1から学ぶ登山の服装/①レイヤリングの仕組みとウェアの種類

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山登りは登山に適した服を着ることで安全に楽しむことができます。そして、ウェアを着るだけではなく、「レイヤリング」という考え方で重ね着するのがポイントです。今回は基本的なレイヤリングの仕組みと登山用のウェアの種類について紹介します。

 

Contents
  • 山にはどんな服で登るべき?
    • 乾きやすい服
    • 動きやすい服​
  • レイヤリングとウェアの種類
    • 肌面をドライに保つ「ベースレイヤー」
    • 汗を離して体を温める「ミッドレイヤー」
    • 雨や寒さから体を守る「アウターレイヤー」
    • ボトムスも基本は3層構造
    • コラム:最近主流になりつつある第4の層「ドライ系レイヤー」
  • レイヤリングの具体例
    • 涼しさを感じる春の低山
    • 雄大な景色に出会う夏の高山(日本アルプス)
    • グリーンシーズンの終わりを告げる秋の高山(日本アルプス)
    • コラム:持っていると便利な小物たち​

 

山にはどんな服で登るべき?

登山用のウェアは種類が豊富で、一見どれを選べばいいのか分かりにくいですよね。登山専門ブランドの服はどれも高価なので、失敗したくないと思う人は多いでしょう。でも、難しく考える必要はありません。登山をスポーツとして捉えると、どんな服を選べばいいのか、すぐにピンとくるはずです。

たとえば、サッカー、野球、テニスなど、おそらく初心者の方でも、コットンのTシャツにジーパンで参加する人はいないはず。多くの方が、汗をかいてもベタベタしない化学繊維のTシャツに、動きやすいジャージなどを選ぶと思います。

登山もほかのスポーツとまったく同じで、汗をたくさんかいて体を動かすレジャーなので、乾きやすくて動きやすい服を選びましょう。

 

①乾きやすい服

化学繊維のベースレイヤーに水を垂らした様子。瞬時に吸い込まれると同時に周囲に広がり拡散された

乾きやすい服は、化学繊維(ナイロンやポリエステルなど)で作られるウェアが当てはまります。コットンの服は吸水率が高く、いつまでも汗が乾かないので、体温が奪われ続けてしまい、低体温症を引き起こす危険性も。一方、化学繊維のウェアは繊維自体が水分を含まないので、汗で濡れてもすぐに乾かすことが可能です。

化学繊維が肌に合わない場合は、ウール製のウェアがおすすめです。ウールは汗で濡れても冷たさを感じにくいという特性があるため、昔から多くの登山用ウェアに採用されてきました。

 

②動きやすい服

ストレッチ性は縦方向と横方向があり、縦横に伸びるものは4wayストレッチと呼ばれている

動きやすい服とはストレッチ性がある服のこと。生地を掴んで引っ張ったとき、左右に伸びればストレッチ性があるといえます。

なかでもストレッチ性を重視したいウェアがパンツです。生地が伸縮しないと足を上げたときに突っ張る感じがあり、動きづらく感じてしまいます。クライミング要素の強いルートに向かう場合は、トップスにもストレッチ性があるものを選ぶといいでしょう。

 

レイヤリングとウェアの種類

左から「ベースレイヤー」「ミッドレイヤー」「アウターレイヤー」。この3層構造が登山のレイヤリングの基本になる

登山では、乾きやすさと動きやすさをベースに考えて、そこに保温性、防風性、防水性など、性能の異なるウェアを状況に応じて重ねることで、さまざまな気温や天候に対応します。これを「レイヤリング」と呼びます。

山では標高が100m上がるごとに気温が約0.6度下がり、冷たい風が吹くこともあれば、雨が降ることもあります。そんなとき、コンビニやビルに逃げ込めればいいのですが、都合よく山奥に便利な建物があるとは限りません。山で起こり得るさまざまな状況にウェアだけで対処する必要があるので、登山の服装には「レイヤリング」が欠かせないのです。

登山のレイヤリングでは、ウェアを肌から近い順に「ベースレイヤー」「ミッドレイヤー」「アウターレイヤー」の3層に分けて区別します。それぞれの層を状況に応じて組み合わせることで、多様な山の環境に対処しようというのが、レイヤリングの基本的な考え方です。

 

肌面をドライに保つ「ベースレイヤー」

左)モンベル/ジオライン M.W. ラウンドネックシャツ Men's(化学繊維のアンダーウェア)
中央)アイスブレーカー/200 オアシス ショートスリーブクルー メンズ(ウール製のTシャツ)
右)ザ・ノース・フェイス/エクスペディションドライドットジップハイ(化学繊維のジップネックシャツ)

ベースレイヤーは肌のすぐ上に着るウェアで、肌面をドライに保つ役割があります。汗を吸い上げる「吸水性」と、吸い上げた汗を表面で拡散させる「拡散性」があり、その結果、多くのベースレイヤーには汗が乾きやすい「速乾性」が備わっています。

ベースレイヤーの速乾性はとても重要で、衣服が濡れたままだと長時間に渡って体が冷やされてしまい、最悪のケースも考えられます。危険なトラブルを防ぐためにも、ベースレイヤーには速乾性を備える化学繊維か、濡れても冷たさを感じにくいウールの服を選びましょう。

■ベースレイヤーの詳しい解説はこちら

ベースレイヤーの選び方。素材やシルエットに注目

 

汗を離して体を温める「ミッドレイヤー」

左)パタゴニア/メンズ・サーマル・エアシェッド・ジャケット(アクティブインサレーション)
中央)モンベル/クリマプラス100 ジャケット Men's(フリース)
右)モンベル/WIC.ライト シングルポケット ロングスリーブシャツ Men's(山シャツ)

ミッドレイヤーはベースレイヤーの上に着るウェアで、肌面から汗を遠ざけながら体温を保持する役割があります。そのため、ミッドレイヤーには、汗を吸い上げる「吸水性」と、体を温める「保温性」が主に備わります。

ただし、ミッドレイヤーは行動中に着るウェアなので、保温性が高すぎると暑くて着ていられないという状況になりかねません。これを「オーバーヒート」と呼び、オーバーヒートを防ぐためには、保温性と「通気性」のバランスが重要です。この相反する性能を備えるウェアが、フリースやアクティブインサレーションといったアイテムで、各社からさまざまな種類がリリースされています。

■ミッドレイヤーの詳しい解説はこちら

ミッドレイヤーの選び方。メインはフリースかアクティブインサレーション

 

雨や寒さから体を守る「アウターレイヤー」

左)パタゴニア/メンズ・アルプライト・ダウン・ジャケット(インサレーションジャケット)
中央)ミレー/ティフォン50000ストレッチ ジャケット(レインウェア)
右)ブラックダイヤモンド/メンズ ディスタンスウィンドシェル(ウィンドシェル)

アウターレイヤーは、レイヤリングのなかでいちばん外側に着るウェアです。一口にアウターレイヤーといっても、ベースレイヤーやミッドレイヤーのように役割は統一されていません。雨を防ぐ“防水性” 、寒さから体を守る“保温性”、風を遮る“防風性”が主な性能で、それぞれに特化したウェアは、レインウェア(雨具)、インサレーションウェア(保温着)、ウィンドシェル(ウィンドジャケット)などと呼ばれています。

なかでも、レインウェアとインサレーションウェアは登山装備の必須アイテム。レインウェアは言葉のとおり、雨の日に着る服のこと。防水性と透湿性を備えている、上下セパレートタイプがおすすめです。インサレーションウェアは休憩中や夜間に着る、保温性に特化したウェアです。

■レインウェアの詳しい解説はこちら

登山用レインウェアの選び方。必要性と選ぶポイントをおさらいしよう!

値段や重量もやっぱり気になる! レインウェアの選び方を深堀り解説

ウィンドシェルはレインウェアで兼用できるため、必ず必要ではありません。ただ、レインウェアより透湿性が高く行動中に蒸れを感じづらいという特長があるため、持っていると出番が多くなるアイテムでもあります。

 

ボトムスも基本は3層構造

左)ファイントラック/カミノパンツ(3シーズン対応のアウトドアパンツ)
中央)マウンテンハードウェア/ベイシントレックコンバーチブルパンツ(伸縮性に優れるコンバーチブルパンツ)
右)ミレー/ティフォン50000ストレッチ パンツ(レインパンツ)

レイヤリングの考え方はボトムスにも同じことがいえます。下着はベースレイヤー、パンツはさしずめミッドレイヤーといったところでしょう。雨が降り出したらそこにアウターレイヤーのレインパンツを重ねて、泊りがけの山行では時期に応じてインサレーションパンツを用意します。

ミッドレイヤーにあたるパンツには脚を保護する役割もあるので、登山ではロングパンツがおすすめです。どうしてもショートパンツで行動したいときは、状況に応じて脚部分を切り離せるコンバーチブルパンツを検討してみるといいでしょう。

 

コラム:最近主流になりつつある第4の層「ドライ系レイヤー」

近年、いずれのレイヤーにも当てはまらない、第4の層ともいえるウェアが人気を集めています。一般的な名称が確立されていないので、ここでは「ドライ系レイヤー」と呼ぶこととしましょう。

ドライ系レイヤーは、ベースレイヤーの下に着ることで、汗を含んだベースレイヤーが肌に触れるのを防ぐ機能があり、汗冷え(濡れ戻り)を軽減する効果があります。

よく、ドライ系レイヤーを解説するとき、ベースレイヤーに含める傾向がありますが、はっきりと分けて考えましょう。ドライ系レイヤーはベースレイヤーを重ねることで、はじめて本来の性能を発揮するウェアなので、1枚で着るものではありません。ここが単体でも役割を果たすベースレイヤーとの大きな違いです。

 

レイヤリングの具体例

最後に、実際にはどんなレイヤリングで山に登るのか、春〜秋までのグリーンシーズンを想定して、筆者の経験を交えながら具体例を紹介します。

 

涼しさを感じる春の低山

春山を登る想定のレイヤリング

新緑や山野草の花が見頃を迎える春。気温はそこまで高くないので、標高の低い山でハイキングを楽しめる季節です。ただ、山の空気は涼しいことが多く、風に吹かれると肌寒さを感じることも。

■トップス

ベースレイヤーは、暑さに対応できるように「Tシャツ」を選び、ミッドレイヤーにはロングスリーブの薄手の「山シャツ」を用意して寒さに備えます。風が吹いて寒いと感じるときのために、アウターレイヤーに「ウィンドジャケット」があると便利です。「レインジャケット」と「インサレーションジャケット」も忘れずに準備しましょう。

■ボトムス

「パンツ」は薄手でOK。ただ、現地では寒さを感じるかもしれないので、念のため「タイツ」を持っていくと柔軟に対応できます。タイツは、一般的な化学繊維やウール製のものを用意します。

 

雄大な景色に出会う夏の高山(日本アルプス)

夏に日本アルプスを泊りがけで登る想定のレイヤリング

気温が上がる夏は、日本アルプスに代表される高山がハイシーズンを迎える季節です。暑さが気になりますが、標高が上がると影響力を増す紫外線対策も忘れずに。ここでは泊りがけの想定でレイヤリングを紹介します。

■トップス

ベースレイヤーは、紫外線から肌を守り胸元で体温を調整できるロングスリーブの「ジップネックシャツ」がおすすめです。

ミッドレイヤーは山域にもよりますが、日本アルプスであればそれほど高い保温性は必要ありません。行動中に着ることもほとんどないので、ジャケットよりも軽くてコンパクトに収納でき、ほかのウェアと重ね着しやすい「ベスト」が使いやすいでしょう。

アウターレイヤーは、「レインジャケット」か「ウィンドジャケット」を用意。主に夜の寒さ対策として「インサレーションジャケット」も準備します。

■ボトムス

「パンツ」は防風性を感じられる中厚手くらいがおすすめ。アウターレイヤーにはトップスと同じく「レインパンツ」を準備して、夜の寒さは「タイツ」で対応します。

 

グリーンシーズンの終わりを告げる秋の高山(日本アルプス)

秋の日本アルプスを泊りがけで登る想定のレイヤリング

8月を過ぎると日本アルプスは少しずつ赤や黄色に染まり始め、麓よりひと足早く紅葉の季節を迎えます。夏とは違い日中でも寒さを感じる時期なので、保温性を重視したレイヤリングが必要です。ここでも泊りがけの想定で考えてみます。

■トップス

ベースレイヤーは、夏と同じロングスリーブの「ジップネックシャツ」を用意。生地が厚くて保温性の高いものを選ぶといいでしょう。

ミッドレイヤーは「フリースジャケット」を用意。これは「アクティブインサレーション」でも構いません。寒さが心配なら「ベスト」を追加すると安心です。

アウターレイヤーは、夏と変わらず「レインジャケット」「ウィンドジャケット」「インサレーションジャケット」を準備します。

■ボトムス

中厚手くらいの「パンツ」の下に「タイツ」をはいて保温性をアップ。「レインパンツ」を用意して、夜の寒さは「インサレーションパンツ」で対応します。インサレーションパンツは軽くてコンパクトになるダウンパンツがおすすめ。

 

コラム:持っていると便利な小物たち

寒さ対策にはネックゲーターやグローブ、耳あて付きの帽子やニット帽も役立ちます。すべて揃えても重くならないので、想定外の寒さに備えて、季節を問わず持っているといいでしょう。

写真=福田 諭

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