混雑に巻き込まれない富士登山を! 2023年の富士山の登り方

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2023年は、富士山が世界文化遺産に認定されてから10周年となる。登山者で溢れかえることが予想される富士山だが、あらかじめ登山者が行列を作る場所やタイミングを知っていれば、混雑を避けることができる。2023年流の登り方を紹介する。

文=編集部、写真=佐々木享

 

コロナの収束、インバウンド回復による影響は?

例年以上の混雑が予想される富士山

「今年はすでに7〜8月は、ほぼキャンセル待ちの状況ですね」

富士山の吉田口ルートの八合目に位置する山小屋「太子館」のご主人・井上義景さんは、富士山開山直前に小屋の予約状況についてそう語った。

2023年は、富士山にとって特別な年となる。

コロナ禍の影響で、2020年は閉山を余儀なくされた。2021年、2022年は山小屋の宿泊定員数を大きく減らしての開山となった。環境省の発表によると2022年の入山者は、2019年比で68%まで落ち込んでいた。

コロナ禍の混乱が落ち着いた今年は、国内登山者はもちろん、インバウンドの増加による海外登山者の増加が予想されている。

「特に増えると予測しているのが海外登山者ですね。渡航が自由にできるようになって、海外から富士山に登りにくる観光客が増えるのは間違いないです。海外から登りに来る方は日本の登山マナーを理解していない人がおり、軽装で登る人、弾丸登山で登ろうとする人が多いです。過去には、天気が悪くなるとトイレを休憩所代わりに立て篭もる人がいて、対応に苦労しました」(井上さん)

弾丸登山とは、山小屋に宿泊せずに、夜通しで一気に山頂をめざす山行スタイルのこと。休息が充分に取れない弾丸登山は、高山病や低体温症など、さまざまなリスクを伴う。実際に具合が悪くなる登山者の多くは、弾丸登山を試みた人だという。

富士山中で宿泊できる人数はコロナ禍と変わらないが、入山者数はコロナ禍前に戻る可能性が高い。冒頭で触れた通り、7月1日時点で、7合目以上の山小屋は休日平日を問わず予約がほぼ埋まっている。「小屋に宿泊はできないけれど山頂には立ちたい」。そう考えて弾丸登山を決行する登山者が増えることが予想されている。

山梨・静岡両県は、弾丸登山や軽装登山の防止、そして混雑を避ける登り方を登山者に呼びかけている。富士山で最も入山者が多い山梨県吉田口の五合目に通じるスバルラインは、開山期間中のスバルラインの営業を制限し、18時以降の許可車両以外の通行を禁止している。また、 富士登山オフィシャルサイトやチラシ、公式SNSなどさまざまな方法で登山者への啓発を行なっている。

山梨県・静岡県は、チラシを制作し、弾丸登山者への注意喚起を行なっている

狙い目は静岡県側ルート&日中に山頂着 2023年流の富士山の登り方

事故をなくすために登山者ができることはなんだろうか。富士山に適した装備の準備や時間的な余裕がある計画立てはもちろんのこと、できるだけ混雑を避ける登山計画が望ましい。例年、週末やお盆の時期は、夜明け前の頂上付近に登山者が集中し、長蛇の列ができる。傾斜の強い頂上付近では、混雑すると落石や将棋倒しのような事故のリスクが高まる。混雑しやすい場所でも立ち止まる時間はたいてい2時間ほどなので、その時間帯に頂上付近を歩くことを避ければ、比較的スムーズに行動できる。

1、日程

混雑を避けるプランについて、具体的に考えてみよう。まず、日程は、週末とお盆時期を避ける。今年の場合、8月5日(土)〜8月15日(火)までは大変混雑することが予想されているので、その期間は避けたい。富士登山オフィシャルサイトでは、混雑する日を予想した混雑予想カレンダーが公開されているので、参考にするとよいだろう。

2、ルート

ルートによって、入山者数も変わってくる。環境省が2022年に発表した「富士山の登山者数及び登山道別の登山者数」では、主要四大ルートの入山者数は以下の通り。

吉田ルート:9万4000人
須走ルート:1万2600人
御殿場ルート:1万2000人
富士宮ルート:4万1500人

見ての通り、山梨県側の吉田ルートからの入山者が圧倒的に多い。混雑を避けるなら、静岡県側の3ルートを利用することがおすすめだ。

3、時間帯

次に混雑する時間帯を確認してみよう。下の図は富士山頂上付近で混雑する時間帯を図化したものだ。

頂上で御来光を眺める計画を立てる登山者が多いので、八合目付近で2時〜4時、九合目〜山頂で3時〜6時付近に人が密集しやすい。上記時間帯に頂上付近にいることを避ければ、登山者の列に巻き込まれる可能性は低い。

山頂付近で混雑に巻き込まれない山行プランとしては、以下の2つがおすすめだ。

①中腹の山小屋で御来光

1日目に七〜八合目の山小屋に宿泊。2日目に山小屋前で御来光を迎え、午前中に登頂、夕方までに下山する。

②前夜泊をして、昼間に登頂

1日目に五合目周辺か六合目まで登って、山小屋に宿泊。2日目の深夜3時ごろから登り始め、七合目付近で御来光を眺める。午前中に登頂し、日没までに下山する。連続して行動する時間が長くなるため登山経験のある健脚者向けのプランとなる。
*いずれも吉田ルートをモデルとして行程表で、時刻は目安

上記2つのプランであれば、山頂付近での混雑を避けることができる。

なお、御来光が富士登山のすべてではないが、せっかくなら眺めたいという人が多いだろう。富士宮ルートは新七合目以上で、そのほかのルートはルート上のほぼすべてで御来光を眺めることができる。

結論として、混雑を避ける、2023年流の登り方は、「お盆を避けた平日に」「静岡県側のルートから」「日中に山頂に立てるように歩く」となる。ぜひ参考にしてほしい。

7月1日より山梨県側のルートが開通、7月10日からは静岡県側の主要3ルートも山開きとなる。世界文化遺産登録10周年という記念すべき2023年、事故なく富士登山が盛り上がることを願う。

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この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 富士山とその周辺

富士山・剣ヶ峰 標高 3,776m

 日本の山岳中、群を抜いた高さを誇る富士山は、典型的なコニーデ式火山。いずれの方向から眺めても円錐形の均整のとれた姿は美しく、年間を通して人々の目を楽しませてくれる。東海道本線や新幹線の車窓から見ると、右手に宝永山、左手には荒々しい剣ガ峰大沢が望め、初めて見る人の心を奪う。  昔は白装束姿で富士宮の浅間(せんげん)神社から、3日も4日もかけて歩き通したという話を古老から聞いたことがある。現在では、富士宮と御殿場を富士山スカイラインが結び、途中からさらに標高2400m辺りまで支線が延びているので、労せずして雲上の人になれる手近な山となった。  日本で一番高い山、美しい山であれば、一生に一度は登ってみたい願望は誰にでもある。7月、8月の2カ月間が富士登山の時期に当たり、7月1日をお山開き、8月31日を山じまいと呼ぶ。  山小屋や石室が営業を始めると、日本各地や外国の人々も3776mの山頂を目指して集まってくる。特に学校が夏休みに入り、梅雨が明けたころから8月の旧盆までは、老若男女が連日押し寄せ、お山は満員となり、登山道は渋滞し、山小屋からは人があふれる。  富士宮口から登ろうとする場合は東海道新幹線の新富士駅、三島駅などからの登山バスで五合目まで行き、自分の足で山頂へ向けて歩きだすことになる。山梨県側には吉田口があり、東京方面からの登山者が多い。  目の前にそびえる富士山はすぐそこに見えるため、山の未経験者は始めからスピードを出しすぎ、7合目か8合目付近でたいていバテてしまう。登り一辺倒の富士山は始めから最後まで、ゆっくり過ぎるほどのペースで歩くことがコツである。新6合から宝永火口へ行く巻き道が御中道コースで、標高2300mから2500mを上下しながら富士山の中腹を1周することができたが、剣ガ峰大沢の崩壊で通行不能になっている。  山慣れたパーティならば新6合から左に入り、赤ペンキや踏み跡を拾いながら、いくつもの沢を渡り3時間もかければ大沢まで行くことができる。辺りは樹林帯で、シャクナゲの群落やクルマユリやシオガマなどの高山植物が咲く。  9合目右側の深い沢に残る万年雪は、山麓からも見ることができる。富士宮口を登りつめると正面に浅間神社奥ノ院がある。隣は郵便局。もうひとふんばりすると、最高地点の剣ヶ峰。山頂にはかつては毎日データを送り続けていた気象観測所跡が残っている。天候に恵まれたならば噴火口の周囲を歩く御鉢巡りが楽しめる。

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