メリノウール製ミッドレイヤーを長距離スピードハイクでテスト! アイスブレーカー/メンズディセンダーロングスリーブジップ

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今月のPICK UP アイスブレーカー/メンズディセンダーロングスリーブジップ [アイスブレーカー]

価格:22,000円+税
重量:350g(Sサイズ メーカー値)

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本来、フリースとは羊毛のこと! 細かい仕様をチェックして、いざ山へ

化学繊維とともに、アウトドア用ウェアには欠かせない素材であるウール。湿っていても暖かく、天然の消臭効果もあり、なにより着心地がいい。そのなかでも高品質で肌当たりが柔らかなメリノウールの製品は、通年でベースレイヤーとして利用されている。だが今回はベースレイヤーではなく、その上に着る「ミッドレイヤー」としてのメリノウールのウェアをピックアップしたい。ニュージーランドの会社、アイスブレーカーの「メンズディセンダーLSジップ」である。

ところで、保温力が期待される現代のミッドレイヤーは、いわゆる「フリース」のような化学繊維が主流で、最近はインナーダウンのような中綿入りのインサレーションも人気である。そんななかで、ディセンダーLSジップのようなウール製のミッドレイヤーは少数派といってよい。

最大の特徴は、裏地を帯状に起毛させていること。アイスブレーカーでは、この素材のことを「リアルフリース」と呼んでいる。じつは今でこそポリエチレンテレフタラート(PET)を原料とした起毛素材のことをフリースと呼んでいるが、この「フリース」という言葉はもともと「羊毛」のこと。だからこそ、同社では本来の意味通り、羊毛を使った起毛素材のことを“リアル”フリースと命名したわけである。

そのリアルフリースの雰囲気がわかるのが、下の写真の右上、帯状に起毛している部分だ。起毛の帯の幅は6~7㎜ほどで、その間には起毛していない部分が3~4㎜ほど。このわずかな高低差によって暖気をためやすくし、同時に起毛部分で汗を効果的に吸い取り、拡散して蒸発させるのだ。また、ディセンダーLSジップはミッドレイヤーとして開発されたウェアではあるが、ベースレイヤーとして肌の上に直接着ることも想定している。その際は、内側の生地が汗ばんだ肌に触れても、この帯状の畝によって張り付きにくくなるという大きなメリットを持っている。

一方で、同じ写真の左下のように、パイル状に織った部分も使われている。これはウェアのサイドにくる箇所であり、少し薄手で伸縮性が高い。体の動きやすさとフィット感が向上し、着心地を向上するのに役立っている。

着心地をアップする試みは、他の部分のディテールにも表れている。ディセンダーLSジップはハイネックのデザインだが、ファスナーの下のフラップには切れ込みが入っている。

わずかなことではあるが、これによって前後左右へ首を動かすときに引き攣れたり、もたれたりする感覚がかなり和らぐ。こういう細かな工夫はうれしいものだ。

ファスナーも気が利いている。引き具の部分にはロック機能があり、引いた後に下に向けると「カチッ」と留まるのである。だから、ファスナーが無用に上がって引っかかることが少なくなり、この上にアウターを重ねても違和感がなく、ストレスが軽減される。

また、上げ切ったときにはフロントファスナーだけではなく、胸ポケットのファスナーも袋状に縫製された部分でガードされる。これにより、他のウェアなどの生地を傷める可能性も少なくなっている。

ディセンダーLSジップのポケットは、胸のほか、左右の裾にひとつずつ。詳しいことは後述するが、このウェアの裾丈はとても長めで、ポケットの位置も低い。正直なところ、少々下に位置しすぎているのだ。手を温めるにせよ、モノを入れるにせよ、少し高い位置にあったほうがより使いやすいように思われる。

ついでにそのポケットをウェアの内側、つまり裏側から見ると、上の写真の左のようになる。ポケットの末端が裾に縫い付けられているため、この部分も内ポケットとして使えなくもない。末端がこのように固定されていると、ウェア内部のもたつきも軽減されるわけで、ディセンダーLSジップのフィット感を向上させるひとつの要因になっているともいえるだろう。

胸ポケットの内側にはメディアコードポートという小穴が設けられている。スマートフォンに接続したイヤホンなどのコードを出すのに便利なディテールだ。

このあたりは、アウトドア用途というよりは、普段使いのことを考慮したデザインかもしれない。

晩秋の奥秩父・和名倉山。ウェアの機能をテストすべく、スピードで日帰り!

さて、僕はウール製の薄手ベースレイヤーを着用し、その上にメンズディセンダーLSジップを重ね、三ノ瀬から歩き出した。目指すは、奥秩父の名峰・和名倉山。日本200名山にも数えられているが、奥秩父主脈から外れた場所にあるために、訪れる登山は少なく、往復するのには一般的に10時間近くかかるといわれている。

11月も半ばになると気温は低く、普通に歩いていると、ほとんど汗はかかない。だが吸汗性などをテストするためには汗ばむくらいのスピードで行動したほうがよいはずだ。同時に休憩をあえて長めにしなければ、汗冷えの程度、言い換えれば保温性の確認は難しい。そのために、僕はそれらのバランスをとり、このコースをスピードと休憩の緩急をつけながら6時間程度で往復しようと思っていた。

当日の気温はわずか3℃ほど。グローブをしないで歩いていると、次第に手がかじかんでくる。そこで僕は袖を伸ばし、袖につけられた小孔、いわゆるサムループに親指を通す。これで袖の先は簡易的なグローブとなり、指先以外は保温される。しかし、この工夫がある分だけ袖は長くなり、人によってはもたれが気になるだろう。

アイスブレーカーはニュージーランドの会社だけあり、ウェアのシルエットはどちらかといえば欧米人向け。多くのアジア人には袖丈が長い可能性が高い。その上で、このサムループの工夫があると、人によっては生地が余り過ぎて着用感が著しく落ちるかもしれない。ちなみに僕は身長177㎝で、この身長の日本人として、手足は少し長めだと思われる。その上で「M」サイズを着用したときが、上の写真だ。もっとも、袖以外に胴体部分にもかなり余裕があったため、「S」サイズでもよかったかもしれないのだが……。

この袖の部分を違う角度から撮影するとこのようになる。さすがに本当のグローブには敵わないが、感覚が繊細な手の甲と平が覆われると、たしかになかなか温かい。

そして、袖を伸ばしていても親指が出ているだけで、荷物の出し入れなどの操作には支障がない。袖のもつれを生じさせるこのディテールには好き嫌いがわかれるが、僕としては「あり」という気がする。

登山道の上で撮影を兼ねて立ち止まっていると、すぐに汗が冷え、肌寒さを感じ始める。さすが晩秋の山である。

だが、この寒さがテストにはちょうどよいので、僕はこの上にソフトシェルジャケットを重ね、ベースレイヤー、ミッドレイヤー、アウターという、教科書通りのレイヤリングに。再び歩き始め、さらに汗ばむようにとスピードを上げて進んでいった。

この“ディセンダー”シリーズにはいくつかの種類があり、そのなかで僕が今回ピックアップしたのは「LSジップ」。LSとは“ロングスリーブ”のことで、フロントが上から下まで開くフルジップタイプである。そのほかに「LSハーフジップ」と、同じくフルジップでフードも付属している「ジップフード」も揃えられている。そのなかで僕が「ディセンダーLSジップ」を選んだわけは、重ね着のしやすさを重視したからだ。

アウターの下にミッドレイヤーとして着ることを考えると、フードがあると邪魔になる。だから僕のミッドレイヤーの好みは、「フードなし」。そして、暑いときにはフロントをすべて開けたいので、ハーフジップではなく、フルジップタイプが使いやすいのだ。このあたりはあくまでも個人の好みである。

ベースレイヤーでも十分使える! 汗離れ、肌触りがよく、保温力も発揮

周囲にはこの山域らしい笹原が広がり、登山道はゆるやかで歩きやすい。

緩やかな登山道ながら、さらにスピードを上げて登っていくと、体感温度は高まっていく。僕は頃合いをみて、内側に来ていた薄手のベースレイヤーを脱ぎ、肌の上にディセンダーLSジップのみを着用することにした。要するに、ミッドレイヤーではなく、ベースレイヤーとしての着心地を試してみるのだ。

もっとも、今回はミッドレイヤーとして着ることを想定し、下に一枚着る前提で選んだサイズ感ゆえに、これ一枚だけで着ると、かなり余裕ができてしまう。肌へのフィット感はイマイチになるのは避けられないが、吸汗性や発散性に関してはある程度はわかるだろう。

ともあれ、肌の上に直接着用し、さらに汗がかくほどのスピードで歩いてみると、汗によってウェアの内側が濡れていくことが実感できる。そのときのウェアの内側の写真が以下のものだ。冒頭に使用したカットと比べると、水分によって濡れていることがなんとなくわかるはずである。しかし帯状に起毛させている効果で、肌に張り付く感じはしない。大昔のウール製品のようにチクチクした感じがしないのも、メリノウールの持ち味だ。

少しすると表面の濡れは吸収され、柔らかな肌触りが復活した。そしてかなり湿っているというのに、同じくらいの厚み、重さの化繊性ミッドレイヤーに比べると、やはり温かいように思われた。ちなみに、アイスブレーカーでは、通常の同社のウールに比べ、リアルフリースの保温力は2倍に達するというデータを算出している。乾燥した化繊のフリースと比べても、1.5倍だという。調子に乗って小走り気味に進んでいると、あまりに暑くなってしまい、途中でソフトシャルジャケットを再び脱ぐことになってしまった。

奥秩父主脈まで登りつめた僕は、それから和名倉山に続く尾根へと足を踏み入れた。はじめに出迎えるのは、リンノ峰。笹原が美しい小ピークである。

その後は、西仙波、東仙波と進んでいく。このころから風は強まり、小雪も舞い始めた。体感温度は軽く零下になっていたはずだ。

ディセンダーLSジップには雪が積もり始めていく。このウェアの生地にはかなりの厚みがあるが、それでも寒風を肌に感じはじめた。

僕は再びソフトシェルジャケットを着込む。それから先は2枚のレイヤードで歩いて行った。

尾根上の分岐から東に進み、和名倉山に到着。いつものように記念撮影をする。

和名倉山の山頂は視界がきかない樹林帯である。地面はそれほど踏み固められておらず、大勢の人が訪れているような雰囲気はない。この日も僕だけでのんびりと長居したくなる。

このように座って休憩をしていると、いやでも自分の腰元に目が行く。

ここに来るまでの休憩中にも気になっていたことだが、ディセンダーLSジップは裾丈が長いので、このようにかがむとどうしても前面がたるんでもたれる。大きく着心地を損ねるわけではなく、座っているときだけの問題だが、この点は少々気になる点だ。

再出発前に立ち上がり、改めて丈の長さをチェックしておく。身長177㎝の僕がMサイズを着ると、このような状態だ。お尻がこれだけしっかりと覆われていると腹部から臀部にかけての保温力は相当なもの。反対に生地をまくり上げてみると寒気を感じるほどなのである。

しかし、この長さは一長一短かもしれない。座るときは汚れやすく、上にアウターを着た場合は裾がいつも外に出ていることになり、雨雪で濡れやすいのだ。お尻まで保温力が高いほうがいいのか、汚れや濡れの恐れが少ないほうがいいのか、難しいところだ。

先ほどまでの小雪は止んだが、天気が崩れる前に下山したほうがよさそうだと、下山を開始する。僕は往路と同じように、ディセンダーLSジップの着心地を確かめていった……。

相変わらず風は強いままだったが、暗くなる前に無事に駐車場へ。かなりのロングコースを駆け抜けるように進み、寒いなりに発汗量も多い山歩きができた。

ウール製のミッドレイヤーであり、着方によってはベースレイヤーとしても活躍するディセンダーLSジップ。保温力や吸汗力、吸湿力はまったく問題ないようである。一着持っていると重宝するだろう。腰のポケットはもう少し上にあると使いやすいとは思うが、これは些細な点だ。また中間着としてはいくぶん重いように感じるが、これだけの保温力があれば当然とも思える。
ほかに要望があるとすれば、もう少し薄手の「リアルフリース」のウェアがあるとよい、ということか。ディセンダーLSジップは晩秋から冬までの寒冷期には使いやすいが、もっと薄手のものがあれば、温暖な時期にも有用だろう。来期以降の新製品に期待したい。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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