はじめての山歩き講座② 登山の服装と持ち物
日常生活にはない、雄大な景色が広がる山を登るのは爽快です。けれども山では、ある時は強い日差しが降り注ぎ、またある時は風雨が吹きつけたりもします。登山とは、そのように様々に変化する環境の中で行なうアクティビティ。環境に適応できるウェアを身につけて、必要な持ち物は全て自力で背負って移動します。これから登山を始めるのならば、まずはめざす山に適したウェアや持ち物を揃えていきましょう。
文=木元康晴
登山の服装
山は標高が上がるほど気温が低く、天気も変わりやすいもの。朝は寒くて震えていても、日中は汗が吹き出ることも少なくない。そのため登山用ウェアには、様々な環境に対応できるように防寒、速乾、防水、保温などの機能が求められる。
特に重要なのは、体を濡らさないこと。濡れは不快なだけでなく体温も奪うため、気温が低いときには低体温症にも結びつく。 山でウェアが濡れる理由は、雨だけにかぎらない。汗によって内側からも濡れてくる。
それに対処するテクニックが、機能が異なるウェアを重ね着するレイヤリングだ。気温や天候に応じて、重ね着したウェアを脱いだり着たりすることで、外側だけでなく内側からの濡れも防ぐことができる。
ベースレイヤー
直接肌の上に着るウェア。選ぶときのポイントは、吸汗性と速乾性が高いこと。登山中は汗をかき、内側からどんどん濡れる。ベースレイヤーはその汗を素早く吸収して、発散したり、ミッドレイヤーへ移したりすることで肌のドライさを保つ役割がある。素材は、暖かな季節は化学繊維、寒い季節にはウールが一般的。また気温が高くて暑さを感じるときには、Tシャツタイプのベースレイヤーを着用して、そのまま行動することもある。
ミッドレイヤー
ベースレイヤーとアウターレイヤーの間に着るウェアで、吸汗拡散性が高いものが適している。ベースレイヤーが発散した汗を吸収し、さらに外側へ拡散することで肌の濡れを防ぐ。またミッドレイヤーのもう一つの役割は、空気の層を作って暖かさを保つこと。特に気温が下がる秋は、この保温性が重要。ミッドレイヤーの種類は、中厚のシャツや化繊綿のジャケットなどさまざま。2種類程度を組み合わせて着ることも。
アウターレイヤー
もっとも外側に着るウェアで、基本的に雨を防ぐレインウェアとなる。重要なのは、防水透湿性が高いということ。これは雨を防ぐと同時に、発汗で内側が蒸れた状態になるのを防ぐ必要があるため。サイズ選びも大切で、内側に他のウェアを着ることを想定し、少しゆとりがあるものを選ぼう。レインウェアは雨が降っていなくても、風や寒さを防ぐために着用することも。また夏の防風目的ならば、薄手のウィンドブレイカーがあれば、動きやすくて快適だ。
防寒着
行動中に立ち止まって休憩したり、宿泊先で一夜を過ごす際に着る、体温を保つためのウェア。保温力が高く、収納時にはコンパクトになるものを選ぼう。最適なのはダウンジャケットで、保温力は抜群で小さくなり、とても軽量。ただし濡れには弱いというデメリットも。そのため、雨が多い時期であれば、濡れに強い化繊綿を使ったインサレーションを選ぶというのも一つの方法。夏は薄手のマイクロフリースを着るのも快適。
ボトムス
防寒性や怪我の予防を考えると、ロングパンツが基本。選ぶときのポイントは、ストレッチ性と耐久性を兼ね備えていること。さらに朝露などで濡れることも多いので、撥水性が高い、速乾性のものが快適だ。または、動きやすさやを考えると、ショートパンツにタイツを組み合わせるという選択肢もあり。特に筋肉や関節の動きを補助する、サポートタイツを履く場合には最適。気温が高い日でも、蒸れにくいというメリットもある。
その他ウェア類
帽子は頭部を保護し、日差しを遮るために必携だ。キャップタイプは動きやすく、ハットタイプはより日差しを遮る。好みのタイプを選ぶといい。手袋は、手を保護する役目があるが、特に役立つのは雨天時。防水タイプのレイングローブを着用することで、雨の冷たさから手指を守ってくれる。ソックスは、クッション性を持つ中厚手のものがおすすめ。さらに必須ではないが、ゲイターを着用すると登山靴へ雨や小石が入るのを防げる。
登山の持ち物
行動中に必要になるものを、すべて持ち運ばなければならない登山。持ち物は、食べ物や飲料水のほか、非常時に使うエマージェンシーシートなども含まれる。特に歩行の要となる登山靴は足に、荷物を入れるザックは背中に接する。この2つは、自分の体に合うものを、丁寧に選ばないと苦労することになる。
重さも重要で、できるだけ軽量なモデルを選びたい。ただし超軽量タイプは使いこなしにコツや慣れが必要で、登山初心者には不向き。一般的なモデルの中から、体に合うことを第一に、次に軽さを優先し、その上でデザインなども見て選ぶようにするのがおすすめ。
登山靴
山行スタイルに合わせてさまざまな種類があるが、日帰りハイキングから1泊程度の登山まで、幅広く使えるトレッキングシューズがおすすめだ。さらに登山初級者は、ハイカットタイプを選ぶのがよい。くるぶしまでしっかりと覆うことで、筋力不足をサポートしつつ、捻挫しやすい足首を保護する効果もあるためだ。なにより、ジャストサイズを選ぶことが重要だ。メーカーごとの足型の違いは大きいので、必ず登山用品店に行って自分に合うものを探すようにしよう。
ザック(バックパック)
ザックの容量は「ℓ」で表される。目安は日帰りが20~30ℓ、小屋泊が30~45ℓ、テント泊が50ℓ以上。荷物を入れて背負ったときに感じる体感の重さは、ザックの重さ以上に、体にフィットしているかどうかで変わる。さらに重さを肩だけでなく、腰にも分散できるように、ヒップベルトがしっかりとしたタイプが楽に背負える。メーカーごとに、ショルダーベルトの間隔や生地の硬さなど、ザックの違いはさまざまなので、こちらも登山靴と同様に、登山用品店で実際に背負ってみて選ぼう。
その他装備一覧
下に日帰り登山に役立つ装備を紹介。登山前にチェックしよう。
※必携=○、あると便利=△
登山靴 ○
不整地を歩くためには必須の、重要な基本装備。多用途に使用できる「トレッキングシューズ」がお勧め。
ザック ○
荷物を背負うためには必須の、重要な基本装備。日帰りでは30l以内、小屋泊では40l程度が最適。
ザックカバー △
雨の日のザックの濡れと、水の侵入をある程度防ぐ。最近はザックそのものに内蔵されていることが多い。
水筒 ○
透明の樹脂製ボトルが使いやすい。ポリエチレン製のソフトボトルは軽く、使わないときは折り畳めて便利。
ヘッドランプ ○
例え日帰り登山でも、アクシデント発生時に備えて必携。小型軽量のミニライトでも有効。
予備電池 ○
山で暗くなると全く身動きがとれなくなるので、1回は交換できるように予備の電池も必ず持ちたい。
コンパス ○
方向を確かめるために使うが、使いこなすには練習が必要。地図アプリ使用時もバックアップとして必携。
登山用地図 ○
登山に必要な情報が豊富でとても役に立つ。地図アプリ使用時もバックアップとして必携。
山行計画書 ○
オンライン提出時も必ず紙に印刷して持参。緊急時にはそれを見ながら、警察とのやり取りを行なう。
携帯電話 ○
地図アプリをインストールしたスマートフォンを使う。行動中は機内モードにしてバッテリーの消耗を防ぐ。
モバイルバッテリー ○
スマートフォンのバッテリー切れに備えて持参。日帰りだったら軽量タイプ、宿泊の場合は大容量タイプを。
エマージェンシーシート ○
体に巻きつけて体の熱を反射し、保温するアイテム。軽量なので、緊急時に備えて持つように。
ライター ○
ビバークや遭難の際に、焚き火を作るために使う。軽量なので、緊急時に備えて持つように。
タオル・手拭い等 ○
汗を拭うほか、ケガをしたときの止血や、熱中症のときの体の冷却にも使用できる。
トイレットペーパー ○
ポケットティッシュよりも使いやすい。芯を抜き、濡れないようにジップロックバッグに入れて持参。
携帯トイレ △
万が一に備えて持つ。登山者の多い一部のエリアでは、必携とされているので事前にチェックしておこう。
薬類 ○
絆創膏類や三角巾に加え、飲み慣れた鎮痛解熱剤、胃腸薬などを必要に応じて持参。
行動食 ○
休憩時に簡単に食べることができるものを持参。ドライフルーツやナッツ、各種バー類がお勧め。
非常食 ○
ビバークや遭難の際に食べるもの。行動食でも代用できるが、長持ちするエナジージェルなどもお勧め。
ビニール袋 ○
ゴミを入れたり濡れた衣類を入れるなど、様々な使い方ができる。大小サイズ2~3枚を持ちたい。
日焼け止め ○
標高が上がると紫外線量が増え、ひどく日焼けするので必ず持参。何度も塗り直したほうが良いので多めに。
サングラス ○
標高が上がると紫外線量が増え、目を傷めやすいので必ず持参。UVカット率の高い顔にフィットしたものを。
トレッキングポール △
2本セットで使うのが基本。必須ではないが、足腰に痛みを感じる人は負担を軽減できる。
ゲーター △
登山靴に雨水が入り込むことを防ぐ。ゲイターを履いてから、レインウェアのパンツを履くのがよい。
折り畳み傘 △
雨天時に林道を歩くときにはとても便利。しかし登山道では風に煽られて危険な上、ほかの登山者には迷惑。
軽アイゼン △
雪渓のあるコースでは必携。雪渓は硬くて滑りやすいので、頑丈な6本爪タイプを使用するのが確実。
小物入れ(サコッシュ等) △
肩掛け式の小物入れ。携帯電話や行動食、地図やコンパスを入れる。使い慣れるととても便利。
プロフィール
木元康晴
1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。
はじめての山歩き 〜安全に楽しく山に登るために〜
はじめて山歩きを始める人に。山に登る前に知っておきたい、基礎知識を紹介。