ハトの首振りは何のため? 身近な鳥の不思議

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馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。そんなハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった本『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(山と溪谷社)より、思わず誰かに話したくなるハトの秘密のエピソードをご紹介。

第1回目はどうしても気になってしまう!? ハトの首振りの話です。

 

首を振って歩いているわけではない?

ある日、テレビ番組を見ていたら、芸人さんがハトの物真似をしていた。首を前後にピョコピョコ振りながら歩く姿は確かにハトそっくりである。ハトといえば、この首を前後に振って歩く姿が定番だ。

この首振り歩きは、昔から理由が気になってしかたがない人が多いようで、鳥の歩行やハトの首振りを研究している知人の藤田祐樹さんは、テレビや新聞、雑誌からずいぶん取材を受けたそうだ。その藤田さんの本『ハトはなぜ首を振って歩くのか』を参考にその理由を考えてみたい。

さて、ハトの首振りについての最初の研究は一九三〇年までさかのぼるという。

ハトが歩く様子を横から秒間三〇コマで撮影したイギリスの研究だ。それによると、ハトは歩きながら首を振っていたのではなく、頭を静止させていることがわかった。

ハトが歩くときの様子はこうだ。

①首を伸ばして頭を静止。
②頭の位置をキープした状態で首を縮め、体を引き寄せるように前へ進める。
③また、首を伸ばして頭を静止。
④頭の位置をキープして体を前へ進める。

これを高速で繰り返して歩くと首を振っているように見えるのだそうだ。

 

ハトの流し目は見ることができない

では、なぜ、頭を静止させているのだろうか。それは物をよく見ようとするためだと考えられている。

私たち人間は、走っている電車の窓から景色をよく見るにはどうするだろう。流れる景色のスピードに合わせて、首を横に動かすか、眼球をキョロキョロ動かすのではないか。景色が移動する速度に視線の動きを同調させないとブレてよく見えないからだ。

じつはハトの首振りも、同じ理由なのだという。ハトの目は頭の横に位置している。頭の横に目が付いていると、歩いたときに景色が前から後ろへ流れていく。その場合、景色をよく見ようと思ったら、人間だと流れに合わせて眼球を動かすだろう。ところがハトなどの鳥の眼球は、頭骨に対して非常に大きいため、ほぼ固定されており動かすことができない。ハトの流し目を見ないのは、目玉が動かないからだ。

したがって景色をよく見ようとキョロキョロすることはできず、頭を静止させて流れを止めてブレないようにしていたのである。鳥は幸い首が長くてよく動く。その柔軟性を利用して頭を景色に対して静止させ、ブレないようにしてよく見ているのである。

 

首振り歩き採食法

では、ハトは何をよく見ようとしているのだろうか。その答えは、首振り歩きをしているハトを観察することでわかる。

歩いているハトが、ときどき地面を嘴でつついている光景を見たことはないだろうか。じつはこれ、食べものをとっているのだ。あまりにも動きが速いので、何をしているのかわかりにくいが、地面を歩いているハトは、ほとんどの時間、食べものを探し食べているのである。簡単に言えば、足下に落ちている食べものを歩きながら見つけてはパクッ、見つけてはパクッと食べ歩きをしているわけだ。

でも、歩きながらでは、足下の近い距離にあるものはブレてしまってよく見えないという困ったことが起きる。例えば、電車の窓から遠くに見えるスカイツリーはほとんど動いていないのでよく見えるが、線路のそばにある看板はものすごい速さで動いてよく見えないのと同じだ。

じゃあ立ち止まって、じーっと見つめればいいじゃないかと思うが、それではたくさん食べられない。食べものがあちこちに散らばっていることがほとんどだから、歩きながらどんどん拾っていかないとちょっとしかお腹に入らないのだ。

そこで編み出されたのが、首振り歩き採食法である。歩きながら頭を静止させてよく見て食べものを探し、見つけたらばパクッと食べる。それを連続して行うと、首を振って歩いているように見えるのだ。これがハトが首を振って歩く一番の理由なのである。

じつは、首振り歩きをする鳥はハトだけではない。ニワトリやキジ、セキレイなども首振り歩きをする。そのどれもが、歩きながら足下に落ちている食べものを見つけて食べる習性の鳥である。面白いことに、ユリカモメはただ歩いているときは首を振らないが、食べものを探しながら歩くときは首を振る。このことから、近い距離のものをよく見ようとするときに首を振る、言い換えれば頭を静止させてよく見ているといえるだろう。

皆さんも、どんな鳥が首振り歩きをするか、しないのか、注目してみると面白いかもしれない。

 

※本記事は『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(山と溪谷社)を一部掲載したものです。

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【著者略歴】

柴田 佳秀(しばた・よしひで)

1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業。テレビディレクターとして北極やアフリカなどを取材。「生きもの地球紀行」「地球!ふしぎ大自然」などのNHKの自然番組を数多く制作する。2005年からフリーランスとなり、書籍の執筆や監修、講演などをおこなっている。主な著書・執筆に『講談社の動く図鑑MOVE 鳥』(講談社)、『日本鳥類図譜』(山と溪谷社)、『カラスの常識』(子どもの未来社)など。日本鳥学会会員、都市鳥研究会幹事。

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