冬に食べる、長瀞「阿左美冷蔵」のかき氷が好きだ。春前に、花見登山とかき氷
下山後に味わいたい粋なごはんを紹介するライター西野淑子さんの「下山メシのよろこび」。今回は長瀞駅徒歩4分、行列ができるほど人気の「かき氷」専門店へ。
奥武蔵登山の起点となるのが、西武池袋線の飯能駅。
ハイキングの講座などで毎年のように訪れているのが宝登山。山頂一帯に梅園が整備されていて、1月から2月上旬ごろまではロウバイ、2月から3月にかけては紅白の梅を愛でることができる。見頃を迎えた梅は山の斜面を覆うように咲き、陽光で空気が温められると一帯がふんわりと梅の匂いに包まれる。
宝登山はロープウェイで山頂近くまでアクセスできるので、梅林にはハイカーだけでなく観光客も多い。どの人も山上の梅林の風景を楽しんでいる。
ロープウェイで山を下り、「今日はかき氷…」とつぶやきながら、秩父鉄道の長瀞駅に向かう。
荒川ライン下りで知られる秩父・長瀞町の名産品のひとつが氷。夏は暑く冬は寒い盆地の気候を生かし、天然氷がつくられている。長瀞駅の周辺にはかき氷を出す店が点在するが、なかでも人気が高いのが阿左美冷蔵だ。創業明治23年の製氷業者が営むかき氷の専門店。自家製のみつやあん、季節の素材を使ったかき氷が味わえる。本店は皆野町金崎にあるが、宝登山ロープウェイの山麓駅から長瀞駅に向かう道の途中に宝登山道店がある。
店内には大きな天然氷を切り出している
写真が飾られている。
え、かき氷? 冬なのに?
多くの人がそう思うだろう。でも、私は冬にこの店で食べるかき氷が好きだ。
旬の素材を使ったかき氷は、その季節にしか味わえない。え、それがシロップになるの?と思うような素材もあり、メニューを見るのが楽しみなのだ。初めて訪れたのはもう10年以上前、ロウバイを見た帰りだった。そのときはさつまいもと黒みつのかき氷を味わった。さつまいもがかき氷のシロップになるのかと驚きつつも、さつまいもの甘みや食感を生かしたシロップとフワフワの氷を口にしてニヤニヤしてしまったのを思い出す。
テレビなどでもよく紹介される人気店ゆえに、真夏は大行列。かなり覚悟をして列に並ばなくてはならない。しかし冬なら、梅の花見に訪れる観光客が多くても比較的短時間の待ちでお店に入ることができる。暖かい店内でぬくぬくしながら味わうかき氷は、おいしく、心地よい。
こちらは柚子と柿のかき氷。
昨年の冬、宝登山で梅を楽しんだ帰りに久しぶりに立ち寄った。季節ものを味わおうと、柚子と柿のかき氷を注文した。甘過ぎない、素材の風味が生きているみつ。柿はとろっとした濃厚な味わい、柚子は香りがいい。かき氷で秋や冬の味覚を味わうなんておもしろいなあ。
同行者は「氷室のしずく餅」という和菓子を味わっていた。秘伝のみつを使ったやわらかい餅にきなこをかけていただく。これもまたおいしそうだった。
名前の通りしずくのような透明感。
今年は初心に帰って秘伝のみつのかき氷をいただいた。抹茶あん 黒みつ付き。京都の和三盆を使った秘伝のみつと黒みつが別添えで供される。うっすら黄色いみつを少しかけて、サクサクと氷をすくいながら味わう。ふんわりとした氷が口の中でふっと溶けていく。みつのやさしい甘みが口に広がる。幸せな気持ちになってニヤニヤしてしまう。コクのある黒みつと抹茶あんの相性もいい。夢中で食べ進めてしまう。
高さは20㎝ほどありそうだ。
氷を食べ終わり、最後に熱いお茶をいただいてごちそうさま。また来年の冬に来よう。いや今度は長瀞の桜並木を目当てに来てもいいな。そのときはどんな味のかき氷を味わえるだろう。
阿左美冷蔵 宝登山道店
秩父を代表するかき氷の専門店。フワフワのかき氷は口あたりがよくまろやか。秘伝のみつをはじめ、季節の素材をいかしたシロップのかき氷が人気だ。
住所:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞781-4
電話:0494-66-1885
HP:http://asamireizou.blog.jp/
※新型コロナウイルス感染予防対策の関係で、休業あるいは営業時間・形態等に変更がある場合があります。ホームページより最新情報をご確認のうえ、お出かけください。
プロフィール
西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)
初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。
下山メシのよろこび
登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。