まもなく、原の小屋の小屋開け! 5月の入山時、無事に集まったスタッフと鳩待峠に立つために

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燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第7回は、あちこちで桜の便りが聞かれる初春のお話。雪おろしと同時進行で面談などを行っています。

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第7回は、あちこちで桜の便りが聞かれる初春のお話。雪おろしと同時進行で面談などを行っています。

文・写真=髙妻潤一郎

2021年1月から始まった現地の雪おろしは、2月、3月と何度も通うこととなった。特に今期は北西からの風が強く、雪が屋根の上では南東側に大きく張り出すようになり、原の小屋ではまともに東側の屋根にべったりと貼り付いてしまう。降雪のあとの気温の上昇で融けた雪がまた凍って早くに硬くなってしまい、雪おろしそのものを難儀にさせた。

雪に閉ざされた尾瀬はアクセス方法も課題となる。2020年は暖冬でこの時期に小屋に行く機会がなかったため、私たちにとってはすべてが初めての経験となった。山スキーを使用してのアクセスは鳩待峠や富士見峠からのルートを往復し、あらためて尾瀬のすばらしさを実感したほどだ。檜枝岐の御池登山口からのアクセスもチャレンジしたかったが、これは来シーズンに持ち越しとして、是非とも実現したい。

また、3月には三平峠から尾瀬沼へのルートを体験し、「長蔵小屋」さんの雪おろしのノウハウを勉強させてもらった。

尾瀬・原の小屋

3月上旬、長蔵小屋さんの雪おろしの作業も無事に終わり、山スキーで三平峠へ。
燧ヶ岳はまだ雪がたっぷり
3月上旬、長蔵小屋さんの雪おろしの作業も
無事に終わり、山スキーで三平峠へ。
燧ヶ岳はまだ雪がたっぷり

さて、そんな雪おろしと同時進行で行うのが、今シーズンの求人に応募してきた方との面接である。履歴書を送っていただき、電話でお話しして、関東近郊の方であれば、直接お会いする。そんな人事のような仕事をしていると、ふと「山小屋の管理人の仕事とはプロデューサーや演出家のようなものなのかもしれないなぁ」と思うことがある。山小屋経営は、夏の間、公演をする作品作りを、年間を通してしているようなものではないかと…。

遡ること40年近く前、私は吹奏楽にどっぷり浸かった学生生活であった。当時高校生だった私は、我々のコンサートを盛り上げてくれる舞台照明の仕事に興味を持ち、顧問の先生にお願いして練習のない休日は、舞台照明のお手伝いをさせてもらっていた。そして本格的な山の世界に入るまでは舞台照明の仕事もしていた経験がこんな想像をさせたのかもしれない。

キャスティングとも言える応募者との面接は、通り一遍なものではなく、時間をかけて私たち自身も見ていただいて、そのうえで相互が納得してから小屋の仕事に就いていただきたいとの思いがある。そこには「原の小屋」ならではの仕事への考え方(シナリオ・脚本)の説明などもあるだろう。そして気心の知れた間柄となり、約半年のあいだ同じ釜のめしを食べるファミリーになってもらわなければならない。だから会うことが可能な方とはできる限り時間を作ってお会いするようにしているのだ。

尾瀬・原の小屋

かつては山小屋で、友人であり、作編曲家・民族笛奏者の山崎泰之氏(右)とともに
「山のコンサート」を開催した。原の小屋での開催も夢みて…
かつては山小屋で、友人であり、作編曲家・民族笛奏者の
山崎泰之氏(右)とともに「山のコンサート」を
開催した。原の小屋での開催も夢みて…

そうして5月の入山の時に、無事に集まったスタッフ(キャスト)とともに鳩待峠に立つことができれば、管理人としての今シーズンの山小屋の仕事は3分の1は終了したようなものかもしれない。あとは「2021原の小屋の小屋開け(幕開け)」の日にむけて、毎日毎日、稽古を続けるのみである。なにしろ季節労働の山小屋の仕事は、ほとんどのスタッフが毎年新しく入れ替わる。そのため毎年オープニングスタッフで小屋開けから営業開始になるまでの短期間で、すべての体制を作り上げていかなければならない。

除雪や冬囲いの撤去から始まり、小屋の内部では部屋掃除や、お客さんへの配膳から下膳のしかたなど覚えてもらうことも多い。しかしそれをゆっくり覚えてもらうほどの時間はあまりにも少ないのが現状で、これを「今年のファミリー」で乗り切ることが最初の課題である。

さあ、“本ベル”が鳴る。本番はまもなく、スタートだ!


山と溪谷2021年5月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

※2021年度は5月22日から営業を開始しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。

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尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。
※2021年度は5月22日から営業を開始しました。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。


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プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

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