冬は温暖で晴天率の高い播州の名山へ【続編】 絶品の牡蠣を育む豊穣の海を眺める「坂越アルプス」縦走
冬でも波が穏やかで、晴れた日が多く暖かい瀬戸内海。前回、牡蠣の名産地・坂越から赤穂の雄鷹台山への縦走コースを紹介したが、今回は同じエリアで、海沿いの連山を縦走するコースをとり上げたい。
写真・文=根岸真理、カバー写真=赤穂から小豆島は意外なくらい近く、大きな島影が間近に見える(向山より)
古くから整備されていたと思われる「坂越(さこし)尾崎遊歩道」が、近年「坂越アルプス」という名で呼ばれるようになり、にわかに注目されている。標高200m程度の低山の連なりだが、それなりにアップダウンがある。海を眺めながら歩くのどかな縦走コースは、晩秋から春先にかけての季節が適期だ。とりわけ冬は牡蠣が旬となり、歩いた後のお楽しみが増え、大満足の山歩きとなる。
起点となるのはJR赤穂線坂越駅。駅前からまっすぐ南東に進むと、千種(ちくさ)川にさしかかる。
坂越橋を渡ったところに地下道の入り口がある。地元の子どもたちが描いた、かわいらしい海の絵がある壁面を見ながら地下道をくぐり抜け、坂越の港町方面へと進む。
坂越のメインストリート、坂越大道(だいどう)に入って海側に向かって進んでいくと、トイレと休憩所がある木戸門跡の広場に着く。トイレはこの先、向山から下りて御崎(みさき)海岸遊歩道に入る手前までない。木戸門跡を南西へ進むと、すぐに登山道の入り口に着く。
まずは連山の一座目、八祖(やそ)山の北斜面を巻き上がるように登っていく。かつては、八祖山への道も整備されていたようだが、現在はほとんど歩く人もないようで、ヤブに覆われている。とくに眺望もない山頂なので、ピークハントはあまりおすすめしない。
八祖山を過ぎて最初のピークは標高151mの西山。山頂や付近の眺めのいい場所にはベンチがあり、古くから憩いの散策路として親しまれてきたことがしのばれる。道沿いには多くのドウダンツツジが植えられていて、春の芽吹きを待つ真っ赤な冬芽が愛らしい。
亀甲(きっこう)山、南宮(なんぐう)山と小さなピークをいくつも越えていく。なだらかな起伏はとても心地よく、ドウダンツツジが花を咲かせる季節にまた来てみたいと思いながら歩を進めた。
「坂越と尾崎の山境石」がある南宮山を越えると、次がこの小さな連山の最高峰、丸山だ。標高わずか209.6m。山頂はうっそうとした樹林に覆われているが、少し進んだ下り斜面から海がよく見える。
丸山を下り車道を横切って、連山最後の向(むかい)山への登り返しが始まる。しばらくコンクリートの舗装道が続くが、やがて舗装道から東側へ延びる山道へと入っていく。最後に少し急登をこなすと、西に赤穂の市街地、東に坂越の海を望む向山のピークだ。
向山から下り、今度は赤穂御崎(みさき)へ続く海岸沿いの遊歩道へ。山の縦走を楽しんだあと、海辺のハイキングへとつなげられるのは、海に近い低山ならでは。本コースの魅力のひとつでもある。
どこか懐かしい磯の香りと、のどかな波の音を楽しみながら、赤穂御崎をめざして歩く。かつて地球上に恐竜たちが闊歩していた時代、このあたりには巨大な火山があったそうで、遊歩道の脇には大規模なカルデラ噴火によって形成された岩脈があり、「赤穂コールドロンの痕跡」と書かれていた。コールドロンとは、現在では地形として残っていないカルデラの意味だそう。
赤穂はいわずと知れた忠臣蔵の舞台だが、血涙をのんで赤穂開城を終えた大石内蔵助が、この地を離れるときに名残を惜しんで見納めたと伝わる「大石名残の松」の碑がある。このすぐ前に映えスポットとして知られるきらきら坂があり、店が立ち並んだ坂からの景色がすばらしい。
きらきら坂を登ると、由緒ある式内社、伊和都比売(いわつひめ)神社。海に面した鳥居からは正面に小豆島が見える。境内にはカフェもあるので、ひと息つける。
神社の西側にバス停があり、播州赤穂駅行きのバスが利用できるが、時間があればもう一座、兵庫県で一番低い山・唐船山へ行ってみよう。運河に沿っていったん北上し、元禄橋を渡ったら再び海側へ。兵庫県立赤穂海浜公園の外周となる海岸線を西へ進む。
海岸沿いを西端まで進むと、歩道のきわから細い踏み跡が延びていて、登っていくと兵庫県で一番低い山、標高19mの唐船山(からせんやま)の「山頂」だ。かつて座礁した唐の船に砂がたまってできたという言い伝えがあるが、実際には遠浅の浜に埋もれた陸繋(りくけい)島だそうである。
唐船山からは約1時間で播州赤穂駅に着くが、時間が許せば赤穂城跡や大石神社などに立ち寄るのもよいだろう。
MAP&DATA
参考コースタイム
坂越駅~木戸門跡~西山~亀甲山~南宮山~丸山~向山~赤穂御崎~赤穂海浜公園~唐船山~播州赤穂駅 :約5時間
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