「山のキノコ」〜妖しさを醸す|山の写真撮影術(8)
キノコは摩訶不思議。フォルムも色彩も千差万別。秋山の隠れた主役をバッチリ写すためのポイントを解説します。
文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭
秋といえばキノコ。しかし、美にして珍なるのは味ばかりではない。
その色彩や形状、質感など、キノコが持っている万事万象が写真向きである。
シャッターチャンスは一期一会と言われるが、キノコとの出会いも一期一会。わずか数時間でキノコの形になったかと思えば、その数時間後には、ふにゃりと崩れてしまうキノコさえある。
というわけで、出会ったキノコを見送ることなく撮影してみよう。
キノコの大きさは千差万別。とはいえ、かなり小さな場合も多い。まずは、キノコの魅力を最大限に引き出すため、画面いっぱいに写すことから始めよう。そのために接写のできるレンズが必須。脚の大きく開く三脚も欲しいが、高感度&手ぶれ補正の技術で、ある程度までは三脚なしで撮影できる。三脚の購入は、手持ちの限界を知ってからでもよいだろう。
【作例1】横から写す妖しいシルエット
独り立つキノコ。森からこぼれる光で柔らかくぼかした。地面ギリギリの低い位置から、シルエットで形を印象づけた

①背景には柔らかな光を
この写真はシルエットで見せる。いわば明暗での画作りとなる。木漏れ日が柔らかな光源となるよう背景に配置。柔らかなボケとなるように、あまり絞り込まずに撮影している。
②横から形を写す
モデル選びは大事である。群れるキノコもいいが、独り立つキノコも美しい。その上でプロポーションを生かす。上から見ると形がつぶれるが、横からはシルエットが際立つ。
③ピントはどこに合わす?
問題はどこにピントを合わせるか。できれば全体に合わせたいが、接写では難しい。ここではまさにスタイルの軸となる、キノコの軸にピントを合わせた。ケースバイケースで対応しよう。

カメラ:シグマ sd Quattro
レンズ:シグマ 70mm F2.8 EX DG MACRO(35mm換算で105mm)
ISO:200
絞り値:f5.6 シャッタースピード:0.8秒
備考:絞り優先オート+4/3
【作例2】下から写す迫力ある群生
キノコの撮影は一期一会。撮影には接写のできるマクロレンズとローアングルにできる三脚の利用がおすすめ

①無意味な空はカットしよう
見上げカットでも背景は大事である。白く抜けた曇り空が大きな面積を占めると、空間の多い興ざめな写真になる。ここでは竹や木が天を覆っていたので、無意味な空白がなかった。
②主役を照らすスポットライト
ナラタケの群生にスポットライトの木漏れ日。これを生かさない手はない。構図をまとめる上でも主役とした。ここが露出オーバーにならないように気をつけたい。
③下から写して遠近感を出す
アップもよし引いてもよしがキノコである。さまざまな角度、さまざまなレンズで撮影を楽しもう。ここでは環境を写し込むことも考え、下から仰ぎ広角レンズでパース(遠近感)をつけた。これでキノコの写真が風景写真にも昇華する。

カメラ:シグマ SD15
レンズ:シグマ 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM、8mmで撮影(35mm換算で13mm)
ISO:100
絞り値:f14 シャッタースピード:2/3秒
備考:マニュアルで撮影。現像時に+1/3、コントラスト+0.2
コラム
印象はアングルで変化
かさの上にもシワシワのヒダがある、ちょっと不思議な姿のキノコ。その名もカサヒダタケである。
この特徴的な外観の写真は、斜め上から写したものである。そして、このキノコ。実は右ページのキノコと同じなのである。
2枚の写真を見比べてもらいたい。真横から見るのと、上から見るのでは、同一個体のキノコであっても、その姿はずいぶんと異なるもの、というのがわかってもらえるだろうか。
さて、せっかく出会ったキノコである。一枚シャッターを切って満足するのではなく、さまざまなアングルで同じ個体にアプローチをしていただきたい。
アングルの工夫だけでも、変化に富んだキノコ写真が撮れるはずである。

(山と溪谷2022年11月号より転載)
関連リンク
プロフィール
三宅 岳(みやけ・がく)
1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。
山の写真撮影術
『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他