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集めて、切って、乾かして―――薪を備える|北信州飯山の暮らし

ずくなし暮らし 北信州の山辺から
その他 2020年11月12日

日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第10回は、冬支度の一つ、薪の話。

文・写真=星野秀樹

 

 

冬が近づくと、やたらと忙しくなる。
雪囲い、水路の点検清掃、車庫と倉庫の片付け、除雪機の点検とか。都会で暮らしていた頃ならせいぜいタイヤ交換と、冬山道具やスキーの準備くらいしかすることなんてなかったけれど、雪国に暮らすというのはなんと仕事の多いことか。そんな冬支度の中で欠かせないことの一つが、ストーブ用の薪の用意だ。晩秋の晴天が続いた頃、裏のブナ林へ行き、焚きつけの枝を軽トラに積み、スギ林で着火剤代わりのスギ葉を集める。もちろん薪仕事は、切って、割って、乾かして、というように、春から秋にかけて何かしらやっているもので、その最後の仕上げが、前述の枝葉集めと、冬用の乾燥した薪を家屋に取り込むという作業。あとはぬくぬくと木を燃やすばかり。いくら隙間だらけの古民家と言っても、燃やせば燃やすほど温くなる、はず。

僕が最初に手に入れた薪は、以前借りていた家の隣に生えていたケヤキの大木だった。除雪の邪魔になるからという理由で切られたその木をもらい受け、慣れぬチェーンソーと斧で薪にした。以来、人のつてで手に入るものはもちろん、雪や風で倒れたり、切られたりした木を見つけては種類を選ばず、切って、割って、乾かして。おかげで我が家の薪棚は、スギ、ブナ、ホウノキ、ナラ、リンゴ、カキ、ポプラ、ヤナギなどなどの雑木が集まって、まるで小さな森のような様相になった。
そんな風に色々な木を薪にしてみると、ただ森で木を見ていた時以上に、もっと木を身近に感じるようになった。
同じ太さでも重さが違うブナとスギ。実際に切った重い幹を運ぶことで、ブナがゆっくり時間をかけて成長していったことを実感する。
割って初めて知った、木の匂い。木肌の感触。
まっすぐで割りやすい、性格のいい木。クサビを入れても割れない、節のある性悪な木。
薪としての良し悪しはともかく、そんな木の個性が感じられて面白いのだ。

 

 

この家に引っ越して間もない頃、雪害で倒れたブナを相手に必死に薪割りをしていると、隣の爺さんがクサビを持ってやってきた。「これを使え」と言う。よほどヒマだったのか、それとも僕の下手さ加減を見て黙っていられなくなったのか。80近い年齢なのに、炭焼きもしていたという爺さんは、斧の扱いがさすがに上手い。そうしてしばらく二人で交代しながら、節だらけのブナと格闘した。さすがにそんな爺さんも最近は家に篭りがちで、姿を見ることも少なくなったが、とにかくあの時教えてもらった斧やクサビの扱いは、今も自分の「技術」として生きている。

しかし、薪の確保はなかなか大変だ。自分で山林を持っているわけではないので、定期的に、安定して薪が手に入るというのは難しい。だからどうしても人頼みにならざるを得ない。
昨年は知り合いの倉庫が雪で潰れたおかげで(?)、大量の丸太材を貰い受けた。つい先日は、家のすぐ先に、「伐採木材 さしあげます」という看板が現れた。さっそく書かれていた連絡先に電話をしてみると、道路工事の都合で伐採された木があるので、自由に好きなだけ持っていっていいということだった。手近に薪が手に入る、こんなチャンスも時にはあるが、大概は人伝に「貰い手のない木」の情報が回ってくる。だから僕が手にする薪は、みんなが嫌う、「薪にし辛い木」ばかり。そんな雑木たちでウチの薪棚は埋まっている。

雪山から帰って来て、森から貰った木で暖を取る。山と暮らしが、森で繋がっているのを感じる。その森は、雨や雪の水を蓄えて、里を潤す森。
だから僕は、森から、火と水を貰って生きている。

 

●次回は12月中旬更新予定です。

星野秀樹

写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。

日本の山
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