はじめての山歩き講座① 登山の魅力ってなんだろう?

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豊かな自然に身を置いてゆったりと歩き、山の頂上をめざす登山。つらいことを乗り越えるというイメージを持つ人がいる一方、山の魅力に触れて登山を楽しんでいる人も多い。登山に興味があるという人に、登山の特徴や魅力を伝えよう。

文=西野淑子、写真=PIXTA

山の魅力を知ろう

魅力その1、美しい景色

美しい水と緑の景観、展望地から眺める山々の連なり。山ではさまざまな景色が楽しめる。木々が生い茂る低山にも、森林限界を超えた高山にも、それぞれの魅力がある。登山道を一生懸命歩いてたどり着いた場所であれば、絶景への感動もひとしおだろう。

森林

木々が茂る樹林の中を歩くのは心地よいもの。低山の広葉樹林は植生が豊かで、芽吹きや紅葉の時期が美しい。中級山岳のシラビソやコメツガの林、温暖な気候の山の常緑樹の森など、山域や標高によって異なる植生の森林が楽しめるのもいい。

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北八ヶ岳・白駒池付近の原生林

高原

標高が高く広々とした高原は、のびやかな景観が楽しめるのが魅力。一面に草地が広がり、夏にはニッコウキスゲやヤナギランなどの花が咲き乱れるのも美しい。散策路を歩いたり、高原道路のドライブなども楽しみ。

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穏やかな草原が広がる長野県・三峰山

清流

清冽な水が流れ、深い森をうるおすような渓谷が、山では至る所で見られる。沢沿いの登山道や渓谷歩道を歩けば心地よく響く水音に癒されるだろう。勢いよく、あるいは楚々と流れ落ちる滝も渓谷の楽しみのひとつだ。

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水の流れる音が谷間に響く黒部川・十字峡

稜線

うっそうとした樹林を登り切り、眺めのよい稜線に出たときの開放感は登山ならではの喜び。周りに山々が連なり、山の広がりや奥深さを感じられる。日本アルプスなどの高峰が遠くに見えれば感激もひとしおだ。

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南アルプス・農鳥岳へと続く稜線

魅力その2、四季の移ろい

日本には春夏秋冬の季節があるが、山では四季のうつろいをより深く実感できる。木々が芽吹き、花木や草花が咲き乱れる春、日差しが勢いを増し、緑がどんどん色濃くなる夏、涼しい風とともに木々が赤や黄色に色づく秋、木々が葉を落とし、一面が雪に覆われて静寂の世界となる冬。同じ山でも季節を替えて訪れれば新たな魅力に気付くことができるし、春先や秋などは10日違うだけでも木々や草花の様子が異なっていたりする。

夏にはさまざまな花が咲き誇る中央アルプス・千畳敷

赤に黄に染まる秋の北アルプス・涸沢

魅力その3、山に住まう生き物たち

山には多くの動植物が生息している。低山であってもサルやシカなどの動物に出合えることは多く、イノシシが地面を掘り起こした跡など動物の痕跡を見ることもできる。雪山を歩けば、動物の足跡が点々と続いているのが愛らしい。樹林の中で鳥の鳴き声を耳にしながら歩くのは楽しいし、一瞬でも姿が見られれば嬉しい。梅雨時にはカエルの鳴き声が森に響き渡り、沢を眺めれば悠々と泳ぐ川魚の姿も。命に満ちあふれた山の姿を間近で実感できる。

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特別天然記念物に指定されているカモシカ

魅力その4、山で過ごす時間

日の出とともに1日が始まり、日が暮れて山が真っ暗になると1日が終わる。山には街中とは違う、ゆったりとした時間が流れているように思う。とくに山小屋泊まりやテント泊、山で一夜を過ごすときに、山の時間の流れを感じることができる。夜の闇を照らす街灯はなく、メールや携帯電話などの通信手段も乏しい山の中。自然のまっただ中にいることを実感し、太陽とともに行動する心地よさを感じることができるだろう。

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山の上でのんびりとコーヒーを飲むひとときは格別

山の環境を知ろう

山という大自然の中を歩くために、登山者は山特有の環境に対応できるように準備をしておく必要がある。山の環境を知っておこう。

山の特徴その1、気温が低い

標高が1000m上がると気温は6〜7度下がると言われている。雨が降ったり風が強いときなどは体感温度がさらに下がる。標高500m以下の低山だと街中との気温差はそれほど感じないかもしれないが、真夏、街中で30度近い気温のとき、3000m級の山では10度前後ということになる。

山の特徴その2、天候が変わりやすい

凹凸があり複雑な地形の山地では上昇気流や下降気流が発生しやすく、雲が発生/消滅を繰り返している。そのため、平地に比べて山は天候が変わりやすい。平地で晴れていても山では曇りまたは雨ということも多く、標高の高い山では山麓の天気予報と天候が異なることも多々ある。

山の特徴その3、水や食料の現地調達が難しい

街中ではコンビニやスーパーが至る所にあるが、山中では水や食糧を買うことができるのは山小屋や山頂の茶店ぐらい。山域によっては登山道に向かう途中にコンビニや商店がない場合も多々ある。登山道中に水場がないルートも多く、水や食糧など必要なものは事前の調達が望ましい。

山の特徴その4、登山道でも危険な箇所があるルートも

登山道は大半が未舗装の山道。整備された登山道であっても、木の根や岩が露出しているなど歩きにくい場所が多く、登山者の少ないルートでは登山道が判別しにくい場合もある。山によっては、鎖のついた岩場を登ったり、細く切れ落ちた稜線を歩くような危険箇所もある。

山の特徴その5、緊急時の対応が困難

急病や怪我のとき、救急車などが入れない山の中では救助の方法が限られ、救援が来るまでに時間がかかる場合がある。そもそも携帯電話の電波がつながらない場所も多い。命に別状のない怪我であっても、未舗装で傾斜のある山道を自力で歩くのは難しく、時間もかかる。

楽しく山に登ろう

自然の中に身をおいてどっぷりと向き合う登山は、楽しく心地よいもの。自分の足で歩き、そこでしか見られない景色にたどり着いたときの達成感は大きいものだ。一方で、自然の中で人ができることは限られており、事故や遭難のリスクは常に少なからずある。登山で起こりうるリスクを正しく理解し、準備をして山に向かうことで、充実した山の時間を過ごすことができるだろう。ひとりでも多くの人に、山の魅力を満喫してもらいたい。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

はじめての山歩き 〜安全に楽しく山に登るために〜

はじめて山歩きを始める人に。山に登る前に知っておきたい、基礎知識を紹介。

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