鬼退治気分で岡山県・鬼ノ城山へ。古代山城の遺構、山岳仏教の聖地など、見どころ多い鬼伝説の山

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「鬼は外、福は内」の声が響く季節だが、日本各地には鬼が棲んでいたとされる山は数多い。その中でも、岡山県・鬼ノ城山は、桃太郎の童話の舞台になったとされる場所で、その遺構が数多く残されている。この季節に、鬼退治の舞台を歩いてみてはいかがだろうか?

 

大人気のマンガ『鬼滅の刃』の影響もあってか、近ごろ注目されることが多い鬼。山に鬼が棲むという伝説も多く、長野県の浅間山や鳥取県の鬼住山など、鬼の伝説がある山は全国に点在しています。

そのような山の中でも、特に鬼の存在感が強いのが、岡山県の鬼ノ城山。岡山県中部に広がる吉備高原が、総社平野にせり出した断崖の上にある、名前の通り鬼の城だったとされる山です。

犬墓山から見た鬼ノ城山頂上付近

下山時に通過する、犬墓山から見た鬼ノ城山頂上付近。右が復元された古代山城の西門


この鬼ノ城山に鬼がいたとされるのは、『日本書紀』に記される、第10代崇神天皇の頃です。そして鬼にまつわるもの以外にも、さまざまな歴史や信仰の場であったことも伝わります。

その1つが、日本100名城の69番にも選ばれた、復元された城門に代表される城跡です。飛鳥時代の頃に国土防衛のため築かれたと考えられている、古代山城の遺構です。

続く平安時代には、一帯は山岳仏教の聖地となり、鎌倉時代にはそれに修験道も加わりました。さらに江戸時代には、岩屋三十三観音の石仏が安置されています。

これらの史跡をぐるりと一巡りすることで、日本の歴史のさまざまな側面を感じ取ることができるでしょう。

アクセスは基本マイカー利用で、岡山道岡山総社ICから約20分で鬼ノ城ビジターセンターに到着。約20台の無料駐車場があります。なお、途中の砂川公園からの約3kmは、道幅がとても狭いので運転には注意が必要です。

鬼ノ城山モデルコース

鬼ノ城山、登山地図

■行程:

ビジターセンター・・・西門・・・鬼ノ城山・・・南門・・・東門・・・屏風折れ石垣・・・市道出合・・・岩屋休憩所・・・岩屋観音堂・・・馬頭観音・・・皇の墓・・・犬墓山・・・ビジターセンター(約4時間)

⇒モデルコース

 

ビジターセンターで地図を手に入れ、いざ「鬼退治」へ

鬼ノ城ビジターセンターは、古代山城跡としての鬼ノ城山にスポットを当てた展示施設です。解りやすい城の解説図や、山の全体像を再現した模型もあるので、ぜひ見学していきましょう。

なお、鬼ノ城山のコースは分岐が多く、生活道も交差して複雑です。地形図だけでの判断は困難なので、ここで100円で配布している「総社ふるさと自然のみち 自然散策マップ」を入手することをお勧めします。

ビジターセンターを出たら、西門方面へ。まずは第1展望所である角楼に立ち寄り、その右手を登ると早くもあずまやの立つ鬼ノ城山の頂上です。前方には総社平野の展望が広がります。

引き返してこの城跡のシンボルとも言える、見事に復元された西門前を通り、そのまま敷石を下る鬼ノ城外周コースへ向かいましょう。

西門から、敷石をたどって展望の良い外周コースへ

西門から、敷石をたどって展望の良い外周コースへ


途中で古い水門の跡や、南門、さらに小ぶりながらも緻密な磨崖仏である五番観音などの見所が続きます。
東門を過ぎると近づいてくる石積みの壁が、「屏風折れの石垣」で、登り詰めたところが第2展望所。
耳を澄ませば、下を流れる血吸川の音が響き渡るのが聞こえるでしょう。

屏風折れの石垣

古代の石積みが今も残る屏風折れの石垣


少し奥まったところに立つ「温羅遺跡」の石碑が、ここを拠点とした温羅(うら)という鬼の城があった場所とされています。

この温羅の身長は1丈4尺(約4.2m)、極めて凶暴で金品や婦女子の略奪を続けていたとのこと。それを討伐するために、朝廷は吉備津彦命を派遣します。互いに矢を打ち合う激しい争いは、見事に温羅の目に矢を当てた吉備津彦命が勝利。そのとき、温羅の血が流れ込んだ下の川が、「血吸川」と呼ばれるようになったと言われます。

温羅遺跡の碑。吉備津彦命と温羅の争いは、童話「桃太郎」の原点とも

温羅遺跡の碑。吉備津彦命と温羅の争いは、童話「桃太郎」の原点ともされています


さらに歩いて北門に出たら、門を通過して市道に下山。30m先の分岐を左に入り、棚田沿いの小道を登って岩屋駐車場へ。トイレ左手の登山口から、岩屋コースへ向かいましょう。

石仏の点在する道を進み、標識に従って岩屋寺へ。左の階段を登って観音院を過ぎると、巨大な岩窟が現われます。これが「鬼ノ差上岩」で、さらに進むと鬼が杵で突いた跡とされる窪みがある「鬼の餅つき岩」や、平坦な「八畳岩」などの奇岩が連続します。

高さ15mもある鬼ノ差上岩。中には不動明王が祭られています

高さ15mもある鬼ノ差上岩。中には不動明王が祭られています


点々と続く石仏は「岩屋三十三観音」で、特に最奥の馬頭観音は緻密な彫りが見事です。その観音石仏をたどった先にある「皇の墓」は、岩屋寺の開祖とされる文武天皇の皇子の墓とされるもの。作られたのは今から600年以上前の南北朝時代と推定される、貴重な石造物です。

右が岩屋三十三観音のひとつ、馬頭観音。三面の顔の上に小さな馬の頭が載っている

右が岩屋三十三観音のひとつ、馬頭観音。三面の顔の上に小さな馬の頭が載っています


溜池の前を通ってさらに尾根を進み、三角点の設置された犬墓山に立つと、総社平野をバックにそびえ立つ西門の、雄々しい姿を望めます。そこからは尾根沿いの道を一気に下ると、鬼ノ城山ビジターセンターへと戻ります。

もし日程に余裕があるのならば、この鬼ノ城山から南東に約13km離れた吉備の中山も登ってみることをお勧めします。こちらは温羅を退治した、吉備津彦命が陣を張ったとされる山。東は備前一宮の吉備津彦神社、西には吉備津神社が鎮座し、中央の中山茶臼山古墳には吉備津彦命が埋葬されている神聖な山です。

こちらも併せて登ることで、より深く温羅という鬼の伝説を感じ取ることができるでしょう。

 

八大竜王が祭られる吉備の中山・龍王山頂上

八大竜王が祭られる吉備の中山・龍王山頂上。この山も、山中にさまざまな遺構が残っています

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

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