今まで見過ごしてきた雑草の美しさと逞しさを知る「あした出会える雑草図鑑100」

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長く続いた感染症対策で生活様式が変わり、近所を散歩する機会が増えたという人が増えたという。そんな散歩のお供に、ぜひ連れていきたいのがこの本。今まで見過ごしてきた雑草の美しさに気づくはずだ。

 

この春、筆者が写真を撮り植物解説文を書いた植物図鑑を作り、山と溪谷社からやっと出版することができた。それが『散歩道の図鑑 あした出会える雑草の花100』。山の植物図鑑ではなく、街なかで身近に見られる植物を紹介した雑草図鑑だ。

あしたの散歩が今日よりもっと楽しくなる『あした出会える雑草図鑑100


この雑草図鑑の特徴のひとつは写真が大きくわかりやすいこと。ハンディで軽い図鑑であっても全体の写真は大きめで、植物それぞれの姿を印象的に見せている。地味であまり目立たない植物も、その植物の特徴がよくわかるように撮影した。

雑草1種に数枚の写真を使っており、メインカット以外の写真では花や果実の超拡大写真などを載せている。普段気づかないで見過ごしてきた雑草の美しさや奇抜な面白さがパッと見てわかるように撮影したつもりだ。また、よく似た植物の見分けるポイントなどを並べて見られるように配置し、わかりにくい植物も見分けることができるようにしている。

少し前に、よく見かけたオレンジの花「ナガミヒナゲシ」。実になっている姿を探してみよう


植物はひとつひとつ個性がある。個性とは長所であり短所でもある。植物はひとたび芽生えると、その長所を生かし、その環境に対応するための成長戦略を絶えずねっていなければならない。都会の環境は栄養や水は貧弱でむしろ砂漠に近い環境だ。さらに都会は花粉を運ぶ昆虫は少なく、空き地はすぐに整備されたり刈り取られたり、植物にとって非常に厳しい環境である。だから、街なかに生える雑草と呼ばれる植物たちは、過酷な都市環境の自然にも対応せざるをえないから色々な工夫をして、さらに工夫を組み合わせながら生きている。

サギでも苔でもないのに、なぜこの名前なのか? ぜひ調べてみよう


乾燥に強い体、花粉を媒介する昆虫に頼らない受粉システム、刈り取りに強い生活サイクル、踏まれに強い小さな体、などの植物それぞれの長所を磨きに磨いて、大きな負担に耐えながら生き抜き、都会の片隅に、自分たちのための小さな世界を築いている。

都市環境に対応してしまった植物たちは、他の植物との競争に負けてしまうために、都市環境でしか生きることができないのだ。さまざまな環境に生き抜くことが必要な植物にとって、長所が時に短所になってしまう。それぞれの環境に合った多様性が重要なのだ。

ただ植物の外見や分類についての図鑑にはならないように、文章はその植物の生き方についての記述の比重を大きくし、植物にできるだけ寄り添った立場で書いた。植物に興味が持てるようになって欲しいという思いからだ。名の由来、よく似た植物との見分けるポイント、帰化の歴史など、それぞれの雑草の持っている個性について書いた。

こんな感じで花に近づけて確認してみよう。きっと、道端に育つ植物を見つけ出せるはずだ


植物の個性は形もそうだが、なぜそのような形になっているかは、それぞれの植物の生き方によって変わってくる。生き方の違いによる自然のおもしろい形としくみ、複雑な関わり合いなど、それぞれの雑草の個性と自然のおもしろさがこの図鑑で一番言いたいことなのである。

雑草という言い方には、「雑草なんか、どれもそれほど違いがない」という考えが根底にあるだろう。しかし、どの雑草と呼ばれる植物にも、それぞれの生き方と特徴がある。だから、この図鑑ではその多様性に重点を置き、それぞれの雑草にキャッチフレーズを考え、個性にスポットを当てて、雑草のキャラを立てた、ちょと変わった植物図鑑である。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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