バックパックにフィットして雨の日も軽快に歩けるポンチョ エクスペド/パックポンチョUL|高橋庄太郎の山MONO語りVol.97
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、エクスペドの「パックポンチョUL」です。
文・写真=高橋庄太郎
最近になって僕が再評価しつつある山道具が、ポンチョである。ジャケットとパンツにわかれた一般的なレインウェアに比べれば防水性や耐風性は低く、雨具としてはデメリットが多いのだが、一方では通気性に優れるなどのメリットも大きい。とくにバックパックを背負ったまま使えるタイプは荷物ごと防水することができ、うまく使えば登山の幅を広げてくれるはずだ。
まずはディテール紹介
そんなわけで今回取り上げるのはエクスペドの「パックポンチョUL」。これにはサイズがS、M、Lの3つあり、僕が選んだのは身長165~180㎝に適した「M」である。
素材はシリコンPUコーティングを施した15デニールのリップストップナイロン。生地の縫い目は完全に防水処理され、耐水圧は1500㎜だ。
生地は思いのほか厚みがあり、耐久性は十分そうである。ただ、商品名に「UL(ウルトラライト)」という言葉は入っているが、このMサイズで215gとULというほどは軽くはない気もする。
まずは、広げてみたときの状態を正面から見てほしい。
フードが付いた頭部以外は正方形に近く、腕を通す部分の左右の間は約150㎝で、肩から最下部までは120㎝だ。
また、このようなタイプのポンチョには両サイドが腕から最下部まで開き、緊急時にはタープやツエルトのように広げて使うことを想定したものも多いが、パックポンチョULの両サイドは腕を通す箇所以外は完全に閉じられている。つまり、タープ的な用途を省いて応用度を狭める代わりに、防水性を高めた設計だ。
腕を通す部分は約30㎝の長さで開いており、その途中にスナップボタンが取り付けられている。
腕の太さに合わせるだけではなく、蒸し暑いときにはボタンを外して通気を促し、悪天時にはボタンを留めて雨が吹き込むのを避けるなど、使い勝手を高めている。
同様のスナップボタンは裾の部分にも取り付けられている。
着用後に股の下で留めれば裾がバタつかず、生地が風であおられても足元が見えにくくならないようにとの配慮だ。
頭部のフードは内側に張りのある素材を張り合わせた、簡易的なツバが設けられている。
それに加え、顔のまわりはドローコードで絞れるようになっており、強い雨のときでも内部に水が流れ込むのを抑えてくれる。
そのフードの内側にはスナップボタン付きの長いテープ。当初、僕はフードを巻き留めるものかと考えていたが、その用途としてはうまく使えないようであった。さて……。
調べてみると、これはどうやらバックパックの上部などのストラップ類へ連結するためのパーツ。行動中にバックパックとポンチョの位置がズレにくくするための工夫であった。
次の写真は、ブランドロゴが入った胸元である。
外側から見ると、なぜかここだけ少し膨らんでいる。
ポンチョを裏返すとわかるのは、この部分につけられた大きなポケットだ。
ポケットを内部に取り付けることで、なかに入れたモノは濡れにくい。
以下はポンチョを着用し、内部を覗き込んだときの様子だ。大型ポケットの内側へさらに小型ポケットがつけられた2重構造である。
小さなモノはこの小型ポケットに収納したほうが、行動中にモノの位置がずれにくく、使い勝手がいい。
ポンチョを使用しないときは、このポケットに本体を収納することができる。いわゆるポケッタブル仕様だ。
左が小型ポケットに収納したときの大きさで、約15×13×8㎝。右は大型ポケットに収納したときの大きさで、約30×26×3㎝ほど。いうまでもなく小型ポケットに収納したほうが、生地が圧縮されてコンパクトになる。だが、ポンチョの防水生地からは空気が抜けにくく、小さく押し込むのは意外と面倒だ。僕個人の好みで言えば、大型ポケットに収納するほうが手間も時間もかからず、むしろラクで便利であった。
今度はパックポンチョULを背中側から見てみよう。
普通に広げると、サイズ感は正面側と同じである。
ただしフードの下、ちょうど肩のあたりへ横に一本、ファスナーが取り付けられているのが違う点だ。
同色のためにわかりにくいが、このファスナーは細長いフラップで覆われ、雨水が流れ込まないように設計されている。
そして、このファスナーを開くと、内部に収められていた生地が大きく広がり、背中側が立体的な構造になるのである。
上の写真では立体部分がつぶれていてわかりにくいので、詳しくは改めて後述する。
着用して細部チェック
では、実際に着用してみたい。以下は“バックパックを背負わず”に羽織った様子だ。
身長177㎝の僕が身に着けると、裾はふくらはぎ近くである。
袖に当たる部分はちょうど手首よりも先が出る長さだ。まさにジャストサイズ。
晴れている日に羽織ると、深いグリーンの生地でも内部が透けて見える。
袖のスナップボタンはやはり留めておくと生地がバタつかず、着心地がいい。
しかしスナップボタンで留めた部分よりも下は開口しているため、風が流れ込んでいくのを感じることができた。いわばつねに開いているベンチレーターである。一方で、わずかながらジャケットやシャツの袖のように先端部分を狭めているので、腕の部分から雨が入り込む恐れは減らされている。
フードの大きさも過不足ない。ただ、一般的なレインジャケットよりも使用生地が多い分だけにフード部分へ重量がかかりやすい。
帽子が下に押される感じはするが、前方につばが付いたキャップ型の帽子であれば、視界が妨げられるわけではない。だが、つばがぐるりとつけられたハットはつばの位置が安定せず、相性が悪そうである。
続けて、背中のファスナーを広げ、バックパック部分を覆う生地を取り出したときの様子だ。
バックパックを背負っていなければ、上の写真のように無駄に生地が余るだけで、逆に雨が降ると水が溜まってしまう。バックパックを背負わないときは、確実にファスナーは閉めておきたい。
しかし、バックパックを背負ってから着用し直すと、以下の通り。見事にバックパックがポンチョ内に収容されている。それでもポンチョの生地が引きつれて体を動かしにくくなったり、開口部が広がって防水性が損なわれたりはせず、感心してしまった。
このときに、内部に背負ったバックパックは容量60Lである。このサイズを背負ってポンチョを着用すると裾が4~5㎝上がって、ふくらはぎが完全に露出するようになったが、ポンチョの生地はますます足にまとわりにくくなり、むしろ歩きやすい。なお、このパックポンチョULは容量100Lのバックパックにまで対応する設計となっている。
雨の山でテスト!
では、実際に山中でテストした感想を述べていきたい。
この連載の撮影はつねに三脚を使った自撮りである。今年、僕はこのパックポンチョULを雨中の山中で何度も使ってみたが、雨が激しいとセルフでの撮影は不可能。そのために以下の写真は小雨のタイミングで行なったものである。大雨の際のテスト画像はないが、お許しいただきたい。
数度にわたるテストのなかで、最後まで効率的な方法が見つからなかったのが、“バックパックを背負ったままパックポンチョULすばやく身につける”術であった。
このときに使用しているのは容量50Lのバックパックだが、バックパックを背負ったままでポンチョを羽織ろうとすると、どうしてもリッド部分が引っかかってしまう。自分の手は首裏までは伸びるものの、バックパックの正面までは届かず、この引っ掛かりを直すのにはかなり手間がかかるのだ。急な降雨で急いでポンチョを使いたいときには大きなストレスを感じてしまう。はじめに腕を通さないでポンチョをかぶり、それからその内側でバックパックを背負う、という方法もできなくはないが、これはこれで別の部分が引っかかりやすく、結局はかなり面倒なのであった。
ポンチョのなかには正面にファスナーがつけられ、ジャケットを羽織るように着用できるタイプもあり、それならばバックパックへの引っ掛かりを抑えやすい。また、サイドが開いてタープ的に使えるものも、構造的に着用時にはあまり引っ掛からない。つまり、今回のパックポンチョULのように正面のファスナーを省き、サイドも開かないデザインのポンチョは、この点が大きな弱点だ。しかし、開く部分、開いている部分が少ないからこそ、防水性が高いポンチョに仕上がっているともいえるのである。
着用時に引っかかりやすくはあるが、ひとたび理想的な形でかぶることができれば、パックポンチョULは非常に快適であった。背中の立体部分へのバックパックの収まりがよく、かなりの強風でもなければバックパックからずれることもない。
なによりも長く着続けると実感するのは、レインジャケットのように体へ密着していないので体の周りに外界の空気が呼び込まれ、無用な熱と蒸れが効率的に排出されていることだ。僕は非常に汗かきで、レインウェアを着ていると熱を持った内部がひどく蒸れ、結局は雨水ではなく自分の汗によってベースレイヤーがぐっしょりと濡れてしまうことがある。だが、このようなポンチョを使っていると、体が過度に熱くならず、明らかに発汗が抑えられる。反対に、冷たく濡れた生地が体に密着しないので、寒冷な時期は体の冷えも抑えられる。これもポンチョのメリットだ。
ちなみに、ここでは別のレインパンツを組み合わせて着用している。裾が長いポンチョはそれだけで相当な面積の下半身をカバーするが、ふくらはぎよりも下はどうしても濡れる。登山靴などもドライなままで行動したい場合は、これが現実的な方法である。
上部やサイドに開口部が少ないパックポンチョULは、首元のドローコードを引き、腕を下げた状態であれば、雨水が流れ込む余地はほとんどない。
だが、例えばトレッキングポールを使った場合、両腕の位置が上がるために、何かの拍子に雨水が袖元から流れてくることもある。
袖の部分は一般的なレインウェアのようにゴムなどで絞るデザインにもできただろう。実際にそのような仕組みのポンチョも実在する。だがパックポンチョULの腕部分は、ある程度はつねに開くようにしてある。これは大きく開いた裾と連動してベンチレーターとして機能させるためだろう。
だから、内部をできるだけ濡らさないためには、トレッキングポールを短めに使ったり、不必要なほど腕を上げないような使い方をするなど、少し工夫したほうがよさそうだ。
裾は開いたままのほうが風は通りやすいとはいえ、生地がバタついていると足元が見えにくい。とくに降雨時は地面や登山靴の位置が見えないと転倒しやすい。
そこで、先に説明したスナップボタンを使って股下で留めると、がぜん歩きやすくなる。シンプルだが、じつに効果的なポイントだ。
雨が上がり、収納時にうれしかったのは使用生地の撥水性の高さだ。玉のように雨水を弾き、収納する前にバタバタと振れば、ほとんどの水分が落ちてしまう。
レインウェア以上に生地の面積が広いだけに、水分が付着したままだと、かなりの重量増になる。だが水分のほとんどを叩き落とすことができれば収納時に他のモノを濡らすこともなく、重量も軽くなって、ストレスを軽減できるのだ。
まとめ:新しい可能性を感じる山岳ポンチョ
数あるポンチョのなかでも防水性が高いデザインを採用したパックポンチョULは、たしかに雨のなかでも使いやすかった。袖の部分をわずかに狭めることで、この部分から雨水が入りやすいポンチョの欠点を補いつつ、内部への通気性を確保して、湿気が多い時期や場所でも体をドライに保てるのは大きな利点だ。体といっしょに大型バックパックまで濡らさずに済むのも便利である。タープやツエルトのように広げて使えるデザインではないが、一般的なレインウェアほど体には密着しないために体温は奪われにくく、着用したまま座りこめば小型ツェルトのような役割も果たし、緊急時のビバーク装備のひとつにもなりえる。
ただし、あくまでもこれはポンチョだ。現代のレインウェアは“殻”という意味を持つ「シェル」の一種で、まさに殻のように水分を遮断する。だが、ポンチョの殻は隙間だらけで、「シェル」というほどの強固な防水性は持っていない。とくに強風が吹く森林限界以上の稜線では隙間から風雨が侵入し、使いにくいのが実情である。
だが、今回使用した画像を撮影した樹林帯のような場所は風も弱く、大いに活躍してくれるはずだ。使用するシチュエーションさえ選べば、レインウェアよりも便利な場合も多いのである。僕はもう少しパックポンチョULに代表される山岳用ポンチョを使い続け、雨天行動の際の新しい可能性を追求してみたいと考えている。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
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