画家初の画文集を復刻した一冊『高山の美を語る』
評者=杉山 修(木版画家)
言わずと知れた山岳画家・吉田博の昭和6年、55歳の時に刊行された画文集の復刻新版である。巻頭の40ページに及ぶグラビア図録が圧巻である。吉田博渾身の山の木版画が24点、原著モノクロ口絵からカラー転載の油彩画6点。これだけで展覧会に値する作品群の編集だ。
明治、大正期に「文展」「太平洋画会展」など画壇の中心で活躍していた彼が大正末期に木版画を始めてから、10年を経ての自身初の画文集である。
それまで山岳画家として描き続け、膨大な数の水彩画、油彩画そして木版画を制作したなかで彼が感じた山への敬意と愛着の念が訥々と書かれている。
「画は私の本業であるが、その題材として、山のさまざまな風景ほど、私の心を惹きつけるものはない。」と記しているように高山美、展望美、裾野美、断崖美、湖水美、高原美、山巓美を熱く語っている。そして日本アルプスをはじめ国内各地の山岳風景へ思いをはせている。さらにそれは海外の山々にも及んでいる(博はすでに明治30年代にアメリカ、ヨーロッパに渡り、現地の高山の風景を見聞している)。
博は画を描くために山に登った。その当時、山案内人(猟師)や人足を雇い、幕営というより野営に近い宿泊を繰り返して、アルプスをはじめ日本各地の山岳を巡って山旅を続けていた。
その体験からテント、天候、携行品、歩き方、道徳などにまで話が及んでいる。希有の山岳画家の最も燃えさかった時代の息遣いが聞こえる画文集だ。
(山と溪谷2021年10月号より転載)
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