上信越・戸隠山 霊気ただよい、霧立ち上る紅葉満艦飾の断崖絶壁を行く

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修験場として名高い戸隠山は、クサリ場や両側が切れ落ちた細いヤセ尾根など、難所が続く上級者向けのコースです。険しい岩と紅葉のコントラストが見事な秋の戸隠へ。

錦秋の戸隠山

古くから修験場と知られる戸隠山。紅葉に彩られた険しい岩稜を踏破する上級者向けのコースで、岩場に慣れ、しっかりした技術・経験を持った人のみが許されるコースです。

モデルコース:戸隠神社奥社入口~戸隠神社~戸隠山~一不動避難小屋~戸隠神社奥社入口

コースタイム:約7時間5分

⇒戸隠山周辺の地図

まだ参拝者もまばらな早朝、霊気の漂う杉並木の戸隠神社奥社参道から登山口へと向かいます。階段を上り始めると自然と気持ちも引き締まります。まずは、奥社で安全を祈願して登山口へ向かいます。

戸隠神社奥社参道入口

戸隠神社奥社にて山行の安全を祈願する

登山口からはすぐに急登がはじまります。ガスのせいか、濡れた箇所があり、滑りやすくなっています。岩壁に沿って進み、五十間長屋、百間長屋の岩窟にいたると、東面の断崖絶壁が目に飛び込んできます。紅葉、黄葉と岩壁を彩り、見事です。この美しい景色を胸に刻みます。

見上げる岩壁は紅葉の満艦飾

最初に出てくるのはほぼ垂直に伸びたクサリ場の胸突岩です。三点支持を守って垂壁のクサリ場を慎重に登り切ると、いよいよ、蟻の塔渡り、剣ノ刃渡りと呼ばれる、両側とも150mも切れ落ちた鋭い岩尾根の通過です。

胸突岩のほぼ垂直のクサリ場

中間部の一段降りる箇所までは幅30cmほどの狭い岩稜ですが、立って進むことができます。ここで不安を感じるようであれば引き返しましょう。

岩稜の幅は狭く、両側は切れ落ちている

一歩間違えると重大事故に直結する危険箇所であることを忘れないでください。さらに短い距離ですが、剣ノ刃渡りと呼ばれるナイフリッジはとても立って歩くことはできないよう思えます。

しかし、注意深く見ると、とても立つことができないように見える箇所でも、岩の側面に足を置けるステップがあり、岩の上部を持って、3点支持を守ってトラバースすれば比較的安全に通過できます。馬乗りになったり、四つん這いになったりする方をみかけますが、途中で動けなくなったり、バランスを崩しやすいように思われます。

蟻の塔渡り全貌。両側の切れ落ちた難所、蟻の戸渡り、剣ノ刃渡を越えると八方睨だ

さらにクサリ場を登ると八方睨です。ひとときの緊張から解放されて、周りの景色を見る余裕ができるでしょう。ガスの切れ間から、錦秋の岩壁と色づいた戸隠の森が眼前に広がる大眺望をじっくりと楽しめます。

戸隠山山頂から九頭竜山を経て一不動避難小屋にいたる稜線は、歩きやすくはなりますが、アップダウンも激しく、濡れているとドロドロの悪路で、滑りやすいです。しかも稜線の東側は断崖となっており、気を緩めることなく慎重な行動が必要です。

沢沿いの下りのクサリ場。滑落要注意

不動の避難小屋まできて一息つけます。避難小屋から戸隠牧場への登山道も、上部は崩壊が激しく、水の流れる岩場を下降するクサリ場の通過もあり、気を抜けません。ここを過ぎると、やがて沢沿いの美しい登山道をたどり、牧場へと続きます。

緊張の余韻を楽しみながら色とりどりの紅葉、黄葉にあふれた森や牧場の小径をのんびりたどるのは最高の気分でした。(取材日=2017年10月9日)

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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