マイタケ香る“尾瀬の釜めし”を食べにきませんか? 原の小屋で実現する山小屋新メニュー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第2回は、山小屋で提供する新メニューについて。個性溢れる山小屋ごはん。それを目的に、登る山を決めて山小屋に泊まる山旅はいかがでしょう?

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第2回は、山小屋で提供する新メニューについて。個性溢れる山小屋ごはん。それを目的に、登る山を決めて山小屋に泊まる山旅はいかがでしょう?

文・写真=髙妻潤一郎


日帰り登山と山小屋利用の大きな違いはというと? 宿泊することで、山小屋でゆっくりと時間を過ごすことが出来るのも魅力だ。しかし残念ながら最近の登山者は日没ギリギリに小屋に到着することもあり、時間の余裕もあったものでないのだが(苦笑)。

さて、小屋でのゆっくり過ごす時間の中でなんといっても夕食は楽しみのひとつであろう。そんなわけでどこの小屋もそれぞれ趣向を凝らしたメニューが多い。

原の小屋でも2020年からの夕食をどうするか? 何度か話し合いの場が持たれていた。私は、かねてよりあたためていたメニューを思い切って提案してみた。「釜めしですか? あの横川の峠の釜めしのような?」びっくりするのも無理はない。時間の制約がある山小屋の夕食で炊き上がりまで30分もかかるような釜めしは現実的ではないように思えるだろう。「では先に炊いておいて小さな釜に移すんですね」と社長からも声が出たが・・・。

「違います、一人用の釜で炊いたものを提供します」

提供が間に合わないのでは、との声も聞こえたが、私たちの頭の中でのオペレーションのイメージは出来ており、洗い物は増えるものの、提供には問題がないと確信していた。実は「釜めし」は決して思いつきで発言したものではなく、前々から山小屋の夕食として出来ないかと考えていた。登山者のエネルギーになり、おいしくて印象的な食事は喜んでもらえるはずだ。だが標高の高い山小屋では、固形燃料を使って米を炊く釜めしの提供は出来なかったのだ。

今度はどうか? 原の小屋のある見晴地区は標高1400m。この高さなら出来るかもしれない。

まずは実験あるのみである。車で標高1400m地点まで移動し、さっそく煮炊き開始。場所は小浅間山の登山口での実験だ。「味はどう?」心配そうに裕子も試食。「うん、大丈夫!」満足のいく結果でまずは一安心、その後も水の量を変えるなどして何度も実験を試みた。

長きにわたり山小屋で働いてきた仲間たちとのこの試食会のように、登山者が喜んでくれたら成功だ
長きにわたり山小屋で働いてきた仲間たちとの
この試食会のように登山者が喜んでくれたら成功だ

 

関係者にもあらためて食事内容の説明を行なう。「まず冷凍食材を減らすことが可能になります」「具材は檜枝岐村産の乾燥マイタケを使ったマイタケご飯にします」。これなら冷凍庫の使用もなく、また安定して食材のキープも可能。歩荷対応も簡単であるため、ヘリコプターによる物資輸送の問題も緩和できる。そして賞味期限も長く、天候不順による突然のキャンセルなどにも対応が可能だ。

あとはこれにお惣菜や檜枝岐村産の岩魚の甘露煮などを盛りつけたものを横に添えて提供する。現代的に言えば「映える」工夫である。

「さあ、あとは細かな仕入れを業者さんと打ち合わせだ!」

季節は入山の近づく頃、何年も「同じ釜のめし」を食べてきたメンバーたちとともに、私たちは南アルプスの夜叉神峠に立っていた。まだ白く雪をかぶった北岳、間ノ岳、農鳥岳をバックに釜めしを食べてもらおうと企画したのだ。まさに「峠の釜めし」である。この日はあいにく風が強く思い通りの炊き上がりにはならなかったが、みんなからは味の保証をもらった。

「尾瀬の釜めしを食べにきませんか?」

食堂に香るマイタケの匂いが、いまからでも想像できそうだ。

標高1770mの夜叉神峠で白根三山をバックにパチリ。「峠の釜めし」は好評であった
標高1770mの夜叉神峠で白根三山をバックにパチリ
「峠の釜めし」は好評であった

山と溪谷2020年7月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

- 尾瀬 - 原の小屋 OZE・HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

宿泊料金と予約について

プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

編集部おすすめ記事