都心から近い&登りごたえのある低山へ 岩が楽しめる名低山6選

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都心からでも日帰りで岩登りを楽しめる山は数多く存在する。関東近郊で登りがいがある岩の名低山を6山紹介しよう。

目次

日常からの脱却…岩山の魅力とは?

二子山の岩稜を歩く

推薦人:打田鍈一

低山専門山歩きライター。主に西上州や埼玉県のマイナーで静かな山をこよなく愛する。一般登山道ではない、岩あり、ヤブこぎ、ルートファインディングありの自分の登山力が試せるスリリングな変化に富んだ1000m前後の山歩きを「ハイグレード・ハイキング」と名付け、関東の名低山を渡り歩く。『山と高原地図 西上州』(昭文社)を30年執筆。ほかの著書に『薮岩魂 ハイグレード・ハイキングの世界』『続・藪岩魂 いつまでもハイグレードハイキング』『分県登山ガイド・埼玉県の山』(いずれも山と溪谷社)など。

岩山は興奮する。一般的な山道で退屈してグズりだす子どもも、岩場になると一転、オロオロする大人を尻目に果敢に登りだす。大人でもそれは同じ。山登りが日常生活からの脱却を求める行為なら、日常とかけ離れるほどうれしく、岩山はその好例だ。

北アルプス、八ヶ岳、谷川岳など岩場のある山は、それゆえ人気が高い。けれど、首都圏からだと少し離れているので、交通費や時間がかかるし、悪天候のリスクも高くなる。もっと安く、好天を確認して出かけられ、短時間で岩の感触とスリルを楽しめる山はないものか、と探し始める。岩山というとロープを始め、各種登攀具を使うクライミングを連想するが、そうした道具類なしでも楽しめる岩山は、けっこう身近の低山にあるものだ。

なお、今回紹介する山のなかには、岩場を歩く経験や装備がある登山者しか歩けないルートも含まれている。紹介する6山の登山技術レベルを下記の3段階で評価しているので、自分の技量にあったコースを選ぶようにしてほしい。

★…一般的な登山者の技術・装備で登ることができるコース
★★…複数回の岩場歩きの経験があり、確かな岩稜歩行の技術を身につけている登山者が登ることができるコース
★★★…ビレイや懸垂下降など、クライミングの技術・装備が必要な上級者向けのコース

 

ラストが最難関の岩山縦走鹿沼岩山(かぬまいわやま)

栃木県/328m
日吉神社~縦走路~一番岩~猿岩~山麓道~日吉神社/日帰り3時間10分
技術レベル:★★★(猿岩を巻く場合は★★)

猿岩からは北方に古賀志山(こがしやま)を間近に望む


正しくは「岩山」だが同名の山が多数あるので「鹿沼岩山」とした。樹林に包まれているが、凝灰岩の尾根道は岩の感触が終始続く。近隣で親しまれるハイキングコースで、クライミングのゲレンデとしても広域のクライマーが訪れる。
日吉(ひよし)神社を起点に三番岩、二番岩と岩場を上下し一番岩に立てば、日光や安蘇(あそ)山塊の山々の展望がすばらしい。その先の猿岩は約70mの急峻な岩場の下降で、鎖はあるが着地点の見えない危険な岩場だ。ロープでの確保が望ましく、もちろん巻道もあるので、岩場初心者は巻道を使おう。帰りは東麓の車道を起点まで戻る。アクセスはJR日光線鹿沼駅、東武線新鹿沼駅から鹿沼市民バスで鹿沼西中入口バス停へ。

縦走路の岩場にはステップが刻まれている

猿岩を下るのであれば、ロープでのビレイなど、安全確保が望ましい

MAP

 

岩場の注意点

登山道の岩場はホールド、スタンスともに豊富で、好天ならフリクションがよく効くので安心して行動できる。しかし雨天など岩が濡れているととても滑りやすいので敬遠したい。 猿岩は安易に下降しないこと。途中でまずいと気づいても登り返すのも至難の技なので、腕力、脚力、装備などの充分な確認が必要だ。

山麓情報

起点にある日吉神社は、伝承によると940(天慶3)年に藤原秀郷が平将門を討伐するにあたり、近江日枝神社・日吉大社を勧請した7社の一つと、由緒ある神社だ。 宇都宮へ出れば、宇都宮餃子会が運営する来らっせ本店(TEL:028-614-5388)があり、人気店の餃子をワンストップで楽しめる。

 

原生林に包まれた二つの岩峰を周回大山(おおやま)〜天丸山(てんまるやま)

群馬県・埼玉県/1540m(大山)
天丸橋~北尾根~大山~県境尾根~天丸山~馬道~天丸橋/日帰り5時間40分
技術レベル:★★

天丸山南面、ロープの張られた岩場を登る


群馬県上野村。野栗沢(のぐりさわ)川の谷奥に天突く鋭鋒が大山だ。埼玉との県境から北に派生する岩峰だが地形図に山名はない。隣接する少し低い天丸山は地元でも知られ、いずれも険悪な岩場を擁する奥まった岩山だ。この2山を繋いで歩いてみよう。
登山口の天丸橋へはマイカーか民宿の送迎車に頼る。天丸沢左岸からすぐ右岸の薮沢に入るのが大山北尾根へのルートだが、わかりづらい。急峻な尾根上にロープをたどれば大山で、西上州や両神山、浅間山などの大展望が広がる。岩稜を下り県境尾根から天丸山を往復するが、天丸山南面のロープの張られた約50mの岩場がクライマックスだ。馬道のコルから社壇乗越(しゃだんのっこし)へ出れば車道歩きで天丸橋に戻る。

野栗沢集落から見上げる大山は王者の風格だ

大山北尾根の固定ロープはルートの目印でもある

MAP

 

岩場の注意点

大山北尾根にはトラロープが続き目印となるが、経年劣化している部分があるので慎重に。大山から南へ下る岩稜は注意深く下れば爽快だ。天丸山南面にはしっかりした固定ロープがあるが、これも充分確認して使うこと。大山北尾根は岩場自体よりもルートファインディングのレベルが高く、常に落ち着いて行動したい。

山麓情報

国道299号から野栗沢方面への入口に向野温泉ヴィラせせらぎ(TEL:0274-59-2585)がある。村営ホテルだが、日帰り入浴は現在休業中。帰路の入浴は少し離れるが浜平温泉しおじの湯(TEL:0274-59-3955)があり、食事もできる。メタケイ酸が豊富な湯で、疲労回復、健康増進に効能がある。

 

高度感抜群! 中空を行く石灰岩の岩稜ニ子山(ふたごやま)

埼玉県/1160m
坂本~西岳~股峠~東岳~股峠~坂本/日帰り5時間15分
技術レベル:★★

西岳西峰をバックに中央峰へ。爽快な岩稜歩きだ


その名の通り、2峰が屹立する岩山だ。間の股峠を挟み東が東岳、西が西岳で、西岳は西峰、中央峰、東峰に分れ、中央峰が最高点で1166m。全山石灰岩の岩山で、両端の切れ落ちた爽快な岩稜が連続するが、ホールド・スタンスは豊富で、スリルと開放感は全開だ。
西岳に向かう尾根はかつて上州と結んだ峠道で、行く手にこれから登る二子山を見上げる。鎖場から岩稜に出ると鍾乳洞を裏返しにしたような岩場が続き、両神(りょうかみ)山、御荷鉾(みかぼ)山などの大展望に浸りつつの登高だ。中央峰の先で北へ一般コースを下り、東岳へは股峠から往復するが、部分的に西岳より困難な箇所もある。帰りは股峠から坂本へ仁平沢(にへいざわ)沿いに下るが、荒れ気味なので慎重にルートを判断したい。

西岳西峰の岩稜。フリクションが心地よい

西岳中央峰を目前に、ナイルリッジを進む

MAP

 

岩場の注意点

ローソク岩分岐先の鎖場から岩場が始まる。ヤセ岩稜を右左にルートを選び登るが、岩についた先行者の靴跡が目印だ。目前だけ見ずに視界を広くとってルートを判断したい。東峰先の上級ルートは下降での滑落事故が多いので敬遠。また西岳南面を中心にクライマーが多いので、決して落石をせぬよう慎重に。

山麓情報

小鹿野(おがの)市街地の手前には赤谷(あかや)温泉小鹿荘(TEL:0494-75-0210)があり、日帰り入浴可能(700円、11時~15時)。ただし状況により不可の場合もあるので事前に問合わせたほうがよい。 食事は小鹿野バイパス、小鹿野市街地に各種食堂、レストランが散在しているので、好みに合わせて店を選べる。

 

観光地に隣接する穏やかな山に隠れた岩場が日和田山(ひわださん)

埼玉県/305m
西武秩父線高麗(こま)駅~登山口~男坂~日和田山~巾着田~高麗駅/日帰り2時間40分
技術レベル:★

金刀比羅神社に間近の男坂。背後には巾着田(きんちゃくだ)が広がる


9月下旬、500万本のヒガンバナがじゅうたんのように広がる巾着田は全国的な観光地となった。その背後にそびえるのが日和田山で、近隣のみならず多くのハイカーでにぎわう山だ。一番の特徴は固いチャート(角岩)の露出する男坂で、好みと技量に応じてルートを多様に取ることができる。駅に近くアクセス容易なのもメリットだ。
男坂を登り切った所の金刀比羅神社からは巾着田をその形どおりに見下ろせ、富士山や奥多摩方面の山々も見渡せる。宝篋印塔(ほうきょういんとう)の立つ山頂を越えても傾斜は緩いが岩場は続き、日向への下降路では男岩女岩の岩場に多くのクライマーを見上げるだろう。車道から巾着田に入れば、季節感豊かな風景の中に日和田山が300mほどの山と思えぬ貫禄だ。

岩場の続く男坂は多様にルートを取れる

下りで通る男岩には多くのクライマーを見る

MAP

 

岩場の注意点

木立もある男坂には突き立つような岩場も現われる。まずは容易なルートを選ぶが必ず両手は使う。岩場に慣れる練習を男岩女岩で行なわれることがあるが、一般的な岩場に慣れるなら男坂を何度も登降したほうが有効だ。男岩女岩に近づいてはならない。登攀具や人などの落下があり危険だ。

山麓情報

巾着田へ向かう道すじに高麗郷古民家があり、無料で見学できる。江戸時代末期から明治時代前半に建てられた旧新井家住宅で、巾着田からも良く見える豪壮な屋敷だ。高麗駅へもどる途中には手打ちうどんのしょうへい(TEL:042-982-0071)があり、一番人気は肉汁うどん。「鍋」と「焼」を逆にした焼鍋うどんも秀逸。 

 

西上州のマッターホルンへ碧岩(みどりいわ)・大岩(おおいわ)

群馬県/1133m(大岩)
三段の滝入口~三段の滝~大岩~碧岩~三段の滝~三段の滝入口/日帰り5時間55分
技術レベル:★★★

大岩への岩稜から見下ろす碧岩。十二単の官女のようだ


下仁田の街並みを後に南牧村に入ると、突き立つ2本の岩峰が目に刺さる。大岩と碧岩だ。東の大岩は1133mと碧岩より高いが、現在の地形図にその名は載るものの、かつては碧岩だけだった。また地元では2峰を合わせて碧岩、碧石と呼んでいたことから、碧岩のほうが有名になった。いずれも鋭い岩峰だがルートはある。
三段の滝入口から居合沢を進む。左岸から巻き登った滝上から左へ碧岩沢への道に入る。二股から右の尾根に登り、尾根上を行けば両端のそぎ落ちた快適な岩稜となる。大岩を往復し分岐から碧岩も往復するが、直立した2段のロープは険悪だ。下降点から西へ下れば往路に合わさる。アクセスは上信電鉄下仁田駅からタクシー、またはマイカーだ。

大岩への岩稜は中央を進む。ホールド・スタンスは豊富だ

碧岩を正面に岩稜を下る。ビレイの適切なアンカーはない

MAP

 

岩場の注意点

大岩への岩稜はホールド・スタンスが豊富なので、高度感に負けぬよう落ち着いて行動する。岩稜上でのビレイは困難だ。碧岩への2段のロープだが上段は直立し、滑落死亡事故も起きている。ここは立木などでのビレイが望ましい。三段の滝は左岸の巻き道を登降するが、固定ロープは体重をかけないほうが良い。

山麓情報

アクセス途中に道の駅オアシスなんもく(TEL:0274-87-3350)があり、登山届を提出できる。地元かあちゃん本舗のしそまきがおいしく、名物の「とらのこパン」は入手困難なほどの人気だ。打田鍈一の『続・薮岩魂 いつまでもハイグレード・ハイキング』など著書も販売。隣接する食堂で軽食もとれる。

 

谷奥にそびえる足の裏みたいな岩峰へ毛無岩(けなしいわ)

群馬県/1300m
道場~沢コース~相沢越え~毛無岩~東のコル~尾根コース~道場/日帰り4時間40分
技術レベル:★★

稜線の展望台から眺める春の毛無岩


西上州北部を東へと貫流する鏑(かぶら)川。その支流南牧川のそのまた支流星尾川、そして道場川。その谷奥に足の裏を思わす岩峰がそびえ立つ。毛無岩だ。向かって左手の沢沿いに登り、右手の尾根を下って周回できる。ルートは判り難く、岩稜上にはロープやクサリなど一切ないが、足元が垂直に切れ落ちた岩頂は360度の大展望だ。
アクセスは上信電鉄下仁田駅からタクシーまたはマイカー。道場集落の山神宮の奥が沢コース登山口で数台駐車できる。目印は少なく読図力で沢沿いに進み、尾根に取り付けば相沢越えで稜線に出る。毛無岩へは痩せ岩稜だがヤブがあるので高度感は少ない。山頂から東のコルへは足指を一本ずつ越える激しい登降だ。下る尾根コースも難所が連続する。

尾根コースの展望岩を東から巻いて下る

毛無岩頂上へはやせたヤブ岩稜の急登だ

MAP

 

岩場の注意点

沢コースのロープトラバースはスリップに注意。沢から尾根への取付き点を見逃さないように。山頂先の小岩峰は皆岩上を行く。巻き道風の踏み跡に入ってはならない。尾根コースには展望岩下のロープで下る岩場、樹林中のナイフリッジ、荒れた沢沿い道のルートファインディングなど課題が多い。

山麓情報

アクセス途中の磐戸(いわど)集落には和菓子の信濃屋嘉助(TEL:0274-87-2322)があり、早朝から営業しているので入山前に購入可能だ。ミニ草餅は行動食にイチオシで、まんぷく団子は朝食代わりに。どら焼き、すあま、パイ饅頭、お炭つきまんじゅうも行動食に。帰りにはブランデーケーキをお土産にしたい。

 

惜しくも選考から漏れた名山

東京近郊の岩低山を代表するのが妙義(みょうぎ)山だ。表妙義、裏妙義と二つの岩脈が並ぶが、最も一般的な表妙義中間道は、現在崩落のため通行止め。白雲山から金洞山への表妙義縦走は超ハイレベルだが、体力技術不足による遭難多発エリアだ。裏妙義は上級向けハイキングコースだが、これも腕力勝負のポイントが激多い。

目次

登山の達人が教える関東近郊名低山

都市圏から、日帰りで楽しめる低山は数多く存在する。登山ガイドや山岳ライターなど、山を歩き尽くしている登山の達人が、関東近郊の名低山を紹介する。

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