格安でDocomoとauの電波を利用! 山のスマホにデュアルSIMがお勧めの理由

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

通信事業者(キャリア)によってカバーエリアが違うため、「登山に強いキャリア」という話が話題になりがちだ。しかし、昨今のMVNO市場の活況や、大手各社の割安プランの登場、eSIMといった規格の登場により、複数のキャリアをお値段据え置きで、1つの機器で扱えるということも出来るようになっている。

 

私事ながら、先日スマホの通信事業者(キャリア)を楽天モバイルに変更しました。乗り換えのきっかけのひとつは、“維持費の安さ”に他ありません。以前使用していた某大手キャリアと比較し、楽天モバイルの通信料はほぼ半額。その反面、サービスエリアの狭さが大きな不安材料となっていたことも事実です。

山でのリスクも考慮しつつ選択した楽天モバイル。家計の節約になったのは間違いない


旅行や登山で電波状況の悪い地域に行くことも多い筆者が、なぜあえて楽天モバイルを選んだのか。実は、auやドコモの電波を同時につかむ「裏技」とも呼べる方法があったからなのです。

 

山に強いキャリアはDocomo? au? それとも・・・?

本当に山に強いキャリアはどこなのか、それは登山者なら誰もが気になるトピックでしょう。少なくとも筆者が登山専門の旅行会社で働いていた10年ほど前までは、圧倒的にドコモ一択といった雰囲気でした。しかし、2021年に富山の山奥へ移住した友人夫妻からは、「最近の林業関係者はauユーザーが多い」とも聞いています。

あくまで個人の感想というレベルではあるものの、山仲間へのヒアリングやネットの情報などを加味すると、“ドコモ優位ながらauが拮抗し、ソフトバンクも追随”という結論が、当たらずといえども遠からずなのではないでしょうか。結局のところ、現在では三大キャリアのいずれかのネットワークを使えれば大きな不満は抱きづらいと言えそうです。

11月に富山の友人と登った金剛堂山。楽天はもちろん、auの回線も途切れ途切れだったが。


そんな中、クチコミがほぼゼロという新興キャリアならではのリスクを理解した上で、筆者が乗り換え先を楽天モバイルに決めた理由。それは、安さに加えて「auの電波をローミングできる」という特徴があるからです。

ローミングを知らない人のために簡潔に述べると、「携帯電話やPHS、またはインターネット接続サービス等において、事業者間の提携により、利用者が契約しているサービス事業者のサービスエリア外であっても、提携先の事業者のエリア内にあれば、元の事業者と同様のサービスを利用できる(引用:Wikipedia)」こと。auと提携している楽天モバイルの場合、楽天のエリア外でもauの電波が届く限りインターネット接続や通話が可能なのです。

 

登山のリスクヘッジとしてデュアルSIM運用を勧めるワケ

ただし、他社に通信インフラを借りるキャリア側からすれば、ローミングサービスは単なる「客寄せパンダ(楽天だけに)」に過ぎないのかもしれません。事実、楽天はauに多額の回線使用料を払わなければならないため、自社の通信網が整い次第、ローミング可能な範囲を順次狭めていく予定です。すでに東京都や大阪府などの都市部を中心に打ち切りが始まっていますし、今後は山間部においてもauのエリアが利用できなくなる可能性が考えられるでしょう。

電波が繋がらなくなるリスクは、なにも楽天モバイルに限った話ではありません。先日もドコモで大規模な通信障害が発生し、12時間に渡って音声通話やデータ通信が行えなくなったユーザーがいたのは記憶に新しいところ。回線が使えなくなる理由が既定路線なのかトラブルなのかに関わらず、万が一、登山の緊急時に携帯が利用不可になっていたら・・・、と考えるとゾッとします。

このような事態に備えるひとつの答えが、スマホの「デュアルSIM化」です。例えばiPhoneの場合、XS/XS Max/XR以降の機種だと、カード状の物理SIMに加えて、eSIMと呼ばれる端末内に組み込まれたデジタルSIMを併用できるようになっています。この機能を使うことにより、ひとつの端末が複数キャリアの電波網に繋がるようになるのです。

筆者のiPhoneは、メインである楽天モバイルのeSIMに加え、サブにLinksMateの物理SIMを挿しています。LinksMateはMVNOと呼ばれる格安SIMを提供する会社のひとつですが、ネットワークにドコモのインフラを使っているため、山中でも安定した通信が期待できます。つまり、この組み合わせであれば、ローミングを含めて楽天/au/ドコモの3回線がつかめるという寸法です。大手キャリア1本で運用するより通信障害へのリスクに強く、山でも使い勝手の良いスマホが完成したのではないでしょうか。

ドコモのネットワークかつ低価格で維持できることが、サブSIMにLinksMateを選んだ理由


ちなみに、現在契約しているLinksMateの費用は、1ヶ月あたり165円。最安プランのため容量は100MBと心許ありませんが、それでも1時間当たりのデータ使用量が18MBほどのLINE通話であれば、5時間以上は使用できる計算です。

 

110番不可! データ専用SIMで緊急通報する裏技とは?

一方、格安SIMの利用には注意点もあります。それは、「データ専用プランの場合、110番などの緊急通報が利用できない」ということ。筆者の環境だと、楽天またはauローミングのエリア内であれば通常の電話アプリで対応できるものの、ドコモの電波しか繋がっていない場合に110番へ発信するのは不可能です。

もとよりデータ専用のみで契約しているため電話が使えないのは当然として、LINE()やSkypeなどインターネット回線を使ったIP電話アプリも、発信者の位置が表示されないという特性から110番は利用できません。仮にこれらのアプリを使って通報する際は、最寄りの警察署などの代表番号へ直接かける必要があることを覚えておきましょう。

意外と知られていませんが、LINEは一般の電話番号にも発信可能です。iPhoneの場合、LINEアプリ→ホーム→サービス→もっと見る→LINE Out(有料)/LINE Out Free(無料・固定電話への通話は3分まで)から利用できます。


万が一、事故時にデータ専用SIMしか機能していない場合は、警察庁による「110番アプリ」の利用を検討するのも手です。本来は聴覚や言語に障害のある方などに向けたアプリですが、警視庁ならびに神奈川県の警察本部に登山での利用可否を確認したところ、「緊急の際は手段を選ばずに通報してください」と、力強い回答をいただきました。インターネット回線を利用してチャット形式で通報できるほか、GPSの正確な位置情報や写真も送付することができるため、登山中の事故対応にも適したシステムだと考えられます。

110番アプリの練習モード。右側の「いいえ」を押すとトップに戻されるUIは疑問だが・・・


とは言え、被救助者側も救助者側も、110番や119番でのやり取りが最もスムーズなのは間違いありません。スマホの登山利用においてはランニングコストより安全性を重視し、メイン/サブのSIM共に音声通話が可能なプランで運用するのがベストな選択肢になるでしょう。格安SIMでも追加料金を支払えば一般の電話アプリが利用可能(LinksMateだと1ヶ月あたり517円から)ですし、ここ数ヶ月で大手キャリアもeSIMの提供を開始したため、理論上はドコモ+auなどといった贅沢なコラボも可能です。

 

3G回線終了で、山のスマホ難民は増加するのか?

今回の記事では、「山に強いキャリアの電波を複数つかむ方法」「格安SIMで警察に通報するテクニック」といった、登山中にスマホをより便利に使うためのライフハックを紹介しました。しかし、実際の山のフィールドでは、“ドコモもauもソフトバンクも、もちろん楽天もつながらない”という状況は少なくありません。しかも、そのような電波の空白地帯は、近い将来にむしろ増えてしまうかもしれないのです。

その根拠は、3G回線の停波です。2022年3月のauを皮切りとして、2026年までにソフトバンクやドコモも3G回線を終了する予定となっています。4G/5G回線への切り替えにあたっては人口カバー率を減らさないのが前提とされていますが、そもそも人が暮らさない山岳地帯は整備の優先度も低いのは当然の理論。今まで3Gがギリギリつながっていたエリアでも、今後も継続して電波が届く保証はありません。

山頂など開けたところは電波をつかみやすい場所のひとつ。道に迷ったらピークを目指そう


実際のところ、auのスマホはiPhone8の時代から3G回線が利用できなくなっています。ドコモやソフトバンクも設定を変更しないと3Gにはつながりませんし、もとより楽天モバイルは自前の3G基地局を持っていません。そのため、現時点で不便を感じていない方が大きく心配する必要はありませんが、他方でいまだに3Gしか入らない登山道や山小屋が多々あることも事実。ライフラインとして3Gスマホやガラケーを愛用しているユーザーは、早めに今後の対応策を検討すべきフェーズに至っています。

 

「ネットに頼らない」現代の登山リテラシーを身につけよう

筆者が山の添乗員として各地の山を巡っていた一昔前と比べれば、スマホにできることは飛躍的に向上しました。純粋にテクノロジーの進歩は喜ばしいことですし、登山の楽しみ方や安全性を拡張してくれているのは事実です。しかし、登山者のスマホへの依存度も自ずと高まってしまっているのではないでしょうか。

やはり、生殺与奪の一端をインターネット回線の有無に委ねるのは危険です。スマホに頼らない登山の技術や装備を身につけるのはもちろん、入山前に電波が入らない可能性をロールプレイングすることは、現代の登山リテラシーのひとつだと言えるでしょう。

スマホのトラブルを念頭に置き、紙の地形図やガイドマップは必ず装備したい。ヤマケイオンラインからも簡単に印刷できる

 

プロフィール

川上哲朗

日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ、旅程管理主任者。(株)風の旅行社で主にネパールトレッキングの企画・販売を担当。
コロナ禍において山のライター、シラス漁師、鮮魚店の売り子、ポニーのお世話などの副業を始め、あらためて自分の好きなことを仕事にする喜びを感じている。1985年生まれの子育て世代。ペットは深海生物のオオグソクムシ 。

登山ガイド/添乗員は浮かばれない ~登山ガイド業の光と影~

旅行会社勤務の登山ガイドが語る、山と仕事に関するあれこれ。一見楽しそうに見えるガイド業、その実際は?

編集部おすすめ記事