッシュ(雪と水とスコリアが混ざって流れたもの)がつくった砂礫の斜面など、何の気なしに見てきた景色の意味や形成理由も明確になっていく。谷部は積雪があっても斜めに生育できるダケカンバが多く、尾根部は真っ直ぐしか成長しないカラマツが多いなど、ほかの山に使える知識もたくさん。「ギザギザ」から学べることは思いのほか多い。山の自然学に興味のある人はぜひ。

山と溪谷2020年8月号より転載)

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