厄介でもあり、楽しくもあり…里で出会うケモノたち|北信州飯山の暮らし
日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第8回は、家の天井で、畑で…里のそばに現れるケモノたちの話。
文・写真=星野秀樹
部屋で仕事をしていると、自分のすぐ脇の壁の中で、ズルズルゴソゴソという音がすることがある。初めはほんとにびっくりして、壁を叩いたり、窓から壁の外側を眺めてみたりして、音の正体を突き止めようとした。
いまだその音の主は不明だけれど、音の発する雰囲気(動き?)をイメージすると、太くて長い生き物がのっそりと這い回っているような感じ。ヘビ?
あるいは、何か毛がモシャモシャした生き物が、壁の隙間をズルズルと行ったり来たりしているかのような感じ。イタチ?
廊下の天井から寝息のような音が聞こえてきたり、居間の壁から悪臭がしてきたり(これは多分ネズミの仕業)、とにかくこの家には多数の同居人がいるらしい。
家の周辺ではアナグマやタヌキ、イタチをよく見かける。何を思ったのかカモシカが、蹄の音も高らかに玄関先へやってきたこともある。先日、ヤブを掻き分けて現れたアナグマは、僕と娘が見ているにも関わらず、こちらの足先に触れる距離までやって来た。それから初めて見られていたことに気づいたような顔をして、慌てて逃げて行った。その注意力散漫な姿が、なんとも愛らしい。
そんなふうに我が家がケモノたちの住処だったり、通り道だったりするわけで、そうすると当然だが、ウチの畑は彼らの食卓だったりする。
いわゆる食害ってやつだが、去年はほぼ全てのトウモロコシとスイカが食われた。これでは畑でケモノたちを飼っているようなもので、「食卓」というより「牧場」である。トウモロコシは茎ごと倒されて荒らされて、腹が立ったのでまだ実が成る前の茎を自分で抜いてしまった。
スイカは明日採ろうと思った実から食われていく。プラスチックの籠を被せて重しを載せて安心していたら、地面に穴を掘って進入されてしまった。そろそろ食べごろだろうと思って籠を除けたら、綺麗なスイカの皮だけが残されていて、情けないやら、感心するやら。とにかく彼らに狙われたらそれで終わりだ。
今年はしっかりネットを張ったおかげで、我が家の食卓にも立派なトウモロコシが並んだのであった。

家の中はネズミの天国だ(いや、外も!)。山道具をしまっている倉庫は定期的に掃除をしないと、糞尿被害で大変なことになる。ビニールや紙類も、巣材にするのか細かく切り刻まれてボロボロになってしまう。新車のエアコンからネズミの死骸が出てきたり、除雪機のケーブルがかじられてエンジンがかからなかったりしたこともあったが、時に訳のわからない「怪」現象が発生する。
朝起きると各自の靴の中に大豆が一粒ずつ入っていた、とか。
夜、誰もいない土間に置いた犬用の餌入れが勝手に揺れ動いている、とか。
軽トラの取説が、ダッシュボードの中で綺麗に切り刻まれて玉のようになっていた、とか。
ある日、トイレの窓から入ってきたヘビを追い出そうと網を倉庫に取りに行くと、網の袋の中に集められた藁に包まれて、ピンク色をしたネズミの赤ちゃんが3匹鳴いていた。やれやれ、ヘビとかネズミとか、どうしろってんだよ。なんだか自分が動物園の飼育係にでもなったかのような気がしてくるのだった。
森と里で出会うケモノの種類は同じでも、その関わり方はだいぶ違う。森では、自分は自然に対する傍観者に過ぎないが、里では生活者としてケモノに関わる。それは時に防獣や駆除という立場であったりもするが、より深くケモノと関わる機会でもある。
そんな森と里の接点にある暮らしが楽しくて仕方がない。
●次回は10月中旬更新予定です。
星野秀樹
写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。
ずくなし暮らし 北信州の山辺から
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