テント泊登山の魅力と必要な装備 〜テント泊登山の始め方①〜

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テント泊の装備は重く、山小屋と違って、自炊をする必要もある。それでも、テント泊登山は病みつきになるほど楽しい。テント泊登山の魅力と、必要な装備を紹介する。

文=吉澤英晃、写真=編集部、PIXTA

テント泊登山ならではの魅力

山に泊まらないと見ることができない絶景がある。世界を真っ赤に染める夕焼け、満点の星が輝く夜空、スカイラインから朝日が差し込む御来光などがそれだ。ときにロマンチックな景色を求めて人々は山に泊まり、その手段のひとつにテント泊がある。

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モルゲンロートに染まる涸沢のテント場

テント泊ではすべての泊り装備を担いで山に登る。山岳用テント、寝袋、登山用マット、クッカー類を準備して、夕食と朝食も基本的に自炊する。テント泊ではスタートからゴールまで、一連の行動が自己完結するのだ。そのため快適な山小屋も魅力的だが、苦労してでも人の力を借りずに山に登ると、一味も二味も違った達成感に満たされる。ひとたびテント泊のスタイルで山に登ると、下山後の充足感と相まって、きっと病みつきになる人は多いはずだ。

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重い荷物を背負っての山行は苦労するがゆえに、達成感もひとしおだ

テント泊の魅力は達成感だけではない。テント泊ではテント場に到着してから翌日出発するまで時間を自由に使える。これも多くの人がテント泊に惹かれる理由だろう。好きな本を読む、お酒をひっかける、外に出て写真を取る、仲間との団欒を楽しむなど、夜の過ごし方は人の数だけバリエーションがある。他人に迷惑をかけなければ、夕食を食べる時間も眠り始める時間も決まりはない。のびのびと山での一夜を過ごせるのがいい。

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夕暮れ時の稜線は静けさを感じさせてくれる

さらに、テント泊では山との距離が近くなる。布一枚で外の自然と隔たれているだけなので、樹林の中では静けさの中から虫や動物の鳴き声が聞こえてくる。風の音や寒さを感じる気温も山を近くに感じるポイントだ。そして、テントの中で地べたに横になると、山に抱かれている感覚に包まれる。山との一体感はテント泊だからこそ得られる最高の非日常体験だろう。

最後にもうひとつだけテント泊の魅力を紹介しよう。実は国内や世界にはテント泊でしか登れない山やルートがある。テントに泊まることを覚えると山の世界が広がるのだ。初めはテントに泊まることが目的になるかもしれない。でも、テント泊に慣れてくると、テントを担いで次はどこに行こうか、ルートを考えるのが楽しくなるはずだ。

テント泊は相応の体力が必要になるので、一歩を踏み出せずに躊躇している方もいるだろう。そして、いざ挑戦すると、初めのうちは荷物の重さに辛いと感じてしまうかもしれない。でも、焦る必要はないし、最初は短い距離からゆっくりと経験を積んで体力をつけていけばいい。テント泊ならではの登山の魅力を、ぜひ多くの方に経験してもらいたい。

テント泊に必要な装備

テント泊を始めるにはどんなアイテムが必要なのか、特徴と選び方も一緒に確認しよう。日帰りの登山装備に加えていくつか専用の装備をそろえる必要がある。

山岳用テント

山岳用テントは、キャンプ用のテントと比べて、持ち運びが苦にならないほど軽量で、コンパクトに収納できる点が特徴だ。種類は自立するか否か、フライシートの有無で4つのタイプに分けられる。

まず、自立してフライシートをかけるタイプは「自立式ダブルウォール」と呼ばれている。立ち上げた状態で設営場所を調整でき、本体とフライシートの間にできる空気の層で内側が結露しにくい特徴がある。設営手順が比較的単純で快適性にも優れることから、初心者の方が最初に選ぶ山岳用テントには自立式ダブルウォールをおすすめする。

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自立式ダブルウォールテント:ニーモ/タニ2P

次は、自立するがフライシートをかけない「自立式シングルウォール」。フライシートの固定と撤収の手間が減り、雪山などシビアな環境で使い勝手の良さを実感できる。ただし内側が結露しやすいので快適性はダブルウォールに劣ってしまう。

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自立式シングルウォールテントプロモンテ/VB-22Z

自立しないテントは「非自立」と呼ばれ、先ほどと同じく「ダブルウォール」と「シングルウォール」に分けられる。非自立式はテントポールの本数を減らして軽量化を図ったタイプ。シングルウォールとダブルウォールの特徴は先ほど説明した通りだ。

寝袋(シュラフ)

寝袋は中綿の種類でダウンと化繊綿に分かれ、違いは重量と収納サイズを比べると分かりやすい。例えば、同じ0度に対応する寝袋があるとしよう。そのとき、化繊綿はダウンよりも重く、収納サイズも大きくなってしまう。化繊綿はダウンと比べて保温力が低いので、同じ暖かさを得ようとすると、どうしても化繊綿を使うモデルのほうが重くかさ張ってしまうのだ。

そのため、登山で使う寝袋は中綿にダウンを使うタイプが一般的。化繊綿より高価になるが、少々無理をしてでも、軽くて収納サイズが小さくなるダウンの寝袋を選んだほうがいい。化繊綿のメリットとして濡れたときの乾きの早さがあるが、一般的な登山であればシュラフカバーなどで雨や結露対策をしておけばダウンの寝袋でも問題ない。

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そして、寝袋には対応する温度域がある。「使用可能温度」「快適温度」「最低使用温度」などと表記されているのがそれだ。重量と収納サイズばかりに注目していると、保温力が足りず、寒くて眠れないなんてことになりかねない。テント泊を予定している時期の登る山の最低気温を調べて、その温度に対応する寝袋を用意しよう。

登山用マット

種類は「エアー」「セルフインフレーティング」「クローズドセル」の3つ。それぞれに甲乙つけ難い特徴があるので、どれを選ぶかはユーザーの判断に寄るところが大きい。

「エアー」は本体を空気で膨らませるタイプ。3種類の中でいちばん厚みがあるので、最も地面の凹凸を感じにくい。空気を抜くと薄いシート状になるので、収納サイズもコンパクトになる。ただし、独特の浮遊感が苦手という人もいて、本体に穴があくと簡単に故障してしまう欠点もある。

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「セルフインフレーティング」も空気で膨らませるタイプだが、内側にスポンジ素材が入っている点が「エアー」と異なる。バルブを開くと内側のスポンジが元に戻ろうとして、ある程度まで自動で膨らむので「自動膨張式」とも呼ばれている。パンクする心配はあるがスポンジがクッションになるので完全に使用不能にはならない。しかし、重量は重くなりがちだ。

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「クローズドセル」は発泡素材で作られているので、ほかの2つと違って故障する心配がまったくない。軽いモデルが多く、手頃な値段も特徴だ。ただ、さほど厚みがないので地面の凹凸を感じやすく、収納サイズはいちばん大きくなってしまう。

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ちなみに、マットには断熱性能を表すR値が表記されていて、数字が大きいほど底冷えを感じにくい。タイプが決まったらR値にも注目してみよう。

クッカー類

テント泊は自炊が基本。バーナー、クッカー、カトラリーを用意しよう。

一人でテント泊をする場合、バーナーはOD缶と呼ばれるガスカートリッジの上に直接本体を取り付ける「直結型」がおすすめだ。最初はボタン操作で火をつけられる自動点火装置が付いているモデルを選ぶといい。

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ガスカートリッジの上に直結できるバーナーがおすすめ:EPI/クオストーブ

器と兼用する小型の鍋を「クッカー」と呼ぶ。底までの深さで浅型と深型の2種類があり、初めはふたつがワンセットになった商品を選ぶといいだろう。素材もポイントで、高価だが軽いチタン製と、重くなるが比較的安価なアルミ製の2つがある。お湯を沸かすだけなら軽さで勝るチタン製がおすすめだ。

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その他

ほかにもテント泊に忘れてはいけない装備がある。夕食と朝食はそのひとつ。楽しみながら好きな食べ物を用意しよう。バーナーの自動点火装置が壊れたときに備えて、フリント式のライターやマッチなども必要になる。

夜間の行動にはヘッドランプが欠かせない。日帰りでも持っておきたい装備だが、テント泊で持っていないと行動に支障が出るので、こちらも決して忘れてはいけない。

秋はもちろん、夏でも標高の高い山の夜は寒いことがある。防寒着と呼ばれるインサレーションウェアも必ず持参すること。寝袋と同じく、中綿にダウンを使ったダウンジャケットが軽くてコンパクトに収納できるのでおすすだ。寒さが心配ならネックウォーマーやビーニー、手袋も用意すると安心できる。

着替えは意見が分かれるところだろう。荷物の軽量化を図るなら省いても構わない。乾いた綺麗な服で眠りたい場合は替えのウェアを準備しよう。下山後の着替えと兼用するのもおすすめだ。

プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

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