筋金入りアゲイン『南島探検 西表島の沢を歩きつくす』
評者=長谷川 哲(フリーライター)
イリオモテヤマネコ研究の第一人者が「若いころがむしゃらに歩いた」西表島の沢を、古希を過ぎて再訪する山行記である。前作『西表島探検』(2017)の続編にあたり、その精力的な行動は読むほどにページのジャングルへと引き込む力にあふれている。
山行は常に単独。遡行と下降を繰り返しながらいくつもの沢をつないでいく。当然ながら道はない。「道があった」という記述も、我々が想像するような代物ではない。次々と現われる未知の滝。行く手を阻むツルアダンにマングローブ。さらにハブ。行動は慎重すぎるほどに慎重だ。アイゼン(!)や山刀など独特の装備や、ジャングルでの幕営術なども興味深い(ノウハウの詳細については前作に詳しい)。
何十年も歩いている山域だけに、経年変化には敏感だ。随所で触れる追想、なかでも各紀行の冒頭で触れる地域の歴史や住民との交流などの記述も、話に広がりと深みをもたらしている。一方で「実際歩いてみないとわからない楽しみ」「こういう場所があるということが驚き」など、いまだ新たな発見や好奇心も尽きない。
前作は山行ごとに一話にまとめていたが、本書では各河川に切り分けエリア別に紹介する手法をとった。紀行として読むにはページを行き来する必要があるが、GPSを使った詳細地図などとともに記録的にはより判りやすい。
75歳を過ぎ、時に疲労の色を滲ませる著者だが、今後も「体力の続く限り島へ通い」無理せず安全第一で歩き続けたいと語る。過度な期待は酷かと思いつつも、やはり次作が楽しみなのである。
(山と溪谷2021年2月号より転載)
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