まるで映画『ゴッドファーザー』のような生き方の「鳥」とは?

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わたしたちは動物のことをぜんぜん知らない! かわいい、怖い、賢い、頭が悪い、汚い、ずるい――人間が動物たちに抱いているイメージは果たして本当か? カラスの研究者である松原始氏が動物行動学の視点から、動物たちにつきまとう「誤解」をときあかす『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』(ヤマケイ文庫)が発刊された。本書から、一部を抜粋して紹介します。

 

親から子に受け渡せるのは、基本的には遺伝子と体である。親が育てることによって栄養や安全を確保し、さらに学習の機会を与えることもある。そして、親から学ぶだけでなく、さらに何かを子どもに「遺す」例も少ないながらある。

例えば、アメリカにすむヤブカケスだ。

ヤブカケスは名前の通り、カリフォルニアなどのやや乾燥した場所にいて、藪(やぶ)を営巣場所としている。面白いことに雛は巣立った後も独立せず、そのまま親元に残る。そして、次の繁殖の時に子育てを手伝う。

このような、自分の兄弟を育てる手伝いをする個体はヘルパーと呼ばれ、いくつかの鳥で見られる。よく研究された例として、アフリカに分布するヒメヤマセミを取り上げよう。

ヒメヤマセミのヘルパーは二つある。一つは血縁者が子育てを手伝う例で、1次ヘルパーと呼ばれる。この場合は兄弟姉妹、つまり自分と同じ遺伝子を持った可能性のある個体を育てていることになる。これがヘルパーとしては普通の例だ。

本当は自分で繁殖するのが一番いいのだが(生まれた子どもは自分の遺伝子の半分を受け継いでいる)、何らかの理由でそれができない場合、何もしないよりは血縁者を増やすほうがマシである(兄弟姉妹なら1/4の確率で自分と同じ遺伝子を持っている)。

もう一つが2次ヘルパーで、こちらは血縁がない。血縁もない赤の他人の子育てを手伝うとは奇妙だが、これはツバメの「巣の乗っ取り」の、もっと平和的なバージョンだ。ヘルパーは子育てを手伝う代わりに縄張りに置いてもらい、とりあえずは生きていけるし、子育ての練習もできるし、縄張りの持ち主が死ねば、その後釜に座ることもできるわけだ。

まあ、後継のいないラーメン屋の住み込みバイトみたいなものである。ただし、血縁はやはり重要であるらしく、2次ヘルパーは1次ヘルパーほど熱心に働かないことも知られている。

さて、ヤブカケスの話に戻ろう。ヤブカケスのヘルパーは1次ヘルパーである。ただ、ヘルパーの仕事は雛に餌をやることよりも、縄張りを防衛し、むしろ攻撃的に縄張りを広げることだ。

こうやってファミリーで大きな縄張りを防衛しないと、資源が足りない。なによりも営巣地となる藪が足りない。営巣に適した大きな藪の塊はどこにでもあるわけではないのだ。

だから、彼らは営巣場所を死守し、あわよくば隣の藪も手に入れるために激しく争う。

こうやってヘルパーの働きで縄張りを広げると、今度はヘルパーへの縄張りの割譲(かつじょう)が行われる。こうして若鳥は新たな縄張りを得て繁殖し、その子どもたちがまたヘルパーとなって、親族と共に縄張りを広げようとするわけだ。

つまり、ヤブカケスの親は子どもたちに土地を遺すのである。いや、遺すというよりは取り分を与えているというべきか。ファミリーで結束して縄張りを守り、広げ、新たな縄張りを2代目に任せる……平たく言えば戦国武将、あるいはマフィアだ。

映画『ゴッドファーザー』のコルレオーネ一家みたいなものだと思えばいい。本家の都合で殺されたり、上納金を要求されたりはしないと思うが。

なお、もちろんだが、全てのヤブカケスが親元に残るわけではない。新天地を求めて飛び立つものもいる。

 

※本記事はヤマケイ文庫『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』(山と溪谷社)を一部掲載したものです。

 

ヤマケイ文庫『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』

各メディア絶賛!動物行動学者が綴る爆笑科学エッセイ。


著:松原 始
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【著者略歴】

松原 始(まつばら・はじめ)

1969年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館・特任准教授。研究テーマはカラスの行動と進化。著書に『カラスの教科書』『カラス屋の双眼鏡』『鳥マニアックス』『カラスは飼えるか』など。「カラスは追い払われ、カモメは餌をもらえる」ことに理不尽を感じながら、カラスを観察したり博物館で仕事をしたりしている。

 

note「ヤマケイの本」

山と溪谷社の一般書編集者が、新刊・既刊の紹介と共に、著者インタビューや本に入りきらなかったコンテンツ、スピンオフ企画など、本にまつわる楽しいあれこれをお届けします。

 

カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?

動物行動学者の松原始さんによる連載。鳥をはじめとする動物たちの見た目や行動から、彼らの真剣で切実で、ちょっと適当だったりもする生きざまを紹介します。発売中の『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』(山と溪谷社)の抜粋と書き下ろしによる連載です。

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