雪国の秋は忙しい…大慌ての冬支度|北信州飯山の暮らし

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日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第34回は、冬支度について。

文・写真=星野秀樹

 

 

慌ただしい冬支度の季節

秋の深まりは、集落の周辺から溢れてくる「匂い」とともに進んでいく。

刈り入れの終わった田んぼから漂う稲の匂い。モミ殻を燻す匂い。

どこかで畑を焼く野焼きの匂い。

それらは人の営みが、盛んな収穫の季節を終えて、いよいよ片付けや冬の準備へと移り変わっていく姿を想像させる、そんな「匂い」だ。

だからこんな匂いを嗅ぐたびに、冬の到来と、それを迎えるためにすべき準備の慌ただしさが思い出されてくるのだった。

 

以前にも書いたけれど、とにかく秋は忙しい。乾していた薪を母屋と倉庫に運びいれ、雪溶かし用の水路の草刈りと点検、家屋の雪囲い、車庫に入っているトラクターを倉庫に移して、除雪機のご機嫌を伺い、あ、車のタイヤ交換がまだ終わっていないぞ…!

かつてお世話になった穂高岳山荘の故宮田八郎が、「春に出した道具を秋にはまた仕舞って、山小屋の仕事は一年中片付けばかりしているみたいなもんだ」なんて言っていたけれど、まったくもって雪国の暮らしもおんなじだ。春になって雪仕事の道具を仕舞って、代わりに畑の道具を出してきて、秋にはまた…。それは「衣替え」、なんて気楽なものではなく、もっと大袈裟な感じ。なにしろ家屋を板で囲ったり水路に水を流したりして、家のシステムを「雪仕様」に変えてしまわなければならないわけで、それはなかなか大変なことだ。

 

「あれ、板が足りないぞ」

窓枠を板で囲っていると、どうしても枚数が足りないことがある。春の撤収時にいい加減な管理をしているから、どうやら何かの板材代わりに使ってしまったのか、薪代わりに燃やしてしまったのか。気をつけないとそのうち家の壁だって薪にしかねないな、なんて呟きながら、倉庫から適当な板を探してくる。

いわゆる「雪囲い」をして屋根からの落雪や、降り積もった雪から家屋を守るわけだけれど、「囲う」のは建物ばかりではない。大事な庭木も板で囲わなければ雪の重さで折れたり曲がったりして、無様な庭になってしまう。神社の狛犬や灯篭だって雪で壊されないように囲ってしまう。

だからこの時期になると各家庭はもちろん、公園や道路などの公共の場の樹木はみんな丁寧に板で囲われて、見事な「雪仕様」に変わっている。そういえば小学校のPTA作業にも敷地内の雪囲いがあって、他のお父さん方と脚立に登って、あーだこーだといいながら樹木の雪囲いをしたものだった。恥ずかしい話だけれど我が家の「庭」は岩の点在する庭園?風を装ってはいるものの、積年の不精が祟って庭木は折れ曲がり、豪雪地帯の山の木の様相を呈している。

 

 

天気予報に雪マークが現れ出すと、冬支度に向けてなおいっそう拍車がかかる。あとはなんだ、トラクターと除雪機を移動して車庫を空けて、それと車3台分のタイヤ交換か。いや、とにかく急な降雪に備えて1台分だけは先にタイヤを換えておこう。作業も大詰めになってくると仕事の優先順位が大切になってくる。去年は終盤になってから通路部分の窪地を埋める作業を思いつき、慌ててコンクリートをこね始めたものの、冷たい雨が降り出して、結局まともに固まらないまま根雪の下に埋れてしまった。

 

そんなこんなでドタバタと冬支度を進めるものだから、いっそのこと早く全部雪に埋れてしまえばいい、なんて思ったりもする。そうすれば、あとはただ除雪を繰り返すのみ。その方がこの片付け仕事より楽に違いない、なんて。

 

凛と冷え切った11月の朝。

千曲川を覆う雲海の上に広がる、澄み切った冷たい大気からは、人の営みとは違う「匂い」が漂ってくる。それは雪の存在を感じさせる、間近に迫った「冬の匂い」に他ならない。

 

 

●次回は12月中旬更新予定です。

星野秀樹

写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。

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