原始の森を守り、生かす。芦生もりびと協会

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、京都府の「芦生(あしう)の森」で保全活動やガイド養成などに取り組む「芦生もりびと協会」を紹介する。

取材・文=一ノ瀬伸、写真=広瀬慎也、芦生もりびと協会

■日本山岳遺産候補地を募集中!

京都北山 芦生の森
京都、福井、滋賀の3府県境が交わる三国峠付近

一般社団法人 芦生もりびと協会(2021年度認定)

Area:芦生の森
Main activity:ガイド養成、環境保全
Group profile:
京都大学と連携し、芦生の森の保全や適正利用を目的に設立。認定ガイドが所属する4団体が加盟。一般利用者への情報提供、ガイドの研修・養成、地域住民へのツアーなどを行なう。
https://ashiu-moribito.jp/

「植物学を学ぶ者は、一度は見るべし」。日本屈指の生態系の豊かさゆえ、そんなふうにいわれる森がある。京都府北東部、由良川(ゆらがわ)の源流に位置する「芦生の森」だ。原生的な自然が残り、日本海型と太平洋型の気候帯が入り混じる条件によって多様な動植物が育まれている。

一帯の約4200haは、京都大学の研究林として100年にわたって保全されながら教育や研究の場となっている。かつては散策などの一般利用を広く受け入れていたが、遭難事故や盗掘の増加、ゴミ問題などによって現在は入林を制限。ゲート周辺のエリア以外へ入るには、認定ガイドの同行が条件となる。

そうした一般利用者への情報提供、林内で活動するガイド・団体の取りまとめを担うのが、2017年に設立した「芦生もりびと協会」だ。ガイドが所属する4団体が加盟し、情報共有やルール作りを行なっている。ガイド向けに動植物の知識を深める研修会や遭難事故に備えた訓練も主催する。

京都北山 芦生の森
芦生の森のガイドツアーで大きなカツラを観察

「大木を見に行ったり、源流域を歩いたり、日本海の展望を楽しんだりと、さまざまなコースがあります。加えて、芦生の森は昔、木地師(きじし・木材をろくろで加工する職人)が住んでいたり、人の営みの歴史も豊富なんです。ガイドではそうした魅力を伝えています」

会の代表理事で自身もガイドの鹿取悦子さんはそう説明する。そんな深い自然や文化を味わおうと、年間約4000人がガイドツアーに訪れるという。

そして、会は森を未来へつなぐ取り組みに力を注ぐ。ひとつは、新たな認定ガイド養成。現在合わせて約20人いるガイドの高齢化も進むなか、次世代の希望者を募って講座を開いている。

京都北山 芦生の森
芦生もりびと協会主催の地元の親子向けツアー
京都北山 芦生の森
芦生もりびと協会主催の地元の親子向けツアー

もうひとつが、地域の子どもへ森の魅力を伝えること。麓の小中学校の学校行事の一環として毎年、ガイドツアーを行なう。「地元の子どもたちに知ってもらうのはすごく大事」。淡々と話していた鹿取さんが、少し語気を強めた。

★日本山岳遺産認定地 詳細:京都北山 芦生の森[ 京都府 ]一般社団法人 芦生もりびと協会(2021年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

山と溪谷2023年1月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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