「秘境」を安全に楽しんでもらうために。大杉谷登山センター
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、三重県の大台ヶ原大杉谷で登山道整備や安全啓発などに取り組む公益社団法人「大杉谷登山センター」を紹介する。
取材・文=一ノ瀬 伸、写真=大杉谷登山センター
公益社団法人 大杉谷登山センター(2013年度認定)
Area:大台ヶ原大杉谷Main activity:登山道整備
Group profile:
1977年に「三重県大台山系山岳遭難対策協議会」として設立。1982年に「社団法人 大杉谷登山センター」に改組。2014年より公益社団法人に変更。登山道点検・整備、情報提供などを実施。
https://www.oosugidani.jp/
「ここは谷沿いをトラバースする形で登山道があります。万が一、滑落したら落差はけっこう大きい。何かあったときのことを考えて、こまめに点検や整備をし、事故の可能性を減らせたら」
三重県の大杉谷で登山道整備や情報提供を行なっている「大杉谷登山センター」職員の神田靖英さんはそう話す。
日本三大峡谷に数えられる大杉谷は、エメラルドグリーンが美しいシシ淵や堂倉(どうくら)滝をはじめとする多数の滝が点在し、11本の吊り橋が設置されている。「まるでひとつのアトラクション」と神田さんが形容するように、見どころが凝縮され、4月下旬~11月下旬の開山期間には多くの登山者を魅了している。
一方で、谷の「秘境」ゆえに、リスクが伴う。センターによれば、入山者数に対する遭難事故の割合は、日本アルプスや富士山より高い。事故を防ごうと、シーズン中の毎週、登山道をパトロールし、倒木や落石などの危険箇所を修復。点検は一日がかり、時には山小屋に宿泊して1泊2日で行なうそうだ。
毎年夏と秋の2回、ボランティアを募った整備も実施している。活動エリアによって毎回10~20人ほどを募集し、登山愛好家らが参加する。神田さんは「ふだんは僕ともうひとりで作業しているのですが、大きな修繕には人手が必要になる。募集をかけるとすぐに定員いっぱいになります。協力していただいて本当に助かっています」と感謝を語る。
大杉谷を歩き尽くす神田さんは、この場所にどんな魅力を感じているのだろう。
「一般的な登山は、頂上をめざして景色を見て、という感じだと思いますが、ここはまずそれがない。展望はほぼないけれど、その分、近くの自然をたくさん見られてひと味違った登山が楽しめます。僕も山に入れば毎回、発見があります」
今年も大杉谷に登山シーズンがやってくる(2023年は4月21日に開山予定)。センターでは、登山者を安全に迎えるべく、人知れず準備を始めている―。
★日本山岳遺産認定地 詳細:大台ヶ原大杉谷[ 三重県 ]公益社団法人 大杉谷登山センター(2013年)
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日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(山と溪谷2023年4月号より転載)
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!