山小屋の静寂と友との語らい、四季の美『フォンターネ 山小屋の生活』【書評】
評者=間瀬孝之
小説を書けなくなった男はモンテローザに近い標高1900mの山小屋で一人暮らしを始める。小屋周りの情景描写、牧羊犬とのふれあいなど、いろいろなエピソードが満載だ。でも、男がかけがえのない2人の友を語る話のほうに、より心惹かれる。
5月、久しぶりに会った人間、それは家主のレミージョだった。コーヒーに誘い四方山話をするや意気投合。山小屋に持ち込んだ本を見せているうちに、彼も読書家であることが判明する。レミージョと一緒に倒木を丸太状に切った後、薪を作り、「僕にも暖をとる喜びを分かち合う友ができた」と感じた。
6月、向かいの牧草地に牛と牛飼いがやってきた。ある時、仔牛が2頭逃げ出した。牛飼いが手こずっているうちに男は捕らえることができた。得意満面で連れ帰る。この牛飼いが2人目の友となるガルビエーレだ。男はここで暮らす理由を説明すると、「山奥で独り暮らす以外、自分らしく生きる方法がないのだとしたら仕方あるまい。自由が保障されるなら、甘んじて孤独を引き受けようじゃないか」と、ガルビエーレは男の話を完璧に理解した。
山にこもらざるを得なかった男(著者)はこの後、国際的ベストセラーとなった『帰れない山』を世に送り出すことになる。
評者=間瀬孝之
ませ・たかゆき/1957年生まれ。石井スポーツ登山本店勤務。20年以上にわたって書籍コーナーを担当。
(山と溪谷2022年9月号より転載)
登る前にも後にも読みたい「山の本」
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