「絞り値」(2)〜光の描写を変える|山の写真撮影術(14)
逆光のまぶしさを印象的に表現でき、写真にめりはりを与える光芒。
春の樹林を作例に絞り値による光芒の変化を解説します。
文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭
明暗のめりはりをつけることは、印象的な写真を撮る秘訣のひとつ。デジタルカメラの登場により、画面の中に直接太陽を入れやすくなった。そのような写真を印象づけるのが光芒である。太陽から放射状に放たれる光の筋、この際立つ輝きが画面を一気に華やかにし、そして引き締める。
この光芒は、撮影時に深く絞り込むことによってシャープに映え、はっきりくっきりとするのである。
絞りは通常、レンズに組み込まれた絞り羽根で調整される。その羽根が同心円状に開いたり閉じたりすることで、レンズを通過する光の量をコントロールする。その羽根と羽根が交差する位置で光芒が発生する。つまり、8枚羽根のレンズなら8本の光芒が生まれるのだ。
絞りには前回紹介した、ピントの合う範囲のコントロールという役目もあるが、光芒を生む、といった副次的な役割も見逃せないのである。
【作例】
うねるような生命力みなぎる照葉樹。空を覆う暗い影となる木の葉の隙間から、ギラリと輝く太陽。そのまぶしさを光芒で表現した

①暗部を作ってめりはりを出す
画面上部をこの常緑の葉で覆った。これにより空の明るい部分を少なくした。この写真では、光源たる太陽をいかに生かすか、表現するかが大事であり、そのためには画面全体がちょっと暗いトーンであってもいいと判断した。明部を引き立てるために暗部を大きくする、ということである。
②絞り値で光芒が変わる
写真は光と影の芸術でもある。スタジオ撮影では照明を念入りに配置することで光と影を自在に描けるのだが、山での撮影では光源はほぼ太陽のみで、思うように光源を動かせない。だからこそ、その光源をいかに見せるか、という工夫が写真の仕上がりを左右する。光芒を出すことも、そういった工夫のひとつ。といっても、それほど難しいテクニックではない。右の作例のように絞りをグッと絞りこむ。それだけで光が放射状に写るのだ。
③光源はなるべく小さく
光源はできるだけ小さいほうが、光芒が出やすい。そこで、作例のように、木の幹に太陽の一部が隠れるようにして、太陽のほんの隅っこだけが光っているような状態にすると、より光芒が印象深くなるのである。

■左の作例
カメラ:オリンパス E-M1 MarkⅡ
レンズ:オリンパス ZUIKO DIGITAL 11-22mm F2.8-3.5(撮影は13mm、35mm換算で26mm)
ISO:200
シャッタースピード:1/800秒
備考:絞り優先、+2補正、ホワイトバランスは晴天
■右の作例
カメラ:オリンパス E-M1 MarkⅡ
レンズ:オリンパス ZUIKO DIGITAL 11-22mm F2.8-3.5(撮影は13mm、35mm換算で26mm)
ISO:200
シャッタースピード:1/13秒
備考:絞り優先、+2補正、ホワイトバランスは晴天
コラム
逆境も表現の幅を広げる
逆光はフィルム時代において写真の逆境であった。切れ味のわるい写真になりがちだったのだ。それがデジタル時代となり、レンズの表面処理(コーティング)の技術も驚くほど向上し、逆光でも積極的に撮影ができるようになった。仕上がりもクリアな写真ばかりだ。しかし、古いレンズでの撮影でも、おもしろい効果を狙えることがある。逆光で撮影すれば、絞りの形の「ゴースト」が現われたり、コントラストの低いソフト感のある写真が撮れたりするのだ。作例では絞りの形が写りこんでいるのがわかるだろうか。
シャープですっきりした写真はすばらしいが、あえて古レンズで癖のある写真というのも、表現の幅を広げてくれるのだ。

(山と溪谷2023年5月号より転載)
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プロフィール
三宅 岳(みやけ・がく)
1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。
山の写真撮影術
『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。
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