「絞り値」〜花で違いを見る|山の写真撮影術(13)

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『山の写真撮影術』の連載も2年目に突入。これからは少し掘り下げ、技術的な話も。
今回は春の花を作例に、絞り値による印象の変化を解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭

 

絞りとは主にレンズに組み込まれ、センサー(あるいはフィルム)に届く光量を調節する仕組みだ。

だがもう一つ、絞りには大きな役割がある。絞りを絞る(絞り値を大きくする)ほど、被写体前後のピントの合う範囲(被写界深度)が大きくなる。一方、絞りをあける(絞り値を小さくする)ほど、被写体前後のピントの合う範囲が狭くなるのだ。この、被写体前後のピントの合う範囲を変えることで、写真の出来上がりもずいぶん変化する。

作例2点を比べてみよう。同じ位置、同じレンズでほぼ同じ明るさになるよう撮影したクリンソウだが、ずいぶん違った印象のはずだ。

左の写真では、ディテールまでしっかりと描写されているが、右の写真ではずいぶん柔らかい描写になっている。

絞りをさまざま変えて撮影することで、好みの描写を探してほしい。

 

【作例】

鮮紅色の花で知られるクリンソウ。高原の湿地を好んで咲く。大群落にもなるが、一本だけ凛と咲く姿も好ましい。入笠山にて

 

①光の描写を変える

絞りを変えると非合焦部(ピントの合っていない部分)の光の描写が大きく変化する。開放に近いf3.5で撮影した右の写真は柔らかく光がにじんだ状態で描写されるが、左のf13まで絞った写真は固い描写で、よく見ると光源が八角形で描写される。これは絞りが八枚羽根であることを示す。一般的には絞り羽根の枚数が多いほど角が柔らかな雰囲気になる。


②ここにもピントを合わせるべきか

花の写真では、目的により絞りを使い分けることが多い。左のf13で撮影した写真のように、絞り込むほど図鑑などに向く、記録に適した写真となる。一方、右の写真は雰囲気重視の写真になる。花にはピントが合っていても、このつぼみの部分はすでにピントが合っていない。必要ない部分はピントが合っていなくてもよいと考えれば、これでよいのだ。


③まずは主役にピントを合わす

見せたい部分、撮りたい部分には、しっかりとピントを合わせよう。ボケを生かせるのも、ピントが合っていてこそだ。また、絞り込んで見せる場合であっても、まずは見せたい場所にピントを合わせること。これは写真の基本なので、ゆるぎない。あとは、非合焦部をどうコントロールするか、という意識で、絞りを変えてゆくのだ。

 

撮影データ

■左の作例
カメラ:ソニー α7
レンズ:シグマ MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM
ISO:200
シャッタースピード:1/100秒
備考:絞り優先、ホワイトバランスはオート

■右の作例
カメラ:ソニー α7
レンズ:シグマ MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM
ISO:200
シャッタースピード:1/10秒
備考:絞り優先、ホワイトバランスはオート

 

コラム

深度合成で合焦部を広く

深度合成は、ピントの位置をずらして撮影した複数枚の写真を1枚に合成すること。ピントの合っている場所から急に大きくボケる点などが気になる場合もあるが、絞り値が低いままでも、合焦部の広い写真を撮れる。以前はコンピュータ上での特殊プロセスであったが、近年は手振れ補正の技術を組み合わせ、手持ちの接写でも手軽に深度合成ができるカメラが現われている。なかには、コンパクトカメラでも深度合成ができるものがある。

それにより、とにかくピントを合わせにくく、しかもブレやすい花などの接写の際にも、わずらわしい三脚撮影をせず、手持ちで写真が撮れるようになってきた。デジタルならではのすごい技術である。

 

山と溪谷2023年4月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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