2023年夏、ついに山岳遭難が史上最多に。夏山シーズンになにが起きていたのか

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コロナ禍で減少傾向が続いていた夏山遭難だが、2023年は山岳遭難が多発。発生件数・遭難者数とも過去最多となった。しかし、死亡事故は必ずしも多くはない。今年、夏山ではなにが起きていたのか。

文・写真=野村 仁

新型コロナの制限緩和、いきなり遭難が過去最多となった今年の夏山

9月13日に夏山期間(7~8月)の山岳遭難統計が発表されました。期間中、738件の遭難が発生し、遭難者数は809人、うち死者・行方不明者は61人(7.5%)、負傷者351人(43.4%)、無事救出者397人(49.1%)でした。統計上の特徴としては、次の点が挙げられます。

  1. 発生件数・遭難者数とも過去最多となりました。
  2. 前年と比較して件数で11%程度の増加でした。新型コロナ関係の制限が今年から基本的に解除されましたが、遭難の大幅増加という変化にはなりませんでした。
  3. 死亡遭難が多いように見えますが、2018年以前はもっと多い年もありました。今年が特別に多いわけではありません。
  4. 無傷救出などが多く、被害程度の少ない“軽い遭難”の多いことが特徴です。
  5. 態様別では「疲労・病気」による遭難が多く過去10年間で最大比率となりました。「転落・滑落」と「道迷い」が例年より少なく、「転倒」の比率も増加しました。やはり“軽い遭難”が多い状況と関係しています。

8月は台風の接近~通過はありましたが、全般に登山日和の日が多かったと思います。夏山登山者も多かったとみられ、マスコミで遭難のニュースが連日のように報道されていました。

しかし、実際には、8月は7月よりも遭難が少なかったようです。8月中の死亡・行方不明遭難は表のとおり19件把握できましたが、7月中の死亡・行方不明遭難は27件でした。

警察庁の発表では、遭難が最も多かったのは富士山(69人)、次いで秩父山系(41人)ということでした。しかし、私の把握した状況だと、やはり北アルプスが最多発しており、第2位が富士山でした。以下、山域別の状況を簡単に紹介します。

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[北アルプス]

93件以上(私が個人的に収集した事例数です。以下同様)の遭難がありました。

後立山連峰では半数以上が白馬岳周辺での発生です。なかでも白馬大雪渓で多発しています。ただし死亡事故はありませんでした。

剱・立山連峰では立山で4件、剱岳で5件の遭難事故がありました。少ないですが、発表されない事例がもっとあるのかもしれません。薬師岳や雲ノ平周辺でも各数件の遭難がありましたが例年並みの範囲でしょう。剱岳北方稜線の小窓ノ王では7月17日に2人、8月6日に1人、どちらも滑落で死亡しています。

雷鳥沢キャンプ指定地と立山連峰

槍ヶ岳では一般ルート(槍沢、東鎌尾根、西鎌尾根)、北鎌尾根、南岳周辺で各数件の遭難がありましたが、死亡事故はありませんでした。北鎌尾根は事故の多い所ですが、2件はアプローチでの落石と滑落、1件は疲労で動けなくなったもので、バリエーションルートに挑戦するわりに低レベルな遭難でした。

穂高連峰はやはり最多発していて20件以上の発生でした。死亡事故も多く、前穂高岳の北尾根(7月16日)、同重太郎新道(7月16日)、同吊尾根(7月23日)、奥穂~西穂稜線(8月18・21・25日)、西穂高岳(7月31日)で遭難死亡しています。

常念山脈でも例年並みの遭難発生となっており、燕岳~大天井岳の縦走コース(8月4日)で滑落死亡しています。

西穂高岳〜奥穂高岳は険しい岩稜が連続する(写真=ヤマアルキさんの登山記録より)
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プロフィール

野村仁(のむら・ひとし)

山岳ライター。1954年秋田県生まれ。雑誌『山と溪谷』で「アクシデント」のページを毎号担当。また、丹沢、奥多摩などの人気登山エリアの遭難発生地点をマップに落とし込んだ企画を手がけるなど、山岳遭難の定点観測を続けている。

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