素材を知り実用に生かす『アウトドアファブリック大全』
評者=土屋智哉(ハイカーズデポ オーナー)
素材の知識はアウトドア製品を理解するための土台です。しかしアウトドア製品の素材について一般書籍を目にすることは、これまでなかなかありませんでした。消費者が素材の特性を理解し、自らのニーズに合った道具選びに役立ててほしい、著者の長谷部さんは本書の執筆理由をこう語っています。また、本書の内容は一般ユーザーだけでなく専門店スタッフにも刺激を与えてくれるものでした。
巻頭の基礎知識編は実用的な知識が簡潔にまとめられています。特に繊維の構造と生地の種類、ベース素材の特徴については必読です。この4ページを読むことでアウトドア製品の理解はより深いものになります。そして本書の大半を占める実証実験編。ここでは引き裂き強度と擦り切れ強度、このふたつの実験の意義が大きい。素材メーカーが生地の強度というときは繊維や基布の引っ張り強度を意味します。しかしフィールドで気にすべきは製品の引き裂きや擦り切れです。強度とひとくくりにするのでなく、実用を想定したふたつの実験結果はまさに貴重なデータです。そして自作編。ウルトラライトと道具の自作文化が日本でもこの10年で広がってきたことを反映していますが、自作をせずとも道具の構造を理解する上で役立つ内容です。
知っているつもりのこと、勘違いしていること、抜け落ちていること、本書であらためて気づかされる素材と道具の基礎知識は少なくないはずです。わたしの店では、スタッフもお客様もすぐに参照できるよう、本書の居場所はレジ脇に決定しました。
(山と溪谷2021年5月号より転載)
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