オオカミライター、中学生オオカミ博士に挑戦!絶滅種の剥製をめぐる冒険

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

6月16日まで国立科学博物館で開催中の特別展「大哺乳類展3」で公開されているニホンオオカミの剥製は、人知れず収蔵庫にひっそりと眠っていたものだった。絶滅動物を追うライターが、剥製標本を「再発見」した中学生のオオカミ博士に挑戦する。

写真・文=宗像 充

謎解き

「謎が多すぎてどうなるかわからなかった。資料でここまで特定できるとは思ってなかった」

日菜子さんが目を止めた標本の台座の裏には「東京科學博物館」と印字されたラベルに「M831」(Mは哺乳類)という標本番号があった。和名は「ヤマイヌの一種」とある。台座前方にも「38」あるいは「88」と読める剥がされた形跡のあるシールが貼られていた。

日菜子さんは、過去の歴史資料を一つひとつ点検しながら特定していった。記録を見ると当該標本は最終的にM101とM831の2つの標本のどちらかに絞れた。M101については計測値が残っていて、その大きさは当該剥製のほうが明らかに小さかった(肩までの高さで46cm、中型犬と同程度)。このM101は行方不明になっている。消去法で標本はM831になる。

この個体は岩手県で採集された幼獣で、博物館の付属施設だった上野動物園で1888年(明治21年)から飼育されていた2頭のうちの1頭だったことが特定できた。しかし「M831」は台座の番号「38」あるいは「88」とは合わない。

過去の論文や写真を点検して推測すると、骨格標本のはずのM838が「山東省産の剥製」として記載されている時期があったようだ。一方当該剥製のM831は廃棄されたことになっている。そしてM101が行方不明で、当該標本にM838のシールがあったため、どうも博物館ではM831のほうが廃棄されたと考え、そう記載した。そして台帳では中国製となっていたため、この剥製を「山東省産の剥製」と誤認した。これが、M831がニホンオオカミと認識されてこなかった理由のようだ。

取材を申し込んで2年もかかったのもうなずけた。日菜子さんも苦闘を振り返る。

「今回、東京国立博物館に保管されていた動物録などをマイクロフィルムであたったので特定できました。家の中で見つけたものじゃない。自由研究のように形態を中心に考えただけだと主観が入った」

動物録ほか多くの史資料を渉猟した
動物録ほか多くの史資料を渉猟した
NEXT まぼろしのニホンオオカミ
1 2 3 4

プロフィール

宗像 充(むなかた・みつる)

むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。

Special Contents

特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

編集部おすすめ記事