山頂に行くか? 戻るか? 撤退の判断・ポイントの見極め方

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せっかく遠くから来たのだから山頂に立ちたい、と願うのは登山者の心理。しかし体調や天候次第で、目標に達する前に戻ることも大切。登山中の撤退のポイントは、どこにあるのだろうか?

 

撤退の判断のポイントを知りたい!

質問:
私は性格的に慎重なのか、一人で登山するときは天気が悪かったり、気持ちが入らなかったり、疲れたりしたときは、わりとすぐに諦めて下山しています。あとになって「やっぱり山頂まで行っておけばよかった」と思うこともある一方で、「やっぱり下山すべきだった」と思うこともあります。
撤退の判断のポイントとなるのは、どのあたりになるのでしょうか?

 

これは、非常に難しい判断です。無風快晴の安定した天候で、自分の体調の良い時だけ登頂すると決めているなら話は別ですが、自分の体調、仲間の健康、パーティーの士気が全て万全で登山する・・・、なんて、逆に不可能だと思います。

撤退のタイミングで大切なことは、「危険」と考えられる困難がある場合や、危険領域に足を踏み込みつつある時に、余裕を残して撤退の判断をすることが必要なことです。

「これ以上はヤバイ」と考える判断力が求められ、この瞬間を理解するのは経験を積むことで養うしかなくいでしょう。天候や健康状態など、少しでもマズイことがあったら引き返すでは、困難を克服して勝ち取る山頂での感激を味わうチャンスは無くなります。

ただ、誰が見ても避けるのが難しいような危険――、例えば目指す山頂方向に大きな積乱雲が渦巻いているのがハッキリ見える、雷がピカピカ鳴っている、――などという時は、どんなに、その日を楽しみにしていて、どんな遥か遠方から来たのであっても、「ダメだ。帰ろう」という判断が必要だと思います。

 

決定的になる前の判断を! ギリギリな行動は禁物

撤退の判断は、パーティ全員が危険な目に合わないことです。回復に相当期間かかるほど疲労困憊する前に引き返すことが大切でしょう。

戦(いくさ)で最も多くの犠牲が出るのは、勝ち負けが決定的となった撤退の時と言われます。敗走する負け部隊には背後から、かさにかかって敵がとどめを刺しに来る、ちりぢりバラバラになった負け組は必要以上の犠牲を出す。戦の場合、負け組の一番後ろの殿部隊(しんがり)は最も強力で、統率のとれた落ち着いた人々で構成されるのは、こういった理由です。

ギリギリまで山頂を求めて行動して、食料、燃料、フィックスザイルを使い果たしてでは撤退は困難な行動になります。いつも安全を頭に入れて山頂を目指し、「今日は縁がなかったな」となったら、元気なうちにとっとと帰る事が大切です。

ただし、例えば厳冬期の北アルプス北部などのように、「悪天候が当たり前、吹雪が普通」といった厳しい山域もあります。こんな山では天候の周期を観察し、考えられる限りの準備をして、体調を整えて山頂を目指すことになります。万全の体制で、それでも撤退となる場合は、挑戦した者には成功以上に意味のある充実感があることも知っていて欲しいと思います。

 

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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