「冬の造形」〜凍てつく寒さが生む|山の写真撮影術(11)

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色を失う冬の山。雪と氷、風などが美しいデザインを山に刻みます。そんな期間限定の造形の撮影法を解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭

 

冬は造形作家である。霜が降り、霜柱が立ち、うっすらと初氷。そんなことを皮切りに、どんどん冬の景色は変わる。

町はもちろんだが山の冬はいっそう過酷で、それだけに、造形の度合いも、時には過剰なまでになる。

きらめく霧氷に無数に立ち上がる巨大な樹氷。尾根からはぐいと張り出す雪庇がのぞく。谷には凍てつく氷爆、連なる氷柱。風が当たればエビノシッポが発達する。冬山らしい造形は、暖冬かどうか、雪の乾湿、風の強弱といった条件でずいぶん変化する。また、その場にいる時間によっても目まぐるしく変化を続けてゆく。

それだけに、だれもが気づく派手な造形以外にも、レンズを向ける方向によって、意外な景色を見つけられるはずだ。それらを見逃さないようにしよう。寒さとの闘いになるが、ぜひともシャッターを押してもらいたい。

 

【作例1】寒さに凍てつく滝

道志川に流れ込む支流の牧馬大滝。氷結は年に数日。動きを表現するためスローシャッターで撮影している

 

①異質なものが調和を崩す

この写真は詰めが甘かった。奥の氷でも水でも岩でもない部分が、全体の緊張感を崩している。撮影時に気をつける必要があった。プリントするならトリミングしたい。


②動を入れて静を活かす

氷結しただけの滝という写真では描けない、静と動というおもしろさ。シャワーのように降り注ぐ滝、叩きつけられる水面。動を入れてこそ、静が浮き彫りになってくる。


③手前でインパクトを

岩への飛沫が凍てつき、不規則な凹凸に覆われたいびつな塊となる。この氷の造形は冬ならばこそ。しっかり手前に据えた構図で、画面にインパクトを与えた。

撮影データ

カメラ:シグマ sd Quattro
レンズ:24-70mm IF EX DG F2.8(48mmで撮影、35mm換算で72mm)
ISO:100
絞り値:f20 シャッタースピード:1/5秒
備考:ホワイトバランスは晴れ、絞り優先、+1/3

 

【作例2】落日に染まる冬の山肌

浅間山。落日に染まった山肌も、かすかな赤みを残してモノトーンに沈んだ。ただその文様に魅せられシャッターを切った

 

①斜めの線が山容を表わす

右の方向に流れ下る雪模様だけでなく、このように左にも流れる雪の線を添えた。左右の流れを見せることで、浅間山が誇る穏やかなプリン形の山容が浮かぶイメージとした。


②ほのかに赤みを残す山肌

残った雪が、ほんのりと紅の暮色に塗られる。浅間山斜面はよくモノクロ表現される被写体だが、そこに一日の終わりを告げる色を残すことで、夕刻の切なさを加味できた。


③中間色を軸にする

深い黒は写真を重くする。この写真では、白と黒をはっきり分ける表現ではなく、中間色の灰色を軸に柔らかな表現とした。そのためこの黒の部分はあまり大きくならないよう留意した。

撮影データ

カメラ:ニコン D200
レンズ:AF-S DX VR Zoom-Nikkor 18-200mm F3.5-5.6G ED(200mmで撮影、35mm換算で300mm)
ISO:100
絞り値:f7.2 シャッタースピード:1/90秒
備考:ホワイトバランスはオート、絞り優先、−2/3

 

コラム

冬景色には物語がある

普段被写体にならないものが、被写体になるのが、冬のおもしろさ。

たとえばこの木。雪がなかったとしても、おもしろい枝ぶりで、それなりの存在感があるだろう。しかし、きっちりとした斜光線などの演出がなければ、景色から突出するだけの存在感を見いだせなかったのではなかろうか。ちょっとおもしろいかも、といった程度の姿では、かなり地味に写るだけだ。

ところが、雪が積もればその表情は、まったく変わる。風によって運ばれ、枝や幹にこびりついた雪が、木の存在感を無限に広げる。のたうつ寒さ、静まり返った寂しさから何かを語りかけられる。

冬は景色の中から物語を紡ぎ出してくる、魔法の扉なのだ。

 

山と溪谷2023年2月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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