煩わしくも楽しい消防団|北信州飯山の暮らし
日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第20回は、消防団の活動について。
文・写真=星野秀樹

「火災についての緊急放送をお知らせします。」
ひときわ大きな音で、居間にある防災無線が騒ぎだす。
二階の仕事部屋から慌てて階下に降りて、無線に聞き入る。
「飯山市〇〇、▲▲さん宅の倉庫から火災発生。該当地区の消防団は直ちに出動して下さい。」
ひやっ、ウチの担当地区ではなかった。ほっと一安心するものの、いつなんどき火事や災害で消防団出動となるか分からない。緊急放送が入ったときはいつでもドキドキだ。
移住した翌年、請われて消防団に入った。
消防団というのは、火災、災害など有事の際に、常勤の消防職員に代わって活動する、地元密着型の消防・防災組織。防火、防災などの啓蒙活動も行っている。
そんなことは若い連中がやるものだと思っていたら、なにしろ少子高齢化のムラのこと。
我が区の団員は40代、50代が当たり前。ひとたび入団すれば、代わりに自分の息子でも差し出さない限り死ぬまで団から抜けられない、なんて言われている。
そもそも山間の僻地だからこそ自分たちで自分たちの土地を守るのは当たり前。まして冬季夜間には交通が途絶する豪雪地帯となればなおさらのことだ。
入団した2月末には新兵(新人)訓練なるものがあり、規律や行進の基本を学ぶ。
あれ、消防団の訓練って、ポンプ使って放水したり、災害時の心構えを習ったり、そんなんじゃないんだな。
例年4月末には観閲式なるものがあり、市長などのお偉いさん方が見守る中、市内を行進して練り歩く。ラッパに合わせて腕振って、軍隊調の号令で、気をつけ、敬礼、全隊休め。
あれ、消防団の活動って、こんなふうにパレードすることなのかな。
毎年、各分団がポンプの操法技術を競う「ポンプ操法大会」なるものが開かれていて、今年は我々の回り番だった。4人編成のチームに僕も加わり、平均年齢47歳という高齢チームの出来上がり。夕方から照明のある橋の上で練習を繰り返し、1秒でも早く、規律に従って正確に。
あれあれ、消防団の活動って、人と競うことなのかな…。
まあ、そんな疑問を持たなくもないけれど、水害に備えた水防訓練や飯山市の総合防災訓練、火災予防週間には火の見ヤグラに登って半鐘を叩き、ポンプ積載車で村内を夜警する。冬には雪に埋まった消火栓や防火水槽を掘り起こして点検するなど、火事や災害、行方不明者の捜索などの緊急出動以外にも、年間を通じて消防活動が行われている。

2017年5月、集落の東を流れる井出川上流で山腹崩落が発生し、下流域の住民に避難勧告が出た。地元である我々第10分団には当然出動命令が下り、さらなる鉄砲水の警戒、監視にあたった。
2019年10月の台風19号の際には千曲川の内水氾濫が発生して出動。ポンプによる排水作業と、村落周辺の出水の補修・保全作業にあたった。
2021年5月には戸狩温泉スキー場で下草火災が発生。この時は飯山市消防団全団員に出動命令が下り、「おらほ」のスキー場を守るために、ゲレンデ内での消火活動が行われた。
最近は火事よりも水害での出動の方が多くなったと言われるけれど、千曲川が流れる飯山市では昔から深刻な水害が後を絶たない。すでにこの8月も、発達した低気圧による豪雨で内水氾濫の恐れが生じ、排水作業のために出動したばかりだ。
温暖化による激甚災害の増加が予想される昨今、この先もますます消防団の出動機会が増えることになりそうで、山で味わう「自然」とは違う、もう一つの「自然」の存在に怯えてしまう。
そんな有事に備えるのが消防団。でもここ羽広山消防団のメンバーは、祭礼などムラの主要行事を始め、共同作業などでも中心になる実行部隊の面々だ。だから、なんだかんだと理由をつけて集まって、馬鹿話しに興じながら酒を飲む。正直、消防団活動と言っても式典や規律など、煩わしい事象も数多くあるけれど、しかしこの連中と一緒だと、なんだか楽しくやっていけるから不思議だ。
そんなわけで、こりゃやっぱり死ぬまで消防辞めれんかも、なんて思ってしまうのだった。

●次回は10月中旬更新予定です。
星野秀樹
写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。
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