主題と構図〜空と山のバランスで知る|山の写真撮影術(15)

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山の稜線と空の共演は、山で出会う中でも、際立って美しい景色。その景色を撮るときに意識すべき構図について解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


これから紹介する2点の作例、写っているのは八ヶ岳。季節や時期、撮影時間は異なるものの、撮影地や画角は近い。しかし、主題の違いは鮮明だ。

稜線の位置をどこにするかは、構図を決定する上で最初の分かれ道。稜線を画面上方にすれば山そのものが主題となり、稜線を下に抑えれば空が主題となる。稜線の位置で作者が写真に込めた思いが大きく振り分けられるのだ。

そこが曖昧な写真のなんと多いことか。気持ちはわかる。せっかくの青空、魅力的な山並み。どちらも一枚に写し込みたいと思うのが人情だ。しかし結果は、二兎を追うもの、という言葉どおりなのである。どっちも好きで割り切れず、両天秤に引きずられてしまうと、結局は中途半端な画になりがちだ。

だからこそ、撮影時に強引に引き算を試みる。すなわち、空か山かの大決断をするべきである。

【作例1】山を主題に

残照が浮き彫りにする八ヶ岳。黄葉紅葉の季節を終えた斜面は赤錆の色合いだ。そこに、西側の山々が長い影を伸ばす

①脇役の空は切り詰める

夕刻、八ヶ岳の上はみごとな青空だ。しかし空を見せる写真ではない。晩秋の山肌と手前の山影がテーマなので、空は切り詰めた。

②主題は山のグラデーション

この写真のポイントは、晩秋ならではのグラデーションである。標高に応じて微妙に色彩を変える山肌。さらに、没する太陽側にある雲が生み出す稜線部の影。この少し重い色調こそが、写真の主題である山を際立たせるのだ。

③影で明部を浮き彫りにする

手前の山影も重要だ。山裾を漆黒に落とし込むこの影が、逆に光差す山肌を浮き彫りにし、山の印象をよりいっそう深いものに変えてくれるのである。この暗さを確実にするためにも、明るくも凡庸な空が多くなることは好ましくない。

撮影データ

カメラ:オリンパス E-M1 MarkⅡ
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(92mmで撮影、35mm換算で184mm)
ISO:250
絞り値:f8 シャッタースピード:1/100秒
備考:-11/3補正、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

【作例2】空を主題に

濃淡奔放の雲たちが、夜明け直前の空に遊ぶ。もうすぐ日の出だと知らせる黄金の輝き。八ヶ岳シルエットが黒々と描かれた

①光を生かすグラデーション

このときの空には光を映す雲があり、まさにこれから日の出を見せようという明快なる輝きがある。単純にベッタリした青空ではなく、曇り一辺倒の空でもなく、光の濃淡がさまざまな構成要素となり、写真の味わいを深くしている。

②主題は日の出前の空

日の出直前。赤岳と権現岳の間のキレットは、ひたすらまばゆさを増してゆく。その明るさが際立てば際立つほど、稜線の描くシルエットはシャープになってゆく。この明暗対比は、写真にダイナミックな印象をもたらす。

③脇役の山はシルエットに

画面をきりりと締めるのが、山のシルエットである。ここが大きすぎると、せっかくの空の魅力が薄らいでしまう。妥協のない黒だからこそ、引き立て役としてあまり大きくせず、画面下方のいわば縁の下の力持ちとしてがんばってもらうのだ。

撮影データ

カメラ:ソニー α-7
レンズ:シグマ 135mm F1.8 DG HSM | Art
ISO:125
絞り値:f7.1 シャッタースピード:1/2000秒
備考:-12/3補正、絞り優先オート、ホワイトバランスはオート

 

コラム

意図を持って撮ること

主題を空か山のどちらかに定めて、もう一方を抑えるのが大事である。しかし、それがいささか乱暴な教科書的なアドバイスであることも事実だ。表現は自由であり、山の稜線をど真ん中にすることを一概に「よくない」とは言えない。

ただ、あきらかに構図など何も意識することなく、稜線を真ん中に入れて撮られた写真が多すぎるのである。下の写真は割り切れず中途半端になってしまったわるい例だ。

自分の意図をはっきり持って、構図を決めてシャッターをきる。その結果が、画面中央真一文字に山並みが走るのであれば、それはもちろんよいのである。

山と溪谷2023年6月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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