「雨の山」〜潤いを写す|山の写真撮影術(3)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。今回は、雨に濡れてしっとりとした空気の山を、撮影する方法を紹介します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=平のゆきこ

 

「写真家殺すにゃ刃物はいらぬ」とは、かなり知られた言葉。続くのは「雨の三日も降ればよい」。雨はカメラの大敵だが、最近の機種はずいぶんと濡れに強くなった。ちょっとやそっと濡れたからといって、すぐさま撮影中断とはならない。雲に覆われ、少々の薄暗さであっても、手ブレ補正や高感度といった機能のおかげで、さっとカメラを構えてパチリと写すなんていう早業も、当たり前にできるようになっている。

雨となると遠景は難しい。ディテールは白く霞み、写真としてまとめにくい。そうなると必然、手前のものをテーマにしたほうが絵になりやすい。道の脇に生えた木や、足元の草や苔に目を向ければ、雨に潤って生き生きとした姿がそこにある。せっかくなので、水滴などを活かすと雨らしさも出てくるだろう。もっとも、あまりに激しい雨になったら無理は禁物。安全を第一に考えてほどほどに。

 

雨の季節を豊かな奥行きで表現する

初夏の丹沢、ブナの道。
ところどころにヒメシャラが咲く。
雨は降ったりやんだり。
稜線には適度な霧が現われては消え、
消えては現われる

①アリの目線で奥行きを出す

雨上がり。遠景は霧の中。そんなときは地面ギリギリから撮影してみよう。そこから見上げた視野は、広く感じられる。手前に主題を置いて広角レンズを使えば、実感よりも奥行き豊かな表現になる。


②地表のラインは抑えめに

天地を分ける地表のラインをどこにするかは大事な視点だ。意図的に中央部にすることはあるが、しばしば中途半端な表現になる。写真のように地面を下げれば、雲を浮かべる空や枝を分ける樹木にダイナミックな勢いが生まれる。


③雨が運んできた季節の象徴を捉える

季節はひと雨で変わってゆく。枯れ枝に緑が萌え、枝先の花が落ちる。苔が伸びキノコがざわざわと発生する。檜岳のヒコサンヒメシャラも、雨にうたれて花を地に落とす。雨が動かす季節の象徴を見逃すな!

カメラ:オリンパス OM-D E-M1 マークⅡ
レンズ:パナソニック LUMIX G VARIO 7-14mm F4 ASPH 撮影は7mm(35mm換算で14mm)
ISO:200
絞り値:F14 シャッタースピード:1/8秒
備考:絞り優先

 

雨艶を帯びる木橋を印象的に切り取る

幾本もの橋にいざなわれここまで来た。
雨艶を帯びる橋に、
そして橋を架けてきたあの山人に
敬意を込めてパチリ。
しっとり雨の入笠山にて

①川の流れを橋と並行にしてリズムを生む

斜めのラインを入れることで構図が安定し、まとめやすくなる。ここでは、濡れて艶のある木橋が大胆に絵を横切るが、流れ下る水流も、木橋と並行するラインを描く。色彩や力強さの対比で絵の中にリズムが生まれる。


②背景の森までくっきりと写す

雨が上がって、遠景もくっきりと見える。ある程度絞りを絞って、前景から遠景となる森までしっかりとピントがくるような絵に仕上げよう。そのためには絞りのコントロールが必要。中途半端にボケないよう気配りをしたい。


③木橋の斜めのラインを活かす

この写真の要は、手作り感満点の木橋である。広角レンズでは手前にどんな主点を置くかが絵作りのポイントだ。ただでさえ風情があるのに、雨上がりの濡れた表情は、より一層この橋の風情を際立たせる。

カメラ:ペンタックス K-3
レンズ:ペンタックス DA18-135 F3.5-5.6 ED AL[IF]DC WR 撮影は18mm(35mm換算で27mm)
ISO:320
絞り値:F8 シャッタースピード:1/15秒
備考:絞り優先

 

コラム

雨に濡れた被写体は接写で勝負

遠景を写せないような雨上がりでも手元足元には被写体が多い。水滴や花、キノコや苔など小さなお宝を大きく写したい。それが接写だ。接写にはいくつか方法があるが、一般的にはマクロレンズを使うのがよい。近くを写すだけではなく、多くは遠景撮影もできる万能レンズだ。

接写で気をつけたいのが手ブレである。寄れば寄るほど撮影倍率が高くなり、ちょっとのブレも失敗となる。どれだけブレさせないかが接写の第一歩なのだ。そのブレ防止の原則は三脚の利用だ。しかし手間も時間もかかる。携行するのも重荷だ。そこで簡易対策として撮影感度を高くする、手ブレ補正の機能を活かす。こういったことで、手持ちでもブレを低減できる。

山と溪谷2022年6月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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