移住して良かった!一方、子供たちの気持ちは…?|北信州飯山の暮らし

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日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第33回は、大人と子供、それぞれの移住事情について。

文・写真=星野秀樹

 

 

大人の移住、子供の移住

よく地元の知り合いから、「越して来てよかったね」なんて言われる。

そう、たしかに、そのとおり。

だって、山とか自然とかが大好きで、雪の多さよりもよっぽど人混みの方が苦手で、木とか草とか土とか、そんなものに囲まれた暮らしに憧れていた人間にとって、こんな山間の生活が楽しくないはずがない。好きな山に登って写真を撮るのと同じように、豪雪のブナ林の麓に暮らしたいと思ったのがこの土地を選んだ理由だから、嫌なはずがない。

「奥さんがよく決心したね。えらいよね」とも言われるけれど、そもそも「田舎暮らし」に憧れていたのは当の奥さんの方で、ついこの間も、「ほんまにきれいなとこやなあ」(注・奥さんは京都出身)なんて潤んだ目をしながら朝日が差し込む村の風景を眺めていた。雪が多くて雑草だらけ、都会にはない濃い人間関係や、ありえないほどに面倒な子供の送迎、それに不便な暮らしゆえに感じる将来の不安など、漠然とした心配、苦労、不満とかももちろんあるけれど、しかしそれでもやはり、「移住してよかった」という思いがわいてくる。とにかく、大人たちは。

 

我が家がこの地にやって来たのが今から7年と半年前のこと。長男が中学2年、次男が小学5年、長女が小学2年に上がる春だった。それなりに苦労があったとはいえ、小学生だった2人は比較的すんなりと転校生活に慣れ、さらにサッカーだ、スキーだというように、スポーツという万国共通言語を通してこの土地に馴染んでいった。

一方、すでに多感な青春時代を迎えていた中学生の長男は、断固とした移住反対派だった。だから、大人たちのエゴで、なんの不満もなく暮らしている子供の生活を台無しにしてしまうのではと、当時僕たちは移住への最終決断にだいぶ悩んだりもした。

実際は、この土地のやさしさのおかげで、都会からきた思春期の少年は暖かく迎えられ、本人も徐々にではあるが、自分の居場所や友達、活動場所などを見つけることができ、それは本当にありがたいことだった。

 

 

とはいえ、「田舎暮らし」に憧れる大人の都合に付き合わされて、平穏な湘南暮らしから波乱万丈な豪雪山村に強制移住をさせられた子供たちの心情やいかに、と思う。

子供たちにここでの暮らしを尋ねると、「嫌い、都会の方がいい」と即座に返ってくる。モノが豊富で、気軽に店などに行けて、きらびやかな「都会」を好むのは、至極当然のこととも思う。なにより大人を介さずに、徒歩にしても自転車にしても、あるいは公共交通機関を使うにしても、かなり自由に自分の行きたいところに行けるのは、この土地にはない「都会のよさ」だと実感する。自分は車を使って自由に動き回っているけれども、それがままならない子供にとっては、「自由に動きまわれないもどかしさ」は、確かにストレスに違いない。

 

一方で、田舎らしいのんびりとした気質は、子供たちにゆとりと可能性を与えてくれる。

必ずしも競争が激しくないことがいいことではないけれど、勉強やスポーツでの努力が目に見えやすい結果となって現れやすい。何かですぐに賞状をもらってきたり、県大会に出場できたり。競争相手が少ないだけに、一流選手でなくても大きな大会に出たりできるのは、その競技を続ける上での大きなモチベーションにもなるだろう。

 

いずれにしても子供にとっての移住の良し悪しなんて、そう簡単に結論が出るものではない。少なくとも今は、彼らの言葉からは否定的なものが聞こえてくるけれど。

でも彼らが大人になっていつか、その価値観の中に、ここでの暮らしのことが何かいい形で現れてくれたら、親としてはとてもうれしいことだと思っている。

 

一番移住に反対していた長男は今大学生になって、再び神奈川で暮らしている。中学高校生時代には、縁あって、飯山市の菜の花祭りや灯籠祭り、雪まつりなどのイベントの手伝いに参加して、彼なりの「移住生活」を送っていた。それがきっかけというわけではないかもしれないが、大学では地域社会における人間活動のあり方を学んでいる。彼がこの先社会に出て送る人生の、そのどこかに我々大人たちが望んだ「移住」が、何かいい影響を与えてくれたら、と願うのだ。

 

 

●次回は11月中旬更新予定です。

星野秀樹

写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。

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