高倍率ズームレンズ|山の写真撮影術(18)

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なるべく軽量化したい山での撮影の味方になる高倍率ズームレンズ。望遠側と広角側の作品を例に、使う際のポイントを解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


撮影が楽しくなると、あれもこれもと機材を増やしてしまいがちだ。標準ズームに加え、広角や望遠のズーム、そして接写用マクロと増えてゆくレンズ。とっかえひっかえの取捨選択は、傑作写真を手中に収める儀式のようでもあり、気分が高揚するもの。

ところが、荷物はできれば減らしたいし、撮影が主な目的でないグループでの山行などでは、レンズをつけ替える暇がないことも多い。

そこでオススメなのが、一本で広角域から望遠域まで幅広くカバーする高倍率ズームレンズである。これならレンズ交換の手間なしで、一本で多様なシチュエーションに対応できる。撮影の機動力がアップして、シャッターチャンスを逃さないというメリットもある。

その性能はデジタル時代になり、十二分に進化している。ここでは広角側と望遠側の写真を例に、それぞれの特徴を見てみよう。

【作例1】広角側 焦点距離 18mm

奥秩父の大弛峠からわずかに登った夢の庭園。咲き誇るハクサンシャクナゲを主題にした。展望が広く、背景は奥秩父の背骨となる稜線。金峰山の五丈岩もちゃんとわかる

①主役は手前に

広角側での絵作りは、主役を手前に大きく配置することが大事だ。画面にメリハリをつけることができる。以前の高倍率ズームの多くは、広角側の最短撮影距離が長めであり、このメリハリをつけにくかったが、近年の製品は、ここまで寄って、主役を目立たせることができる。

②被写界深度が深い

遠景となる雄大な山のフォルムがしっかりとわかるのは、被写界深度(ピントの合う奥行き)の深い広角側でしっかり絞って撮影しているからだ。最も近い花にピントを合わせているので、遠景のピントは大甘だが、それでもどういった山での写真か、という説明ができる。

③パンフォーカスが基本

近景から遠景までしっかりとピントを合わせるパンフォーカスでの撮影は、広角側の得意分野であり、高倍率ズームでも広角側での撮影の基本となる。最短撮影距離付近での撮影では、さすがに遠景のピントは外れるが、それでも山のフォルムなどはしっかりと写る。

撮影データ
カメラ ペンタックス K-70
レンズ シグマ 18-200mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM(18mmで撮影、35mm換算で27mm)
ISO 400
絞り値 f16
シャッター
スピード
1/250秒
備考 -11/3、絞り優先オート、ホワイトバランスはオート

 

【作例2】望遠側 焦点距離 200mm

最大の望遠にして金峰山を切り取る。特徴ある五丈岩までクリアな描写。上の写真と同じ位置、同じレンズであっても、これだけ変化がつく

遠くの山に迫る

上の作例と全く同じ位置、同じレンズで撮影。レンズ交換なしでも遠くの山に迫れるのは、高倍率ズームならでは。なお作例はf16に絞りこんだが、実際には開放から少し絞り込んだ値(f9ぐらい)のほうが、よりシャープになる。

①どこまで寄るかは主役で決める

高倍率ズームを思いっきり望遠端にすることで、金峰山のシンボル五丈岩までしっかりと写せた。せっかくの高倍率。画作りの一歩は広角側から望遠側のダイナミックな画角変化を楽しむこと。どうやって山景色を切り出してくるのか、センスも試されるところだ。

②影で立体感を出す

望遠レンズで遠方の山を引き寄せる。これぞ望遠の魅力だが、近景や中景のない遠景だけでの画作りでは、立体感を出しにくい。しかし、陰影があれば、立体感を強調できる。この斜めに横切る影があること、さらに全体を少し暗くすることで、影が存在を増し、画面が生きてくる。

撮影データ
カメラ ペンタックス K-70
レンズ シグマ 18-200mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM(200mmで撮影、35mm換算で300mm)
ISO 400
絞り値 f16
シャッター
スピード
1/250秒
備考 -11/3、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

コラム

高倍率ズームは寄っても写せる

高倍率ズームがデビューした頃は、まだまだ不満だらけの性能であった。なかでも、最短撮影距離は通常レンズよりかなり長いものであり、被写体に迫るような、近くに寄った撮影には厳しいものがあった。せっかく一本で数本の働きをする高倍率ズームレンズなのだから、レンズ一本での完結が望ましかった。

ところが、最近の高倍率ズームは、その欠点もかなり克服している。被写体にしっかり寄れるまでの性能なのだ。欠点を挙げるなら、レンズが暗い(f値が大きい)ことぐらいか。だまされたと思って、高倍率ズームを一本だけつけて山行をしてもらいたい。予想以上の活躍になるはずだ。

山と溪谷2023年9月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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