アケボノツツジとブナの新緑が鮮やかな祖母山系・本谷山へ

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祖母山系はアケボノツツジが多いことで知られています。大分県・宮崎県県境の本谷山もその一つ。花の時期に訪ねてみては?

アケボノと祖母山

新緑がまぶしい季節になると、アケボノツツジの花が見たくなります。アケボノツツジは、紀伊半島や四国の石鎚山系で見られることが知られている、ツツジ科の落葉低木です。同じ仲間に、三重県や滋賀県などで見られるアカヤシオがあり、九州ではツクシアケボノと呼ぶのが正式な名前だそうです。

アケボノツツジは人気があり、私を含めこの花を見るために登る人も多いと思います。枝先に大きめの優しいピンクの花が風に揺れる様子は、稜線を美しい蝶が舞っているようにも見えます。急な斜面や尾根など過酷な環境を好むのに、夜明け(曙)を思わせる美しい色の花を咲かせるのが不思議です。

大分県と宮崎県の県境にそびえる祖母山系は、アケボノツツジが多いことで知られています。5月の大型連休のあと、静けさを取り戻した山を訪ねてみました。

モデルコース:尾平越登山口~本谷山(往復)

コースタイム:尾平越登山口(30分)縦走路分岐(15分)ブナ広場(30分)1388ピーク(40分)三国岩(20分)本谷山(15分)三国岩(30分)1388ピーク(25分)ブナ広場(15分)縦走路分岐(20分)尾平越登山口  計約4時間

⇒本谷山周辺の登山地図を見る

登山口は、大分県豊後大野市と宮崎県高千穂町の境界にある尾平越トンネルの宮崎県側です。

高千穂町を走る国道218号から、天岩戸神社へ向かう県道7号をひたすら北上すると、尾平越トンネルの入り口の左側に20台ほどの駐車スペースがあります。

登山口になる尾平越トンネル

本谷山へはトンネル入り口の右側から取り付きます。

植林の急斜面をジグザグ登り傾斜が緩んでくると、縦走路分岐です。

二十数キロにもおよぶと言われる祖母山から傾山までの、九州第一の縦走路のほぼ中間点です。祀られたお地蔵様に手を合わせて東へ進みます。

急坂を登って縦走路分岐 登山者を見守る地蔵様

緩やかな上り下りを過ぎると少広場に出ます。ブナの大木が何本もあるのが由来なのか、ブナ広場と呼ばれ水場が近く幕営地としても使われます。

テン場に利用されるブナ広場。存在感あるブナの巨木が並ぶ

縦走路を示す案内板に書かれた「お疲れさまでした」の文字が、行程の残りの半分を歩く登山者たちを励ましています。倒木に腰を下ろし小休止。ブナの新緑を見上げ、小鳥のさえずりを聞く贅沢な時間です。

ここからはぐんぐん高度を上げていきます。1334mの丸山で平坦になり、付近は苔に覆われ黒々としたブナの幹と、対象的に赤褐色のすべすべした幹のヒメシャラが混在する森がとてもきれいです。

振り返ると祖母山から障子岳までの鋸歯の尾根が圧巻

1338mまで登ってきても、ミツバツツジの花は咲いているのに目当ての花はなく、少し諦めの気持ちも出てきたころ、右側に展望の良い露岩が現れました。

ミツバツツジと祖母山

高千穂町の景色や古祖母山。北には大障子岩や前障子、その奥には九重連山の絶景が待っていました。

標高とともに、足元はクマザサに変わり周囲の展望が良くなると、はっきりとそれとわかる目当ての花があちこちで風に揺れていました。

途中の露岩から新緑と古祖母山

標高が高くなったからだけではなく、辺りの地形を見てみると北側が急な崖になり、強風が吹き抜けるような場所です。他の樹木が育ちにくい険しい環境をアケボノツツジが好むのだと合点がいきました。

アケボノツツジの奥には九重連山がはっきりと見えた

これから先は、花と展望を楽しみながらの稜線万歩です。三国岩で一休み。両翼を大きく伸ばした祖母山の眺めに、時間を忘れそうです。本谷山までは、ひと登り。少広場になり展望はないものの、広葉樹と針葉樹が日本庭園の佇まいです。

祖母山の展望がいい三国岩

そこに、新しい山頂標識を担いだ方が登って来られ、2017年設置の古い標識が新しい標識に替えれました。

実は、この方にはお会いするのは、以前、大雪の祖母山で出会い、お世話になって以来2回目です。作業が終わると、「もう一個付けたら、ゴミを拾いながら下るよ!」と笑顔。後ろ姿にお礼を言って、晴れやかな気持ちで下山しました。

山では不思議なことが起こるものですね、素敵な出会いの演出に山の神に感謝です。

山頂で休んでいると標識を抱えた人が登ってきた

古祖母山へも花が多いコースですが、本谷山へは静かな山が楽しめます。

 

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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