長崎県・郡岳で春の日差しを感じる山歩き。人造湖・野岳湖が見せる箱庭のような景観
長崎県・郡岳は多良岳山系の最西端に位置する山です。山頂は展望がよく、山麓の野岳湖が箱庭のような景観を見せます。
寒さも峠を超えて山麓では、梅の香りが風に乗り菜の花が咲く季節になりました。暖かくなったから、少し長い距離を歩いてみようかと、長崎の郡岳へ向かいました。
車を野岳湖畔の北東にあるロザ・モタ広場に停めてからスタートします。この場所を選ぶのは、南登山口から山頂そして西登山口へと周遊して野岳湖の中央部にかかる野岳大橋を渡り、湖面越しの郡岳を眺めてゴールするという私の中ではベストコースだからです。3月中旬からはたくさんの桜も迎えてくれます。
野岳湖は公園として整備され多良岳県立公園にも指定された景勝地です。この湖は江戸時代に捕鯨で財を成した深澤義太夫が、2年弱の歳月をかけて完成させた周囲3kmの人造湖です。今では、緑豊かでキャンプ場やサイクリングロードがある憩いのスポットとなっています。
ロザ・モタ広場からしばらく車道を歩くと、駐車スペースと「南登山口」の標識とトイレがあります。北に伸びた登山道には随所に「郡岳山頂」の案内板がありそれに従って進んでいきます。
次第に傾斜が増してきますが、道が南に面しているため春の日差しは暖かく、照葉樹の森をよりきれいに見せてくれる楽しい春の山歩きです。時折現れる山頂までの距離を表すプレートも励みになります。
ホウジロやシジュウカラのさえずりを聞きながら、のんびり歩いていると足元にホコリタケだと思われる丸いキノコを見つけました。夏から秋にかけて稀に見つけることがあるのですが、春までそのままの形を残しているようです。
変わった生態で、紙風船のように膨らんだキノコ本体を突いてみると上の方の穴から煙のような胞子が吹き出してきます。動物がこれを踏むと周囲に胞子が飛んでいくという構造だそうです。
斜度が更に増す道も、ジグザグに刻まれているので歩きやすく、やがて西登山口コースにある坊岩への分岐に着きます。ここを右側へ進むと視界がひらけ、平坦な郡岳の山頂に到着です。山頂手前では、経ヶ岳・多良岳からの縦走路があわさります。
多良岳や経ヶ岳の山頂から、郡岳まで延びる長い稜線を見ると、すごく離れていても郡岳も多良山地の一部だということが分かります。太古からの多良岳火山の活動の大きさを想像することができます。
広場になった山頂からは大村湾を一望し、広大な大野原(おおのばる)高原やお椀を伏せたような美しい形の武留路山(むるろ)付近には箱庭のような景色が広がっています。
展望を楽しんだら、西登山口コースを下山します。急な下りを慎重に下って行くと、西の斜面に突き出た露岩の坊岩につきます。身を乗り出すと足がすくむような高度感と展望も楽しめます。
この後も、急な道を下り足場の悪い箇所を通過すると傾斜も緩み、やがて高圧線の真下を通過する場所があります。ここから後ろを振り返ると、先程いた坊岩を仰ぎ見る事ができるポイントです。
植林の中を抜けると車道に出ます。ゴルフ場の横を通り野岳湖東テントサイトから野岳湖大橋を渡ります。湖面越しに見える郡岳に今日一日の達成感を感じます。
東側には、日本最西端にある1000m級の山である経ヶ岳の鋭く尖った山頂も見ることができます。橋を渡ったロザ・モタ広場には早咲きのサクラやコブシの花が「お疲れさま」と迎えてくれました。
紅葉もきれいな場所なので、秋にもまた歩きたいコースです。
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
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