横位置と縦位置〜雪渓残る谷で比べる|山の写真撮影術(16)

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雪渓が残る谷を作例に、山の写真における横位置と縦位置、それぞれの特徴と使い分け方を解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


普通にカメラをホールドしていれば、そこに切り取られる景は、横長の長方形に区切られる。この横長の構図を横位置、反対に縦長の構図を縦位置と言う。

山を主役にして横位置で撮られた写真には、まず安心感や安定感がある。山自体も縦長ということは少なくほとんどが横長であり、それに沿った構図というわけなのだ。したがって山の写真も横位置がスタンダードでオーソドックス。これぞ山なり、といった堂々とした写真に仕上がる。ただその一方で、漫然とした動きのない写真になることも多い。

そこで横で撮ったら縦でも撮影してもらいたい。縦という不安定な構図をまとめるには、経験上、山以外の要素が欲しい。張り出した尾根や深く切れ込んだ谷、あるいは流れや雪渓、木立、石ころ、花やキノコなど、山そのもの以外の要素を少し大きく取り込むことで、動きや変化のある写真となることが多いのだ。

作例紹介

針ノ木雪渓。アルプス三大雪渓だが、夏の終わりにはここまで小さくなった。これも温暖化の影響だろうか

 

横位置の作例

安定感のある横位置

人はモノの置き方ひとつとっても、知らず知らずのうちに安定感を求めるものだ。横位置の構図は人間の視野に近く、ゆるぎない安定感が内在し、写真の基本の構図なのだ。

横位置で広い谷を表現

横位置が安定するのは山を被写体とした場合も変わらない。量感のある山をいかにも山らしい姿で表現できる。作例の針ノ木雪渓は、峻険というよりもおおらかな明るい谷。横位置で撮影することで、谷を大きく広々と表現できた。

露出は主役に合わせる

この写真のテーマは雪渓の残る谷である。ここが明るくなりすぎないように露出を少し落とすことで、雪の表面の質感も再現できる。雪渓が真っ白になると味気ない写真になってしまうのだ。

撮影データ

カメラ:オリンパス E-M1 MarkⅡ
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(47mmで撮影、35mm換算で94mm)
ISO:200
絞り値:f11 シャッタースピード:1/125秒
備考:-2/3補正、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

縦位置の作例

意図的で対象に迫る縦

スマホが普及してずいぶん一般的になった縦位置は、横位置とは印象が変わる。縦位置は自然の視野に近い横位置に比べ、どこか意図的で、対象に迫った構図を作りやすい。高度感ある被写体の魅力を引き出すにも、縦位置は試す価値がある。

主題の印象を強くする

縦にすることで、メインテーマとしての谷がいっそうはっきりとした。はしる白き流れ。緑に囲まれた明るく開けた谷という横位置の第一印象から、崩れながらも涼を醸す雪渓、深く細かく刻まれた険谷へと印象が変化してくる。横よりも望遠側での撮影になるので、その効果も伴っている。

暗部で画面をしめる

撮影したのは太陽がすっかり昇りきり、あまり陰影のない青空好天である。それでも濃厚な緑となる日陰の斜面は有効に利用したいところ。画面の中で、こういった暗部がある程度の面積を占めることにより、雪や谷底といった明部も際立ってくるのだ。

撮影データ

カメラ:オリンパス E-M1 MarkⅡ
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(70mmで撮影、35mm換算で140mm)
ISO:200
絞り値:f11 シャッタースピード:1/200秒
備考:-2/3補正、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

コラム

山を脇役にするのもひとつの手

山を横位置で写すと、安定しすぎてしまうときがある。どっしりと構えた山々にふさわしい一枚が仕上がることも多いが、動きが欲しくなったり、同じような穏やかな写真ばかりになり食傷気味になることもある。作例時のように、光や影による演出が乏しい日中の時間の場合などは、山が秘めている迫力がうまく伝わらないことも多い。

この横位置の穏やかさをブレークするには、いっそのこと山ではない要素を主としてしまってもいい。下の写真では登山者を大きく写し、山を小さくして主役から外している。堂々とした主役級の被写体を、時には脇役として扱うことも写真のひとつのコツだ。

山と溪谷2023年7月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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