「夜の山」〜暗闇を写す|山の写真撮影術(6)
山の夜は暗闇に包まれるが、月や星、残照などの光が降り注いでいる。そうした自然の光を捉え、撮影するポイントを解説します。
文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭
記録媒体がフィルムからデジタルとなり、常用感度が一気に上がった。現在では常用感度ISO5万以上という機種もある。隔世の感だ。
その結果、夜の山を普通に写すようになった。以前は山の夜といえば長時間露光で星を円周状に表現するのが主流だったが、今では天空の星を見た目以上に明るく表現し、地上部分までを組み合わせた「星景」なる写真を多く見るようになった。
「作例2」ではISOを控え目で長めの露光で星を少し動かしてみたが、もちろんもっと感度を上げて星を止めて撮るのもよいだろう。
なお、夜の撮影で気を付けなければいけないのは、モニターに写った再生画像だけで露光の良否を判断しないことである。周囲の暗さに目が慣れてしまっており、モニターの画像を必要以上に明るいと認識しがちなのだ。できれば画像の明るさを示すヒストグラムで明るさの確認をしたい。
【作例1】長時間露光で梢の揺れを写す
月夜のカラマツ林を見上げた。風が吹いて揺れる木々が夜の空に伸びる。長時間露光で揺れる木々をブレさせて表現できた

①梢の揺れを写す
夜は長時間露光が普通である。三脚に載せればカメラのブレをなくせるが、このときは梢の先が風で大きく揺れていた。梢のブレが夜の妖しさをひきたてる。夜だからこその表現である。
②夜の撮影の難しさ
夜の撮影では隅々までのチェックは難しい。昼のロケハンなしでの撮影では、すべてのチェックは困難。この部分に電線が写っている。失策だ。作品とするならトリミングしよう。
③月の静謐な光を写す
薄雲の彼方に月が輝く。山の夜にあって月光を利用しない手はない。太陽とは違う静謐な光源という印象だ。光の柔らかさを印象づけるために、わざと画面中央に月を持ってきた。

カメラ:ソニー α-7
レンズ:シグマ 14-24mm F2.8 art 14mmで撮影
ISO:1250
絞り値:f5 シャッタースピード:13秒
備考:絞り優先モード
【作例2】夜の山をシルエットで力強く表現する
日が落ちてしばらくして。星々を背に静寂の槍・穂高。大滝山からのシルエット。ホワイトバランスは蛍光灯

①星を線として写す
この写真の露光は60秒。これだけ長くシャッターを開けると、星は点ではなく線として表現される。一般には点としての表現がよしとされるが、好みの問題。ちょっと動きがあると、生きている宇宙を実感できるというもの。
②山は無表情に力強く
デジタルカメラになり、夜の闇にあっても暗部であっても明るく表現できるようになってきた。しかし、夜は夜、闇は闇として表現したい。山の部分はあえて真っ黒につぶした。無表情な表現が山の力をひき出せる。
③残照で繊細に変化する雲
暮れて間もなくの山には、まだ残照がある。さらには、遠い町の光が空にまで届き始める。夜の空に浮かぶ雲は、そういった光を反射するものだ。微妙な雲の表情が夜空の表情となり、ただ暗いだけではない夜空を描き出す。

カメラ:オリンパス E-M1 マークⅡ
レンズ:LUMIX G VARIO F4.0 12mmで撮影(35mm換算で24mm)
ISO:400
絞り値:f5 シャッタースピード:60秒
備考:マニュアルモード
コラム
月光で撮る昼間のような夜の山
高感度が使える現在では、月夜は写真日和ということになる。カメラがブレないように三脚で固定して撮影すれば、昼間のような「夜の山」を写せるのだ。そして太陽光下とは違う色になるのも月夜の楽しみ。
さて、月の夜というと、なんとなくイメージするのは寒色系の、深く青みがかった色ではなかろうか。ところが、ホワイトバランスをオートのままでは、黄色みがかった仕上がりになることも多く、期待していた色とは違う再現になることがある。夜の撮影ではホワイトバランスをいろいろ試して、イメージに沿った色に仕上げるというのも、デジタル時代ならではの表現になる。ホワイトバランスを蛍光灯や電灯にセットすることで、案外イメージに沿う結果が出ることもあるのだ。

(山と溪谷2022年9月号より転載)
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プロフィール
三宅 岳(みやけ・がく)
1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。
山の写真撮影術
『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。
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