台風14・15号が南アルプスに残した爪痕――。静岡側からの南アルプスは入下山とも現在不可

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2022年9月中旬、日本列島には連続して台風が接近した。なかでも台風15号は報道されている通り、静岡市に大きな被害をもたらせた。南アルプスも例外なく被害を受け、現在、南アルプスへは入山も下山もできない状況だ。

 

先月、列島各地に大きな爪痕を残した台風14号と15号。特に、台風15号が静岡市に残した影響は大きく、市内全域で床上・床下浸水の被害は1,800件を越えた。また、取水施設の被災により、静岡市清水区では広域で断水が続いた。静岡市内における、降り始めからの最大雨量は、9月24日12時時点で、496mmとなった。

この雨は、南アルプスの麓・静岡市葵区井川地区でも276mmの雨量をもたらした。井川地区は年間降水量が3,000mmを超える多雨地区ではあるが、今回の累加雨量は年間降水量の1割弱となった。いかにたくさんの雨が短時間で降ったか想像できるだろうか。

今回は、この2つの台風が南アルプスユネスコエコパークの主に静岡市域に与えた影響についてお知らせしたい。

被災前の林道東俣線からの景色(新聖沢橋付近)


まずは、登山口へのアプローチである、林道東俣線。南アルプス南部の登山ベースのひとつである、椹島ロッヂへ続く林道東俣線は、台風14号により、林道の法面が崩壊して通行止めとなっていた。さらに、この斜面崩壊により電柱が崩壊したために、椹島ロッヂ周辺では電力の供給も停止されていた。

台風14号が去ったあと、足早に台風15号が襲来した。これにより新たな崩壊も発生し、2022年10月6日現在、林道東俣線では、全線で通行が禁止されている。

気を付けていただきたいのは、この全線通行禁止には、徒歩や自転車での通行も含まれること。すなわち、静岡市側の南アルプスの上下山は断たれている、ということだ。南アルプス南部の山々を静岡市側へと下山して、林道東俣線を通行しようとするのも禁止されている。危険だから通行禁止となっていることを、よく理解してほしい。

今回の原稿を書くに当たって、林道東俣線の管理者である静岡市治山林道課から状況を伺った。南アルプスは崩壊が進行している山であることを、連載第一回目でお伝えしたが、現実の状況を聞くとその意味が改めて実感をもって迫ってくる。

★世界有数の成長スピードと崩壊速度。南アルプスがユネスコエコパークに選ばれる理由

現時点では、林道東俣線の通行再開の時期は未定となっている。詳細は、静岡市治山林道課の林道東俣線に関するウェブサイトをご覧いただきたい。

千枚小屋と千枚小屋からの富士山


次に、各山小屋の状況だ。井川観光協会が運営する、聖平小屋、茶臼小屋については、9月24日(土)で営業を終了している。

株式会社特種東海フォレストが運営する、熊の平小屋、百間洞山の家、赤石岳避難小屋、中岳避難小屋も9月25日(日)で営業が終了した。千枚小屋、荒川小屋、赤石小屋については、10月10日(月・祝)まで、椹島ロッヂも通常通り営業を継続しているものの、林道東俣線の通行禁止に伴い、送迎バスは運休となっている。

今年の登山シーズンは、このように、突然の終わりを迎えてしまった。災害が起こるたびに、自然の力にはかなわない、ということを感じる。登山が、自然を相手にするものである以上、ユネスコエコパークの目的が、自然と人間社会の共生である以上、自然を人間の力でどうにかしようという驕りは許されないのだな、と感じる。それでも、紅葉の季節が始まるまでには、どうにか開通してほしいな、などと願ってしまうのだが・・・。

プロフィール

静岡市環境創造課エコパーク推進係

市内の学校と協働での環境教育や、催事、展示会、情報発信などを通じて南アルプスユネスコエコパークの推進活動をおこなっている。自然と人間社会の共生に重点を置くユネスコエコパークの理念を多くの人に知ってもらえるよう、活動中。
執筆者は、国内外での登山ガイド活動を経て、市役所勤務に。地元ならではの視点で南アルプスの魅力を発信できるよう頑張ります。

南アルプスde深呼吸「南プス」
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南アルプスユネスコエコパークの魅力、再発見

「大きな山容と奥深さ」、それが南アルプスを表す言葉です。巨大な山域の魅力を、南アルプスユネスコエコパークのみなさんが、細部まで紹介していきます。

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